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第5章 第6話 NPCはゲームの外側へ
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ペルタは他のlunar eclipse projectのNPCと一緒に外の世界について話す事が多かった。彼女達は、本来はちゃんとした自我を持たないはずの存在だった。
「そう言えばミクちゃん、シオネちゃんとだいぶ仲良くなってるよね」
「うん。何となく彼女の事、放って置けないんだよね」
ミクはNPC達の中でも、特に高い戦闘力を持つ少女だった。彼女はワウカのギルドであるワーウルフズにいる汐音と行動を共にする事が多い。
「シオネちゃんはこのゲームのプレイヤー…普段は外で暮らしてるんだよね?」
「うん。私達NPCとは違って生きた人間だからね」
ユームは意志が弱い少女で、NPC達の中でも存在感が薄かった。そんな彼女も、ゲームの外への憧れを抱いていた。
「ここの…月食エリアの外にどんな景色が広がってるか、ユームも気になってるんだ」
「うん…きっと、私達が想像もつかない様な景色があるんだろうなぁって」
ユームは自分達が行く事のできない場所へ、想いを馳せていた。閉じられたゲームの中にいる彼女達は、どうしても“外”への憧れを抱くのだ。
「やっぱり興味があるんだ。私はカナエに外の様子を教えてもらったんだよね」
「カナエさんは最近来た人だよね。あまりここに来てないみたいだけど」
「ここの外には昔を再現した美しい景色がいっぱいあるんだって。さらにアナザーアースの外、現実世界にも私たちが見たことないものが…」
「そもそもカナエも他のプレイヤーも、現実世界からログインして来てるんだよね。何というか、スケールに追いつけないというか…」
自我を持ってしまったlunar eclipse projectのNPC達は、ゲームの外の世界への羨望を抱いていた。ゲーム内の狭い居住空間では、満足できなくなってしまったのだ。
(私も…いつか外へ…)
そう思っていたのは、ペルタだった…
ーー
ある日ペルタは、月食エリアの入り口の辺りを眺めていた。その時間帯は、ほとんどプレイヤーのログインが無かった。
(みんなここから出入りしてるんだよね…)
楕円形の形をした透明なゲートが、プレイヤー達の出入り口だった。ゲートの外側にはNPCも立ち入る事ができない“背景”が広がっている。
(どうせ私達は向こうへ行けない…)
ペルタはそのゲートに触れてみたら、体が吸い込まれる感覚になった。今までは硬くて冷たい壁に触れるだけだったので、すぐに異常だと分かった。
普通の人間なら吸い込まれる事に恐怖を感じて、すぐに手を離しただろう。だが、ペルタの中では恐怖よりも外の世界への興味が勝った。
(このまま、向こうへ…!)
そしてそのまま、ペルタはゲートの向こうへと消えていった…
ーー
「きゃっ!」
ペルタが到達したのは、2030年のニューヨークを再現したストリートだった。急激に人口密度が上昇していて、車を模したデバイスがかなりの速度で走行している事に驚かされる。
(ここがアナザーアース…月食エリアの外側…)
ペルタは煌びやかな光を放つ年の景色に、目を奪われていた。月食エリアの外からやって来る人々は、普段はこんなにも人がたくさんいる場所で活動しているのだ。
(すごい…綺麗)
現実の人々にとっては見慣れていて煩わしい光景も、ゲームのNPCにとっては素晴らしい景色だった。ペルタはゆっくりと、そしてしっかりした足取りでストリートを歩き始める。
(ここが人間がいる世界!)
