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水無月嶺二 退屈で平和な日常の終わり
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周りの人達からはレイジと呼ばれている俺は、今年の4月に高校3年生になった。
高校3年生にもなると親も学校の先生も、進路はどうするのかと口うるさくなってくる。だが趣味と言えるものは、小説を読む事や好きなアーティストの音楽を聴く事ぐらいだ。
俺は責任を持つ事が、昔からとても怖い事の様に感じていた。大人になって就職すれば、きっと責任から逃れる事なんて出来なくなる。
何故、生まれて来たのか、分からなくなっている。
俺…水無月嶺二には、なりたいものなんて、無かった。
「この後どうする~」
「お前のせいで試合に…」
周囲の人間達はこの日も色々と騒がしかったが、俺にとっては無為な話題ばかりだった。俺にとって他人との繋がりと言えるのは、SNSぐらいしか無かった。
自分と同じアーティストやゲームが好きな人のアカウントと繋がっているが、向こう側から自分がどう思われているかは分からない。面白味のない発信しかしないつまらない人物だと思われているかも知れない。
(リアルには俺と気が合う人間がいない…)
俺は自分の趣味を、周囲と共有する気にはなれなかった。周りの人間が関わるだけで、自分のプライベートが邪魔される気がしたのだ。
元から自分は、他者とのコミュニケーションが苦手だった。この日も誰かと駄弁りながら下校する事なく、さっさと駅に向かった。
(騒々しい…早く帰りたい…)
騒音が人一倍苦手な俺にとって、学校も街中も駅も長時間居たくない場所だった。少しでも早く、ホームに俺が乗る電車が来て欲しいと思っていた。
車窓から見えるのは、いつもと変わらない横浜の街並み。高校周辺はそれなりに栄えている地域で、人通りも多い。
俺が住んでいるのはごく普通の住宅街、田舎とも都会とも言えない微妙な土地だった。周囲には横浜特有の名所と言えるものも特に無く、特徴の無い地域だ。
「ニコまだそのゲームやってるの?」
「アクティブが減ってるみたいだから、いつまで続くから不安なんだよね…」
俺の近くの席に座った女子高生達が「セブンスロード」というゲームの話を始めた。セブンスロードは俺もやっているゲームだったので、彼女達の話には興味があった。
「シナリオは悪くないんだけど、ゲームバランスがイマイチで…」
「強いキャラがフェス限の女の子ばかりになったから、もうやめちゃったよ」
ニコと呼ばれた女子高生もシナリオは良いと言っていたが、それ以外の問題点が気になっている様子だった。フェス限のキャラが居ないと攻略が難しいステージがあるのは、俺からしても不安だった。
「新しい限定キャラの性能も…」
「また引きに行くの?」
ニコはどうやらかなり課金しているらしく、周りの女子も驚いていた。俺は基本無料のゲームにはあまり課金しないタイプだった。
(…って、もう降りる駅か)
別に、彼女達の話を立ち聞きし続ける必要は無かった。俺は駅に着くまで、忘れ物が無いかチェックしていた。
(相変わらず、しょぼい街並みだな…)
自分の住む住宅街の最寄りの駅で降りた俺は、何となく周囲を見渡した。普段と変わらない街並みは、全くと言っていいほど好きになれなかった。
(帰ったら、また勉強か…)
家に帰ったら、いつも通り勉強をするだけだった。受験の役には立つのだろうが、それ以外の何に役立つのか分からなかった。
(少し街を歩いてみるか…)
すぐに帰らなかったとしても、文句は言われないだろう。俺は暇つぶしに、自分の住む街の様子を見て歩く事にした。
(こんな所にゲームセンターなんてあったんだな…)
通学に使っている道から少し外れると、すぐに俺の知らない景色になっていった。自分でもこんなに好奇心が旺盛だったのかと驚いていた。
