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走流家
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■□■□
「あのね、パパ。この間連絡もなしに朝に帰ってきたんだけどどう思う?酷いよね!私ご飯作って待ってたのにー」
むぅっと頬を膨らませながら、木陰は私たちに愚痴る。
放課後、私は友達の夏目木陰と海月花蓮と宗形夕日と高校近くのカフェでお茶をしていた。
今日は主に木陰の父親・四十郎さんについての話だった。
「それでね、パパ。腰引きずって歩いてて…」
「は…?腰引きずって…?」
木陰の言葉に、花蓮はぴしりと固まる。
「それはむはむはしますな、木陰殿」
鼻息荒く話に食いつくのは、私たちの中で一番髪が短いおかっぱの少女。
男同志の恋愛が好きなわが友、宗形夕日。
彼女は何もないところからもひたすら妄想するという恐ろしい妄想兵器だ。
「それでそれで…」
「えっと、私がどうしたのって言ったら、疲れたから寝るって。
私だってパパ待ってて疲れてるのに、私無視して寝ちゃったんだよー酷くない?」
「ははは、木陰ちゃん。それはもう仕方ないのだよ。
パパはもうやられちゃいましたね。はい。
ドロドロにやられちゃったんですよ。朝まで。
もう男にずっこんばっこんやられ」
「天誅」
卑猥な言葉を吐こうとしていた夕日に花蓮からのチョップという熱い天誅が下された。
「下品な言葉を吐くのはやめなさい」
「むぅ。相変わらず厳しいのぉ。花蓮殿ぉ」
「私は夕日と違って、男同士の恋愛に興味ないの…。どちらかといえば嫌い。
特に年下の男はとくに」
ばっさりという花蓮。花蓮らしいものいいに、夕日はぐしゃり、と机に突っ伏す。
「き、キライー?腐女子として悲しいですぞー。ううー。年下攻め萌えるのにー。
じゃ、じゃあもしですぞ。
花蓮殿のお父上が恋人として、男の恋人連れて来たらどうする?
超愛しあっているのに反対するのかね?ええ?」
「それは…、しないけど…」
もごもご…と、花蓮は口ごもる。
花蓮がちょっと男同士の恋愛に否定的なのは仕方ない事だ。
夕日が男同士の恋愛好きで、木陰はちょっと天然なので花蓮は私にしか打ち明けていないが、男同志の恋愛にトラウマがある。
昔、仲良くしていた男に父親が襲われた現場を生で見たことがあるらしい。
それも、嫌がる父親に無理やりしかも花蓮が見ている前で…らしく男同士の濡れ場を幼い頃に見させられた花蓮はちょっと潔癖症だ。
花蓮の父親はちょっと気が弱くてぽやーんとしているため、花蓮の方がしっかりしていたりする。
「愛があれば…、だけど…。私は愛がないのは許さない。ただ自分の欲望をぶつけるだけの人間なんて、死んでも嫌」
花蓮はそういって、頼んでいた珈琲に口をつけた。
「拉致監禁とか、無理やりからの身体からの愛とか」
「却下」
「うぅ、ここのファザコンも手ごわそうじゃのぉ…。花蓮のお父上の相手は大変そうなのじゃ…」
というか、相手が男限定の話なのか…。
心の中でひっそりと思っていたところで、がばっと夕日が顔をあげる。
「響ねーさんは?」
「え?」
「お父さんの相手。どんな人がいいの?響ねーさんのお父さんも一人やもめだったよね?」
私に話しを振る夕日の目がキラキラと光る。
その瞳は…キラキラと無垢な子供の様。同じように夕日の隣に座っていた木陰も純真無垢な瞳をこちらに向けている。
「私も…愛があれば…いいかな…」
「男同士でも?」
「いや…うーん。わかんないなぁ。そもそも、お父さんだよ?滅多にうちによりつかないし、ふらふらしているし、どこでなにやってんだかわかんない人なのに、恋人なんて…」
あんなお父さんに恋人なんてできるんだろうか。
朝恋人作れなんて言ったけど、実際作るの難しい気もする。
ふらふらしてつかみどころない人だから。
恋人になれば違うのかな。
「ミステリアスでいいじゃないか。男前だし…。決めた、次の新作は男前なハードボイルドが送る、愛とサスペンスストーリーにするー」
夕日は一人嬉々として、ノートを取り出しなにか書き出していく。
