6 / 11
人魚の涙
・
しおりを挟むバハロが、シャルルの父を殺し、王として君臨して数年。
その間、バハロはシャルルを嬲りものとし、月日を空けず、その身体を陵辱した。
いまや、その身体はシャルルの意を反して男を受け入れ喜ばせる身体になってしまったし、男のものを挿れられれば演技ではない甘い声も出るようになった。
アナルのいいところを抉られれば、反抗したい心を裏切って気持ちがよくなってしまうし、ぺニスを刺激されるよりももっとずっと抗えぬ快感に支配される。性に疎かったシャルルであったのに、今では娼婦のように身体を開けば淫らに反応を示す。
昔は騎士団として鍛えていた身体も、現在は城にいる間はほとんど男たちに抱かれており、あいた時間は泥のように眠っているため、鍛える時間もなく筋肉は数年前より格段に落ちてしまっていた。
抱かれるのはかなりの頻度であったため、もし、シャルルが女であったのならば、今頃その激しい行為に子でも孕んでいたかもしれない。
鏡に映るのは、いまやほっそりとした華奢な身体である。元々、肉がつかない体質であったが、ここ数年は心労でうすっぺらい身体になった。
騎士団にいるときは、誰もが憧れる凛々しい騎士であったのに、今は男らしくもなくまた完璧に女の者でもない不思議な色気を纏っている。
淫靡いんびでいて、でもどこか背徳的な。
時折、気だるげに吐息を吐く、その姿は、男たちの欲をどれだけ煽るものか、シャルル本人は知っているのだろうか。
表情のない、まるでカラス細工のような美しいお姫様。
そのお姫様をみだらな顔をさせ、自分の者で汚したいと思う男がどれほどいるか。
国を手に入れたバハロが、この国の統治者になって王のまねごとをして、早十年近く。
バハロはけして飽きることなくシャルルを自身の隣に置き、その身体を自由にしてきた。
シャルルはバハロだけに抱かれてきたわけではない。国を手に入れたバハロは、いかにシャルルを傷つけることができるかを楽しみにしており、その責め苦は日々飽きることなく、少しずつ酷いものになっていった。
シャルルが酷い責め苦に反応をしなくなっても、なお、それらは終わることはなかった。
無数の男たちの手で、競うように抱かれたことも有れば、人でない獣の生殖器を受け入れたことすら、ある。
夜中、バハロのペニスをアナルにいれたまま、犬のように四つん這いになって、城下を歩いたこともある。
場所や体調などを気遣わず、シャルルを苛むバハロ。
城下で、バハロに抱かれたシャルルをみてしまった民もいる。
けして、抵抗もせずにバハロのなすがまま、男の欲を受け入れているその姿は、かつて剣を震い国民に尊敬のまなざしを受けていた王子の姿ではなかった。
浅ましく、略奪者にこび、尻を振るその姿は悪魔に魂を渡した淫乱そのものだった…何人か、情事を見てしまった国民はいう。
勇ましく、凛々しく民を思う精悍な海の加護をもつ王子はいない。いまいるのは、命惜しさに家族さえも殺した男に尻を振る淫乱だけだ…と。
王族の中で、シャルルだけが生き残り、国を侵略した憎い筈の男バハロとともにいる。
本当に国を思う王族なのなら、たとえ差し違えても、国を滅亡させた男などいるはずがない。
なのに、シャルルは、生きながらえている。
それは、両親や兄弟、民を殺された憎しみなどよりも殺される恐怖心を上回ったから、シャルルはその美貌でバハロを陥落させたのだ。
何も知らぬ一部の国の民は、シャルルが命乞いの為に身体を差しだして、生きながらえている、と思いこんでいた。
バハロの下で王子であったときと同様、それ以上に贅沢をし、今の生活に甘んじている…と。
海の加護がある人魚であるはずなのに、バハロのいいようにさせているのは、つまり、そういうことだ…と。
バハロがくる前、民に慕われ憧れでもあったシャルルは、有りもしない噂のせいで、今やほとんどの民に恨まれ嫌悪されていた。
バハロと同様、いや、それまでの信頼があった分それ以上かもしれなかった。
いまや、シャルルの味方はどこにもいない。
城にも。
そして、国にも。
(…だれも、助けなど…求められない。
もはや、今のオレには…)
煌びやかな場内に集まった、バハロが招待した飢えを知らぬ、資産家達。何十人といるのに、皆シャルルをぎらぎらした瞳で見つめるだけで、助けようという者は一人もいない。
「シャルル」
バハロの呼ぶ声に表情ひとつかえず、バハロの元へ近寄った。
あまりにゆったりとした歩調に、バハロの隣、ぶくぶくに太った油の乗った白髪交じりの男がイライラとした口調で
「…おい、王子よ…。はやくこぬか…ああ。元王子だったな…」
とせかす。
(…ヒルデルト…。忌々しい王家を裏切ったぶため…)
バハロの隣で偉そうにふんぞりかえる、バハロの側近の男が視線に入ると、普段涼しげな顔をしているシャルルの瞳が一瞬、鋭く燃え上がった。
「…はは、シャルルよ、王家を裏切った者にそのような言葉を吐かれるのは、今でも屈辱か?」
「いえ…、そのようなことは…」
言葉とは裏腹のことを言うのはもう、この数年で慣れたもので。
本当は、斬りつけたいほどに、バハロの隣にたつこの国を裏切った男とバハロを憎んでいるのだが、それはおくびにもだすことはなかった。
「お前の為に今日も沢山客人を呼んでやったというのに、隅でつったって客人を放っておくなんて…、失礼だろう?」