「ん…?」
街を歩いていた俺の服の袖を、紺色の髪をした小柄な少女が掴んだ。制服を着ているので女子中学生と思われるが、面識は無いはずだった。
「ねぇねぇ、チョコ食べたい~買って来て~」
(何だコイツ…)
小柄な少女はいきなりチョコが食べたいなどと言ってきた。俺は無視しようとしたが、彼女はしつこく付き纏ってくる。
「お前しつこいぞ…」
「お前じゃない、私は涼子」
聞いてもいないのに名前を名乗られても、正直困るものだ。暇だった俺は仕方無く、涼子の話を聞いてやる事にした。
「チョコを買えばいいのか?」
「うん、早くして」
俺は仕方無く、涼子にチョコレートを買ってやる事にした。そうしないといつまでもついて来る可能性もあるからだ。
「何でこんな高いやつ…」
「だって美味しいんだもん」
涼子がねだって来たのは、それなり良いブランドの高いチョコレートだった。正直かなり迷ったが俺も食べたかったので、買ってやる事にした。
「俺も食べていいか」
「少しならいいよ」
嫌だと言ったら買うのをやめる所だったが、少しなら食べていいらしい。買った後は、公園のベンチに座って食べる事にした。
「ミルクチョコは俺にくれ」
「しょうがないなぁ…」
俺はミルクチョコだけ食べて、残りは涼子に譲ってやった。値段は1000円を超えていたが、期待を裏切らない美味しさだった。
「ありがとね」
「…どういたしまして」
チョコを食べ終えた涼子は、俺に礼を言って来た。面識の無い男子高校生にチョコを買わせた少女だが、最低限の礼儀はあるみたいだ。
「一緒に来てよ」
「はぁ…」
俺は涼子にもうちょっとだけ付き合ってやる事にした。また何か買わされるのであれば、今度こそ断るつもりたが。
「ここ」
「え…?」
そこにあったのは、建物と建物の間の暗い道だった。俺は今度こそ危機感を感じて、思わず後退りをした。
「どうしたの?怖いの?」
「だって、こんな暗い道…」
俺は今まで暗い路地を歩いた事はなく、かなり不安にさせられた。人通りが少ない場所だと、危険な事態に遭遇した時に助けを求める事も出来ない。
「分かったよ、付いてってやるよ」
暇だった俺は涼子と一緒に、暗い路地に入る事にした。何か危険を感じたら、涼子を置いて逃げるつもりだった。
裏路地は予想以上に暗く、俺に恐怖を感じさせた。俺は暗闇が怖いと感じた事は無かったが、夜の闇とは異質な何かだった。
「おい…何処まで進むんだ?」
「一番奥まで」
裏路地を歩く俺の中の不安は、ますます強くなっていった。こんな路地の一番奥に何があるのか、想像もつかなかったのだ。
「何でこんな所…奥に何があるんだ?」
「それはお楽しみ」
(楽しみにできるかッ‼︎)と俺は心の中で叫んでいた。しかし、本当なら走って逃げ出したいはずなのに、逃げ出す事は出来なかった。
「自動ドア…何でこんな所に…」
「ちゃんと動くよ」
裏路地をかなり進んだ先には、これと言った特徴の無い自動ドアがあった。普通に動いていたので、俺も涼子について行った。
(何だこの空気…)
自動ドアの先はただ単に暗いだけでは無い、異様な空気が漂っていた。俺は走り出す事すらできずに、ただ奥へと進むしか無かった。
裏路地の一番奥、一見何の変哲もない扉を見た瞬間、俺は本能的に危険を感じた。このままでは、もう二度と元の場所に戻れないとすら感じた。
「付き合ってられるか…俺はもう帰るぞ‼︎」
「駄目」
今度こそ俺は元の道を走って逃げようとしたが、涼子が腕を掴んで来た。俺の腕を掴む力は、少女のものとは思えない程の強い力だった。
「レイジはこの扉の先までついて来ないといけない」
「何だってっ?!」
一度も名乗っていないのに名前を知っている事への疑問が沸いたが、それどころでは無かった。俺はそのまま強引に引っ張られて、涼子は裏路地の一番奥の扉を開いて…
「え…?」
気がついた時には、俺は広々とした草原に突っ立っていた。当然だが以前来た事も無いし、知る由も無い場所だった。
俺が今いる場所は横浜では無い。それだけは確かだった。
高校3年生にもなると親も学校の先生も、進路はどうするのかと口うるさくなってくる。だが趣味と言えるものは、小説を読む事や好きなアーティストの音楽を聴く事ぐらいだ。
俺は責任を持つ事が、昔からとても怖い事の様に感じていた。大人になって就職すれば、きっと責任から逃れる事なんて出来なくなる。
何故、生まれて来たのか、分からなくなっている。
俺…水無月嶺二には、なりたいものなんて、無かった。
「この後どうする~」
「お前のせいで試合に…」
周囲の人間達はこの日も色々と騒がしかったが、俺にとっては無為な話題ばかりだった。俺にとって他人との繋がりと言えるのは、SNSぐらいしか無かった。
自分と同じアーティストやゲームが好きな人のアカウントと繋がっているが、向こう側から自分がどう思われているかは分からない。面白味のない発信しかしないつまらない人物だと思われているかも知れない。
(リアルには俺と気が合う人間がいない…)
俺は自分の趣味を、周囲と共有する気にはなれなかった。周りの人間が関わるだけで、自分のプライベートが邪魔される気がしたのだ。
元から自分は、他者とのコミュニケーションが苦手だった。この日も誰かと駄弁りながら下校する事なく、さっさと駅に向かった。
(騒々しい…早く帰りたい…)
騒音が人一倍苦手な俺にとって、学校も街中も駅も長時間居たくない場所だった。少しでも早く、ホームに俺が乗る電車が来て欲しいと思っていた。
車窓から見えるのは、いつもと変わらない横浜の街並み。高校周辺はそれなりに栄えている地域で、人通りも多い。
俺が住んでいるのはごく普通の住宅街、田舎とも都会とも言えない微妙な土地だった。周囲には横浜特有の名所と言えるものも特に無く、特徴の無い地域だ。
「ニコまだそのゲームやってるの?」
「アクティブが減ってるみたいだから、いつまで続くから不安なんだよね…」
俺の近くの席に座った女子高生達が「セブンスロード」というゲームの話を始めた。セブンスロードは俺もやっているゲームだったので、彼女達の話には興味があった。
「シナリオは悪くないんだけど、ゲームバランスがイマイチで…」
「強いキャラがフェス限の女の子ばかりになったから、もうやめちゃったよ」
ニコと呼ばれた女子高生もシナリオは良いと言っていたが、それ以外の問題点が気になっている様子だった。フェス限のキャラが居ないと攻略が難しいステージがあるのは、俺からしても不安だった。
「新しい限定キャラの性能も…」
「また引きに行くの?」
ニコはどうやらかなり課金しているらしく、周りの女子も驚いていた。俺は基本無料のゲームにはあまり課金しないタイプだった。
(…って、もう降りる駅か)
別に、彼女達の話を立ち聞きし続ける必要は無かった。俺は駅に着くまで、忘れ物が無いかチェックしていた。
(相変わらず、しょぼい街並みだな…)
自分の住む住宅街の最寄りの駅で降りた俺は、何となく周囲を見渡した。普段と変わらない街並みは、全くと言っていいほど好きになれなかった。
(帰ったら、また勉強か…)
家に帰ったら、いつも通り勉強をするだけだった。受験の役には立つのだろうが、それ以外の何に役立つのか分からなかった。
(少し街を歩いてみるか…)
すぐに帰らなかったとしても、文句は言われないだろう。俺は暇つぶしに、自分の住む街の様子を見て歩く事にした。
(こんな所にゲームセンターなんてあったんだな…)
通学に使っている道から少し外れると、すぐに俺の知らない景色になっていった。自分でもこんなに好奇心が旺盛だったのかと驚いていた。
「ん…?」
街を歩いていた俺の服の袖を、紺色の髪をした小柄な少女が掴んだ。制服を着ているので女子中学生と思われるが、面識は無いはずだった。
「ねぇねぇ、チョコ食べたい~買って来て~」
(何だコイツ…)
小柄な少女はいきなりチョコが食べたいなどと言ってきた。俺は無視しようとしたが、彼女はしつこく付き纏ってくる。
「お前しつこいぞ…」
「お前じゃない、私は涼子」
聞いてもいないのに名前を名乗られても、正直困るものだ。暇だった俺は仕方無く、涼子の話を聞いてやる事にした。
「チョコを買えばいいのか?」
「うん、早くして」
俺は仕方無く、涼子にチョコレートを買ってやる事にした。そうしないといつまでもついて来る可能性もあるからだ。
「何でこんな高いやつ…」
「だって美味しいんだもん」
涼子がねだって来たのは、それなり良いブランドの高いチョコレートだった。正直かなり迷ったが俺も食べたかったので、買ってやる事にした。
「俺も食べていいか」
「少しならいいよ」
嫌だと言ったら買うのをやめる所だったが、少しなら食べていいらしい。買った後は、公園のベンチに座って食べる事にした。
「ミルクチョコは俺にくれ」
「しょうがないなぁ…」
俺はミルクチョコだけ食べて、残りは涼子に譲ってやった。値段は1000円を超えていたが、期待を裏切らない美味しさだった。
「ありがとね」
「…どういたしまして」
チョコを食べ終えた涼子は、俺に礼を言って来た。面識の無い男子高校生にチョコを買わせた少女だが、最低限の礼儀はあるみたいだ。
「一緒に来てよ」
「はぁ…」
俺は涼子にもうちょっとだけ付き合ってやる事にした。また何か買わされるのであれば、今度こそ断るつもりたが。
「ここ」
「え…?」
そこにあったのは、建物と建物の間の暗い道だった。俺は今度こそ危機感を感じて、思わず後退りをした。
「どうしたの?怖いの?」
「だって、こんな暗い道…」
俺は今まで暗い路地を歩いた事はなく、かなり不安にさせられた。人通りが少ない場所だと、危険な事態に遭遇した時に助けを求める事も出来ない。
「分かったよ、付いてってやるよ」
暇だった俺は涼子と一緒に、暗い路地に入る事にした。何か危険を感じたら、涼子を置いて逃げるつもりだった。
裏路地は予想以上に暗く、俺に恐怖を感じさせた。俺は暗闇が怖いと感じた事は無かったが、夜の闇とは異質な何かだった。
「おい…何処まで進むんだ?」
「一番奥まで」
裏路地を歩く俺の中の不安は、ますます強くなっていった。こんな路地の一番奥に何があるのか、想像もつかなかったのだ。
「何でこんな所…奥に何があるんだ?」
「それはお楽しみ」
(楽しみにできるかッ‼︎)と俺は心の中で叫んでいた。しかし、本当なら走って逃げ出したいはずなのに、逃げ出す事は出来なかった。
「自動ドア…何でこんな所に…」
「ちゃんと動くよ」
裏路地をかなり進んだ先には、これと言った特徴の無い自動ドアがあった。普通に動いていたので、俺も涼子について行った。
(何だこの空気…)
自動ドアの先はただ単に暗いだけでは無い、異様な空気が漂っていた。俺は走り出す事すらできずに、ただ奥へと進むしか無かった。
裏路地の一番奥、一見何の変哲もない扉を見た瞬間、俺は本能的に危険を感じた。このままでは、もう二度と元の場所に戻れないとすら感じた。
「付き合ってられるか…俺はもう帰るぞ‼︎」
「駄目」
今度こそ俺は元の道を走って逃げようとしたが、涼子が腕を掴んで来た。俺の腕を掴む力は、少女のものとは思えない程の強い力だった。
「レイジはこの扉の先までついて来ないといけない」
「何だってっ?!」
一度も名乗っていないのに名前を知っている事への疑問が沸いたが、それどころでは無かった。俺はそのまま強引に引っ張られて、涼子は裏路地の一番奥の扉を開いて…
「え…?」
気がついた時には、俺は広々とした草原に突っ立っていた。当然だが以前来た事も無いし、知る由も無い場所だった。
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