花蓮は呆れた目でそれを見つめ、木陰は何故かわくわくとした目で夕日を見つめていた。
そんなまったりとした放課後。
その後、あんなことが起きるなんて予想だにしていなかった。
日も傾き、すっかり闇夜になった午後7時。
鞄から鍵を取り出し家の鍵をあけようと鍵穴に鍵をいれようとする。
「あれ…?空いてる…?」
家のドアは鍵が降りていて空いていた。
この時間に父が帰っているのは珍しい。
仕事早く終わったんだろうか。
対して気にも留めずドアノブを回す。
すると中から見ず知らずの複数のスーツを着た人相の悪い男たちが現れて…
「え…」
「…捕まえろ。手荒な真似はするな。丁重にな…。」
一人の男がそう言い放ち、男たちは一斉に私の元へ近づく。
逃げなきゃ…、と駆け出すが、私は男に腕を取られ白い布のようなものを口元に充てられた。
「おと…さん…」
私、殺されちゃうのかな?殺されちゃったらお父さん、一人になっちゃわないかな。
大丈夫かな。
そんなことを想いながら、私の意識はなくなっていった。
次に目覚めた時、私の世界は一変していた。
広い見知らぬ部屋。どこまでも広い部屋は、どこかの豪邸のよう。私たちが住んでいた部屋が何個分入るのか…疑問に思うほどの広さ。床は大理石のようで、天井には高そうな装飾の照明。豪華ホテルをも超えるその室内に息を飲む。
どこまでも続く白い壁。高そうな調度品。
この部屋全体で一体どれくらいお金をかければ作れるのだろうか…。
ぐるぐるに縄で縛られて、口にはガムテープをされ床に転がされている私。
そして…、同じように拘束されているお父さんがいた。
「――んんんーーー」
お父さん、と言いたいのに口にされたガムテープのせいでくぐもった声しか出せない。
これからどうなってしまうのか怖くてガタガタと震えてしまい、私はお父さんに助けを求めることしかできなかった。
私たち前には黒い服を着たいかつい大男。その後ろにはその大男の周りを守っているかのように何人ものスーツの男がいた。
お父さんは悲しげに私を見とめた後、視線を上にやってやや上目線がちに目の前に立っている相手を睨みつけた。
「そんな風に睨みつけても、誘っているようにしかみえないけどな…。光」
お父さんに睨まれた男は…、そういって拘束されて地面にはいつくばることを余儀なくされたお父さんに鼻で笑った。
死神、だ。
男を見て、そう思った。
お父さんよりも大きくいかつい肩幅。鋭すぎるその眼光は、人一人は殺しているように恐ろしい。見つめられれば、その鋭利な視線に動けなくなってしまう。
薄い軽薄に見える唇。ビッチリ固められたオールバックな髪型。
ヤクザ、みたい。
ただのチンピラじゃない。その風圧は威厳があり、その余裕からは幹部クラスであると推測される。現に男の傍に何人もの舎弟のような黒服が男と父を見守っているのだから。
そのスーツもぴったりと身体にあっていた。オーダーメイドの品だろう。
がっちりとした肩幅に、長い手足。逞しい男らしい身体。
うっすらと床に這いつくばる父を見て男の唇が緩やかに弧を描く。
「随分俺のペットの分際で逃げてくれたじゃねぇか…?でも…」
「ぐ…、」
お父さんの髪の毛をわしづかみにし、顔をあげさせる。
痛みに顔を顰めたお父さんに男は
「見つけたぜ・・・光――」
そういいながら、顔を近づけた。
ヤクザみたいな怖そうな男なのに。お父さんは少しも視線を逸らさずに男を睨みつける。
男に対して怒っているんだろう。いつにもまして眉間の皺が酷い。
「…いいな、その顔。ゾクゾクする…」
「ぐ…、」
お父さんの苦しげな顔を見て、満足そうに笑う。
「これからお前を飼えるかと思うとゾクゾクする…。
散々逃げ回った仕置きをしないとなぁ…」
男はそういって、父の耳元に顔を寄せた。
「つかの間の自由はどうだったかい?」
「…―――ぐーーーー」
「お前との鬼ごっこも悪くなかったけどな…。お前を隠したあのいけ好かない男には苛々させられたが…。
お前も馬鹿だなぁ。一つの場所に留まったら俺が追いかけるってわかっていただろうに。
娘なんか捨てて一人海外にでもいけばよかったのにな…。そんなに娘といたかったのか?
それとも捕まえてほしかったのか?」
「――――」
お父さんは唸るのを辞めて、男をキッと睨む。
私といたかったから…?どういう、こと…?
尋ねたいのに、尋ねられない。
男はお父さんの顎もとに手をかけて、無理やり顔をあげさせた。
「それとも、娘がそれほど大切か…?」
私の方へついっと視線を流す男。
私はその視線に恐怖に固まり、お父さんは四肢をロープで縛られているのにじたばたと暴れる。
「仕方ネェから声聞かせてやるよ」
男は控えていた部下に命令させて、私の口についたガムテープを外させる。
こちらのことも考えずにびりっと勢いよくガムテープを引きはがされたけど、そんなの関係ない。
「お父さん、お父さん」
私はそれ以外言葉を忘れてしまったかのようにお父さんを呼んだ。
「悪いな。嬢ちゃん。お前のお父さんは俺のものなんだよ…」
「お父さんが…」
「こいつはな…、ずっと俺のもんだったんだ。数年間は自由にさせていたけどな…」
男がお父さんの、もの?
どういう、こと。
〝俺は死神に狙われているんだ〟
私は何も知らない。お父さんの事。
でも、この人が昔お父さんが言っていた死神だ。
直感的にそう思った。
「…―――して…」
「あ?」
「お父さんを…返してください」
怖い。
でも、男を怖と思うよりもお父さんを失う事の方が怖かった。
この男が、お父さんが言う〝死神〟なら。
この死神はお父さんの不幸を願っているのだから。
最悪、殺されてしまうかもしれない。私も、お父さんも。
「貴方のような人に父は渡せません…私は…」
怒らせたら殺される。そんな恐怖もあったけれど、口が止まらない。
身体は相変わらず震えが止まらなかったけれど、私もお父さん床に転がされたまま同様男を睨みつけた。
「ほぉ…じゃあ…お父さんを僕に下さいとでも土下座していえば満足かい…?嬢ちゃんよ…?」
男は鋭く眼光を光らせながら、くつくつとせせわらった。
「あのね、パパ。この間連絡もなしに朝に帰ってきたんだけどどう思う?酷いよね!私ご飯作って待ってたのにー」
むぅっと頬を膨らませながら、木陰は私たちに愚痴る。
放課後、私は友達の夏目木陰と海月花蓮と宗形夕日と高校近くのカフェでお茶をしていた。
今日は主に木陰の父親・四十郎さんについての話だった。
「それでね、パパ。腰引きずって歩いてて…」
「は…?腰引きずって…?」
木陰の言葉に、花蓮はぴしりと固まる。
「それはむはむはしますな、木陰殿」
鼻息荒く話に食いつくのは、私たちの中で一番髪が短いおかっぱの少女。
男同志の恋愛が好きなわが友、宗形夕日。
彼女は何もないところからもひたすら妄想するという恐ろしい妄想兵器だ。
「それでそれで…」
「えっと、私がどうしたのって言ったら、疲れたから寝るって。
私だってパパ待ってて疲れてるのに、私無視して寝ちゃったんだよー酷くない?」
「ははは、木陰ちゃん。それはもう仕方ないのだよ。
パパはもうやられちゃいましたね。はい。
ドロドロにやられちゃったんですよ。朝まで。
もう男にずっこんばっこんやられ」
「天誅」
卑猥な言葉を吐こうとしていた夕日に花蓮からのチョップという熱い天誅が下された。
「下品な言葉を吐くのはやめなさい」
「むぅ。相変わらず厳しいのぉ。花蓮殿ぉ」
「私は夕日と違って、男同士の恋愛に興味ないの…。どちらかといえば嫌い。
特に年下の男はとくに」
ばっさりという花蓮。花蓮らしいものいいに、夕日はぐしゃり、と机に突っ伏す。
「き、キライー?腐女子として悲しいですぞー。ううー。年下攻め萌えるのにー。
じゃ、じゃあもしですぞ。
花蓮殿のお父上が恋人として、男の恋人連れて来たらどうする?
超愛しあっているのに反対するのかね?ええ?」
「それは…、しないけど…」
もごもご…と、花蓮は口ごもる。
花蓮がちょっと男同士の恋愛に否定的なのは仕方ない事だ。
夕日が男同士の恋愛好きで、木陰はちょっと天然なので花蓮は私にしか打ち明けていないが、男同志の恋愛にトラウマがある。
昔、仲良くしていた男に父親が襲われた現場を生で見たことがあるらしい。
それも、嫌がる父親に無理やりしかも花蓮が見ている前で…らしく男同士の濡れ場を幼い頃に見させられた花蓮はちょっと潔癖症だ。
花蓮の父親はちょっと気が弱くてぽやーんとしているため、花蓮の方がしっかりしていたりする。
「愛があれば…、だけど…。私は愛がないのは許さない。ただ自分の欲望をぶつけるだけの人間なんて、死んでも嫌」
花蓮はそういって、頼んでいた珈琲に口をつけた。
「拉致監禁とか、無理やりからの身体からの愛とか」
「却下」
「うぅ、ここのファザコンも手ごわそうじゃのぉ…。花蓮のお父上の相手は大変そうなのじゃ…」
というか、相手が男限定の話なのか…。
心の中でひっそりと思っていたところで、がばっと夕日が顔をあげる。
「響ねーさんは?」
「え?」
「お父さんの相手。どんな人がいいの?響ねーさんのお父さんも一人やもめだったよね?」
私に話しを振る夕日の目がキラキラと光る。
その瞳は…キラキラと無垢な子供の様。同じように夕日の隣に座っていた木陰も純真無垢な瞳をこちらに向けている。
「私も…愛があれば…いいかな…」
「男同士でも?」
「いや…うーん。わかんないなぁ。そもそも、お父さんだよ?滅多にうちによりつかないし、ふらふらしているし、どこでなにやってんだかわかんない人なのに、恋人なんて…」
あんなお父さんに恋人なんてできるんだろうか。
朝恋人作れなんて言ったけど、実際作るの難しい気もする。
ふらふらしてつかみどころない人だから。
恋人になれば違うのかな。
「ミステリアスでいいじゃないか。男前だし…。決めた、次の新作は男前なハードボイルドが送る、愛とサスペンスストーリーにするー」
夕日は一人嬉々として、ノートを取り出しなにか書き出していく。
花蓮は呆れた目でそれを見つめ、木陰は何故かわくわくとした目で夕日を見つめていた。
そんなまったりとした放課後。
その後、あんなことが起きるなんて予想だにしていなかった。
日も傾き、すっかり闇夜になった午後7時。
鞄から鍵を取り出し家の鍵をあけようと鍵穴に鍵をいれようとする。
「あれ…?空いてる…?」
家のドアは鍵が降りていて空いていた。
この時間に父が帰っているのは珍しい。
仕事早く終わったんだろうか。
対して気にも留めずドアノブを回す。
すると中から見ず知らずの複数のスーツを着た人相の悪い男たちが現れて…
「え…」
「…捕まえろ。手荒な真似はするな。丁重にな…。」
一人の男がそう言い放ち、男たちは一斉に私の元へ近づく。
逃げなきゃ…、と駆け出すが、私は男に腕を取られ白い布のようなものを口元に充てられた。
「おと…さん…」
私、殺されちゃうのかな?殺されちゃったらお父さん、一人になっちゃわないかな。
大丈夫かな。
そんなことを想いながら、私の意識はなくなっていった。
次に目覚めた時、私の世界は一変していた。
広い見知らぬ部屋。どこまでも広い部屋は、どこかの豪邸のよう。私たちが住んでいた部屋が何個分入るのか…疑問に思うほどの広さ。床は大理石のようで、天井には高そうな装飾の照明。豪華ホテルをも超えるその室内に息を飲む。
どこまでも続く白い壁。高そうな調度品。
この部屋全体で一体どれくらいお金をかければ作れるのだろうか…。
ぐるぐるに縄で縛られて、口にはガムテープをされ床に転がされている私。
そして…、同じように拘束されているお父さんがいた。
「――んんんーーー」
お父さん、と言いたいのに口にされたガムテープのせいでくぐもった声しか出せない。
これからどうなってしまうのか怖くてガタガタと震えてしまい、私はお父さんに助けを求めることしかできなかった。
私たち前には黒い服を着たいかつい大男。その後ろにはその大男の周りを守っているかのように何人ものスーツの男がいた。
お父さんは悲しげに私を見とめた後、視線を上にやってやや上目線がちに目の前に立っている相手を睨みつけた。
「そんな風に睨みつけても、誘っているようにしかみえないけどな…。光」
お父さんに睨まれた男は…、そういって拘束されて地面にはいつくばることを余儀なくされたお父さんに鼻で笑った。
死神、だ。
男を見て、そう思った。
お父さんよりも大きくいかつい肩幅。鋭すぎるその眼光は、人一人は殺しているように恐ろしい。見つめられれば、その鋭利な視線に動けなくなってしまう。
薄い軽薄に見える唇。ビッチリ固められたオールバックな髪型。
ヤクザ、みたい。
ただのチンピラじゃない。その風圧は威厳があり、その余裕からは幹部クラスであると推測される。現に男の傍に何人もの舎弟のような黒服が男と父を見守っているのだから。
そのスーツもぴったりと身体にあっていた。オーダーメイドの品だろう。
がっちりとした肩幅に、長い手足。逞しい男らしい身体。
うっすらと床に這いつくばる父を見て男の唇が緩やかに弧を描く。
「随分俺のペットの分際で逃げてくれたじゃねぇか…?でも…」
「ぐ…、」
お父さんの髪の毛をわしづかみにし、顔をあげさせる。
痛みに顔を顰めたお父さんに男は
「見つけたぜ・・・光――」
そういいながら、顔を近づけた。
ヤクザみたいな怖そうな男なのに。お父さんは少しも視線を逸らさずに男を睨みつける。
男に対して怒っているんだろう。いつにもまして眉間の皺が酷い。
「…いいな、その顔。ゾクゾクする…」
「ぐ…、」
お父さんの苦しげな顔を見て、満足そうに笑う。
「これからお前を飼えるかと思うとゾクゾクする…。
散々逃げ回った仕置きをしないとなぁ…」
男はそういって、父の耳元に顔を寄せた。
「つかの間の自由はどうだったかい?」
「…―――ぐーーーー」
「お前との鬼ごっこも悪くなかったけどな…。お前を隠したあのいけ好かない男には苛々させられたが…。
お前も馬鹿だなぁ。一つの場所に留まったら俺が追いかけるってわかっていただろうに。
娘なんか捨てて一人海外にでもいけばよかったのにな…。そんなに娘といたかったのか?
それとも捕まえてほしかったのか?」
「――――」
お父さんは唸るのを辞めて、男をキッと睨む。
私といたかったから…?どういう、こと…?
尋ねたいのに、尋ねられない。
男はお父さんの顎もとに手をかけて、無理やり顔をあげさせた。
「それとも、娘がそれほど大切か…?」
私の方へついっと視線を流す男。
私はその視線に恐怖に固まり、お父さんは四肢をロープで縛られているのにじたばたと暴れる。
「仕方ネェから声聞かせてやるよ」
男は控えていた部下に命令させて、私の口についたガムテープを外させる。
こちらのことも考えずにびりっと勢いよくガムテープを引きはがされたけど、そんなの関係ない。
「お父さん、お父さん」
私はそれ以外言葉を忘れてしまったかのようにお父さんを呼んだ。
「悪いな。嬢ちゃん。お前のお父さんは俺のものなんだよ…」
「お父さんが…」
「こいつはな…、ずっと俺のもんだったんだ。数年間は自由にさせていたけどな…」
男がお父さんの、もの?
どういう、こと。
〝俺は死神に狙われているんだ〟
私は何も知らない。お父さんの事。
でも、この人が昔お父さんが言っていた死神だ。
直感的にそう思った。
「…―――して…」
「あ?」
「お父さんを…返してください」
怖い。
でも、男を怖と思うよりもお父さんを失う事の方が怖かった。
この男が、お父さんが言う〝死神〟なら。
この死神はお父さんの不幸を願っているのだから。
最悪、殺されてしまうかもしれない。私も、お父さんも。
「貴方のような人に父は渡せません…私は…」
怒らせたら殺される。そんな恐怖もあったけれど、口が止まらない。
身体は相変わらず震えが止まらなかったけれど、私もお父さん床に転がされたまま同様男を睨みつけた。
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