シャルルがバハロの横に並ぶと彼の細い肩を強引に掴んで己の身体へと引き寄せる。
シャルルの細い身体では、バハロが少し力を入れてしまえばすぐに引き寄せられてしまう。
ぴったりと、体温を感じるほど密着する距離に、表情には出さないものの、嫌悪感で吐き気がした。
「シャルル…」
呼ぶ名とともに、顎元をすくわれて、顔を近づけられる。
それを合図にシャルルも瞳を閉じた。
唇を重ねる相手が、憎むべきものだという事実を見なくていいように、キスをされそうな時はいつだって、瞳を閉じて何も見えなくしてしまう。
(初めてのキスの時は…ずっと開けていたのにな…。あいつとのキスは…。
キスを仕掛けたのはあいつだというのに、オレの視線に恥ずかしいといって…)
憎い男に口づけられて、思い出すのは初めてのキス。
まるでぶつけたような、下手くそな無理やり仕掛けられたキスであったけれど、シャルルの中ではとても大切な思い出として色あせぬことなく残っている。
心が折れてしまいそうな時、その思い出を思い出しては、もうその人は傍にいないのに慰められた気持ちになる。
愛しくて、誰よりも傍にいたい人。
自分よりも年は下で、やんちゃで活発的な男。
人とは違うこの人魚の身体を知られたくなくて人との接触は避けてきたのに、その男だけはどれだけ拒絶しようとシャルルの傍にいた。
初めてのキスも、もう随分と昔のことだ。
あの時と、今とでは、大きく変わってしまっている。
初めてのキスを重ねた相手はもう、死んでしまった。いや、正確には、生きているかもわからない…だが。
「客人よ。これが、我が至宝。
そして、神の化身であり、我が妻。
シャルルだ」
シャルルから唇を離すと、バハロはまるで我がことのように高慢に言い放ち、シャルルの頬に、己の頬をあわせる。
頬をすりよせて、シャルルの頬の柔らかさを堪能しながら、
「どうです?この美しい顔。
澄んだ瞳。これぞ、神に愛された人魚の証。
いまや伝説的ともなった、神の加護あるもの…。
こんな綺麗な瞳、見たことがありますかな…?」
周りの客人に見せつけるように言い、バハロはシャルルの前髪をかきあげた。
さらり…と金の髪から、美しい蒼の瞳が覗く。
シャルルの瞳は今は感情が見えないが、目を奪われるほどの美しい海の色をしている。
まるで瞳に宝石を散りばめたようにその瞳は澄んでいる。
その瞳を見てしまえば、どんな豪華な宝石でさえ、色あせてしまうだろう。
客人はシャルルの瞳を見て、その綺麗な海の色にごくり…と唾を飲み込んだ。
「いまは瞳は、このような涼しい色をしておりますが、閨などは違いますぞ。
その瞳は情欲がともり、男のものを泣いて喜ぶ娼婦となるのです…。
淫乱な娼婦に…ね…」
バハロの傍らにいた側近の男、ヒルデルトは厭らしい顔で、笑う。
先ほどはヒルデルトの言葉に一瞬、反応しかけたシャルルであったが、今はもう何の反応もしめすこともなく、何の感情も示さず、無表情でバハロの隣にたっていた。
シャルルは、今日は大きなスリットが入ったエメラルド色のドレスを着せられていた。宝石を散りばめた美しいドレスであり、シャルルの美しさをより引き立たせていた。
バハロが傍らにいたシャルルの太股を撫でれば、すぐにスリットから素肌が露わになる。
シャルルの絹のようになめらかな肌が露わになった瞬間、おお…とどよめきが起こった。
「これは…これは…」
「こんな綺麗なので、実際、美しいご令嬢かと思いましたが…」
ぎらついた視線で見つめながら、客人たちは鼻息は荒くまくしたてる。
シャルルのドレス下はなにも身につけていなかったようで、バハロがスリットをなで上げれば無防備な陰部が露呈された。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】偽装結婚の代償〜リュシアン視点〜
伽羅
BL
リュシアンは従姉妹であるヴァネッサにプロポーズをした。
だが、それはお互いに恋愛感情からくるものではなく、利害が一致しただけの関係だった。
リュシアンの真の狙いとは…。
「偽装結婚の代償〜他に好きな人がいるのに結婚した私達〜」のリュシアン視点です。
冬は寒いから
青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。
片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。
そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。
「二番目でもいいから、好きになって」
忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。
冬のラブストーリー。
『主な登場人物』
橋平司
九条冬馬
浜本浩二
※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。
鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。
死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。
君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる