Paradia Quest

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一章

第一話

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「マズイ…。城がもたないぞ⁉」
1人の兵士が周りの味方達に聞こえるように声を荒げる。
「サヤカ!このまま戦い続けてもらちが明かない!一気に召喚獣を叩くぞ!」
サヤカ「了解!」
サヤカと呼びかけた男は黒い煙が立ち込める空に浮かぶ巨大な竜めがけて走り出す。
刹那、空に浮かぶ竜は、天に顔を上げ、大きく口を開いた。
サヤカ「フリーク!まずいよ、またさっきの攻撃をしてくる」
フリーク「あぁ見りゃわかるよ!あれを喰らったら城はもう持たねぇッ!」
サヤカ「私が先に行く!」
フリーク「おい待て!」
フリークの言葉を振り切り、サヤカは建物を軽々と飛び継ぎしあっという間に竜の頭上まで飛んだ。
サヤカ「カース・オブ・オウガ…」
竜の口を中心に巨大な火球が完成し、放たれようとしている。
サヤカ「エポーハ!!!」
竜が火球を放つ瞬間、サヤカの剣が竜を頭上から貫く。
それにより竜はバランスを崩し、火球は城から大きく逸れた。
サヤカ「やった!」
フリーク「よし!」
直後、城の奥から激しい爆風が押し寄せる。
フリーク「まずい…⁉」
爆風により兵士の大半が吹き飛ばされてしまった。
フリーク「俺の後ろに隠れろ!」
フリークは盾を構え、スキルを発動させる。
フリーク「バーバリアンアインス!」
刹那、巨大な壁が現れフリークたちを爆風から守る。
サヤカ「きゃーーーーー!!」
上空にいたサヤカは爆風で吹き飛ばされる。
フリーク「サヤカ!!」
竜の咆哮がフリークの声をかき消す。
こうして人類は竜との闘いに負け、世界は—

日本、東京—。
「フリーク様、お疲れ様でした。ログアウトします。」
惇「ふぅ、やっぱマスタークラスの竜ともなると手強いな。装備見直すか。」
頭に装着されたVRを外し、氷の解けたお茶を飲み干す。
惇「しっかしサヤカの奴大丈夫だったかな。次ログインしたとき合流出来っかな。一応連絡入れとくか。」
そう言うと、机のスマホを取りサヤカにメッセージを送る。
惇『サヤカお疲れ!あの竜やばかったな。お前どこまで吹き飛ばされた?次のログインの時そこまでテレポートするから場所教えてくれ!』
惇「これでよしっ!」
メッセージを送信すると、彼の体も一つやりきったように共鳴してお腹が鳴る。
惇「腹減ったな~、コンビニ行くか。」
それから一週間経ったがサヤカからの返信は未だ来ていない。

フリーターの神谷翔真はいつもと変わらない土曜日の正午に目を覚ます。
カーテンの閉め切った薄暗い部屋。
翔真「腹減ったな~。金いくら残ってっかな~。」
神谷翔真22歳。フリーター、一人暮らし。貯金は…もちろん無い。毎日生きるのに必死である。家にご飯が無いか漁っているとスマホが鳴り出す。今出ますよと言いながら急ぐ素振りもなくゆっくりスマホを取る。電話の主はバイト先の店長からだった。
翔真「はい、もしもしお疲れ様です。」
店長「神谷君その声はまさか寝起きじゃないだろうね?」
翔真「すごいっすね店長!大正解ですよ!いま起きたばっかで朝飯探してました。」
店長「すごいっすねじゃないよ!!!」
電話越しに突然店長が怒鳴りだす。
店長「君自分のシフト確認してないのかい?もう二時間も遅刻だよ!これで何回目かね」
店長の突然の大声にビックリし一気に目が覚める。
翔真「すいません!すぐ行きます!」
店長「もういいよ!君はクビだ!」
そう言い残すと通話は切られた。スマホを見ると二時間前から着信が10件も溜まっていた。
もちろん全て店長からだった。
翔真「やっべぇ、これじゃ来月からの支払いどうするんだよ。先月分のガス代だって払わなきゃ出し…。」
薄い壁越しに隣の部屋まで聞こえるのではないかというほどのでかい溜息をつく。
しばらく後、また翔真のスマホに着信が来る。
翔真「!?店長やっぱクビ取り消してくれるとかかな!」
期待を胸に、今度は足早にスマホを手に取る。しかし、その期待はすぐに打ち砕かれた。
画面を見ると、着信主は母親だった。2年前、勢いだけで家を飛び出し自信に満ち溢れていたあの頃とは真逆の生活を送っている今の姿を見せられず、2年間一度も実家に帰ったことが無かった。向こうからも心配の連絡の一つもなく疎遠になっていた親からの突然の連絡に、一瞬驚く。何せ2年ぶりの連絡だ、よほどのことなのだろう。恐る恐るスマホを耳に当て口を開く。
翔真「もしもし…。」
母親「翔真!大変なの!」
二年ぶりに聞いた母親の声はちっとも変ってなかった。が、いつも話していたテンションとは明らかに声のトーンが違った。
母親「沙也加が…。沙也加が、」
声が震えていてうまく聞き取れなかった。
翔真「母さん落ち着いて。一体どうしたの?」
翔真の声に一瞬安心し、少し落ち着いた声で母親が話す。
母親「沙也加が、一週間目を覚まさないの…」
どういう意味なのか全く理解できず、翔真は頭が真っ白になった。
沙也加とは、翔真と4つ歳の離れた妹である。
母親の話によると、沙也加は一週間前の夜、最近流行っているVRオンラインゲーム『パラディア』をいつものように仲のいいメンバーと遊んでいたという。しかし、次の日の朝になっても一向に部屋から出て来ず、母が心配になり部屋を覗くと、沙也加はVRゴーグルを着けたまま意識を失っていたという。最初は寝ているだけかと思っていたらしいが、それから数日経っても沙也加は身動き一つ取らず目を覚まさないという。
母親「今は近くの大学病院に入院してるの。時間が取れたら翔真も帰ってきて。」
翔真「わかった。すぐにそっちに行くよ。」
電話を終え、帰省の準備をする。荷物をまとめながら自然と涙が溢れてくる。あんなに元気だった妹が突然意識を失うなんて。もっとこまめに家族に連絡を取っておけばよかった。当たり前だと思っていた日常が崩れ始める。しかし今は後悔していても遅い。そう思い涙を拭うと勢いよく外へと飛び出す。
しかし、玄関を出てすぐ翔真の足は止まった。
翔真「なんだ、これ…」
目の前にうつる景色がいつもと違う。見慣れた自転車も、目の前の信号機も、道路を挟んですぐにあるファミレスも、なにもかもが無くなっている。
目の前に映るのは、近年のゲームやアニメで見る何もかもがネオンで煌びやかに光り輝いてる。いわゆるサイバーパンクってやつだ。あまりの非日常すぎる出来事に頭が追い付かず、頭がパンクしたのか激しい頭痛に襲われる。そしてそのまま気を失い、その場に倒れこむのであった。

人類は竜との闘いに負け、世界は—
「世界は今一つになった。ようこそ、パラディアへ。」

日本、東京。またの名を、日ノ国、ネオンシティ。
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