ワクワクし始めたペルタは、意気揚々とストリートを歩いた。多種多様な服を着た人々がいる街は、どれほど見ても飽きなさそうだった。
「あなた、変な格好していますね。念の為ユーザーIDを見せてください」
キョロキョロしていたペルタに話しかけたのは、警備員として勤務しているユーザーだった。コスプレ衣装の様な服を着ている少女を、放って置けなかったのだ。
「えっ?ID…?」
「はい。アナザーアース内でデバイスを紛失するというのはかなりの緊急事態になりますが….」
アナザーアース内のユーザーは、デバイスを必ず身につけている。万が一落としてしまったとしても、基本的には自律起動したデバイスが座標変更する事によって、持ち主の手元に戻って来る仕組みだ。
「そっ…それは…」
ペルタは困惑すると同時に不安になってしまい、走って逃げ出した。しかし見知らぬ場所で、何処に逃げればいいのか分からない。
「はぁっ…はぁっ…」
人通りの多い都市の中心部に、見知った顔がいる訳が無い。いつも一緒に外側への憧れを語っていた他のNPCがここにいるはずが無いのだ。
(どうしよう…どうしよう)
打開策を思いつかないまま、ペルタは走り続けた…
ーー
走り続けたペルタは、街灯の代わりに怪しいネオンライトが光っている路地に辿り着いた。この辺りはかなり人が少ないので、服が原因で目立つ事は無いだろう。
(さっきまでと比べて暗すぎない?ここ何処だろう…)
今、ペルタがいる場所は一般的に“ブラックエリア”と呼ばれている領域だった…
「そう言えばミクちゃん、シオネちゃんとだいぶ仲良くなってるよね」
「うん。何となく彼女の事、放って置けないんだよね」
ミクはNPC達の中でも、特に高い戦闘力を持つ少女だった。彼女はワウカのギルドであるワーウルフズにいる汐音と行動を共にする事が多い。
「シオネちゃんはこのゲームのプレイヤー…普段は外で暮らしてるんだよね?」
「うん。私達NPCとは違って生きた人間だからね」
ユームは意志が弱い少女で、NPC達の中でも存在感が薄かった。そんな彼女も、ゲームの外への憧れを抱いていた。
「ここの…月食エリアの外にどんな景色が広がってるか、ユームも気になってるんだ」
「うん…きっと、私達が想像もつかない様な景色があるんだろうなぁって」
ユームは自分達が行く事のできない場所へ、想いを馳せていた。閉じられたゲームの中にいる彼女達は、どうしても“外”への憧れを抱くのだ。
「やっぱり興味があるんだ。私はカナエに外の様子を教えてもらったんだよね」
「カナエさんは最近来た人だよね。あまりここに来てないみたいだけど」
「ここの外には昔を再現した美しい景色がいっぱいあるんだって。さらにアナザーアースの外、現実世界にも私たちが見たことないものが…」
「そもそもカナエも他のプレイヤーも、現実世界からログインして来てるんだよね。何というか、スケールに追いつけないというか…」
自我を持ってしまったlunar eclipse projectのNPC達は、ゲームの外の世界への羨望を抱いていた。ゲーム内の狭い居住空間では、満足できなくなってしまったのだ。
(私も…いつか外へ…)
そう思っていたのは、ペルタだった…
ーー
ある日ペルタは、月食エリアの入り口の辺りを眺めていた。その時間帯は、ほとんどプレイヤーのログインが無かった。
(みんなここから出入りしてるんだよね…)
楕円形の形をした透明なゲートが、プレイヤー達の出入り口だった。ゲートの外側にはNPCも立ち入る事ができない“背景”が広がっている。
(どうせ私達は向こうへ行けない…)
ペルタはそのゲートに触れてみたら、体が吸い込まれる感覚になった。今までは硬くて冷たい壁に触れるだけだったので、すぐに異常だと分かった。
普通の人間なら吸い込まれる事に恐怖を感じて、すぐに手を離しただろう。だが、ペルタの中では恐怖よりも外の世界への興味が勝った。
(このまま、向こうへ…!)
そしてそのまま、ペルタはゲートの向こうへと消えていった…
ーー
「きゃっ!」
ペルタが到達したのは、2030年のニューヨークを再現したストリートだった。急激に人口密度が上昇していて、車を模したデバイスがかなりの速度で走行している事に驚かされる。
(ここがアナザーアース…月食エリアの外側…)
ペルタは煌びやかな光を放つ年の景色に、目を奪われていた。月食エリアの外からやって来る人々は、普段はこんなにも人がたくさんいる場所で活動しているのだ。
(すごい…綺麗)
現実の人々にとっては見慣れていて煩わしい光景も、ゲームのNPCにとっては素晴らしい景色だった。ペルタはゆっくりと、そしてしっかりした足取りでストリートを歩き始める。
(ここが人間がいる世界!)
ワクワクし始めたペルタは、意気揚々とストリートを歩いた。多種多様な服を着た人々がいる街は、どれほど見ても飽きなさそうだった。
「あなた、変な格好していますね。念の為ユーザーIDを見せてください」
キョロキョロしていたペルタに話しかけたのは、警備員として勤務しているユーザーだった。コスプレ衣装の様な服を着ている少女を、放って置けなかったのだ。
「えっ?ID…?」
「はい。アナザーアース内でデバイスを紛失するというのはかなりの緊急事態になりますが….」
アナザーアース内のユーザーは、デバイスを必ず身につけている。万が一落としてしまったとしても、基本的には自律起動したデバイスが座標変更する事によって、持ち主の手元に戻って来る仕組みだ。
「そっ…それは…」
ペルタは困惑すると同時に不安になってしまい、走って逃げ出した。しかし見知らぬ場所で、何処に逃げればいいのか分からない。
「はぁっ…はぁっ…」
人通りの多い都市の中心部に、見知った顔がいる訳が無い。いつも一緒に外側への憧れを語っていた他のNPCがここにいるはずが無いのだ。
(どうしよう…どうしよう)
打開策を思いつかないまま、ペルタは走り続けた…
ーー
走り続けたペルタは、街灯の代わりに怪しいネオンライトが光っている路地に辿り着いた。この辺りはかなり人が少ないので、服が原因で目立つ事は無いだろう。
(さっきまでと比べて暗すぎない?ここ何処だろう…)
今、ペルタがいる場所は一般的に“ブラックエリア”と呼ばれている領域だった…
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