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王都にて そのニ 裏路地の地下室
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「レイジ…まさかこんな所で会うなんてね」
「久しぶりというか…」
琴音の方も、あまりに突然の再会に驚いているようだ。俺も彼女が引っ越したと聞いて以来、一度も連絡をしていなかったので、どうすればいいのか困ってしまった。
「あなたは逃げないで」
「えっ」
いつの間にか服を着ていた涼子はその場から逃げ出そうとしたが、琴音に呼び止められた。涼子は驚いたが、下手な事はしない方が良いと考えたのか動きを止めた。
「ここじゃ都合が悪いから…ついて来てくれない?」
「分かった」
「…しょうがないね」
俺は琴音について行く事にして、涼子も渋々同行するらしい。だが、ジョージさんは自分の用事があるので、一緒には来ないみたいだ。
「悪いが、住人が増えた報告をしなくちゃいけないんだ」
「私も、父さんについて行きます」
仁子も疲れ切っているので、俺達と一緒には行かない事になった。仁子は、大変だったから早く宿に行って休みたいと言っていた。
「私は疲れた…後で何話したか教えて」
仁子は先に宿に行く事になり、俺と涼子は琴音に連れられて市場の方に向かった。いつの間にか夕方になっていて、今更ながら昼飯を食べていない事に気づいた。
「腹減った…」
「この先の市場に美味しい食べ物が色々あるよ」
王都の外れにある市場は賑やかで、様々な者が店を出していた。食べ物を売っている店もあれば、よく分からないアクセサリーの露店もあった。
「こんな市場、初めてだ…」
この国のものでは無いと思われる食べ物も多くあり、肉の串焼きや焼飯、よく分からない魚料理など様々だった。取り敢えず肉の串焼きを食べて、腹を満たす事にした。
「あんたこの国の人間じゃ無いな。どっから来たんだ?」
「海の向こうから…」
異世界人だと話す訳には行かないので適当に答えたが、それ以上追及される事は無かった。この世界にも色々な人間がいるから、余計な詮索はしないのだろう。
(安いな…)
涼子のお金で買った肉の串焼きは、日本円で百円程度だった。まぁ、品質は問題なさそうだったが、味には期待しない方が良さそうだ。
(何の肉だこれ…)
鳥の肉みたいだったが、どんな種類の鳥かは分からなかった。俺達がいた世界には存在しない動物の肉である可能性も、十分にある。
「食べてみて、美味いから」
涼子も俺と同じ物を買っていて、既に食べていた。まぁ、俺の苦手な味はしないだろうと思って、食べ始めた。
かなり塩辛く、様々な香辛料を使っている事が分かった。素材の味は薄かったが、それでも十分に美味しかった。
「美味しかったでしょ」
「予想よりも美味しかったな…」
取り敢えず腹を満たした俺達は、琴音と一緒に裏路地に入った。裏路地はかなり暗く、この世界に転移した時の事を嫌でも思い出す。
「あんまりキョロキョロしない方がいいよ」
裏路地にはホームレスをはじめとした、身寄りの無い者が多くいた。彼らと目を合わせない為にも、歩く方向に顔を向けつつ警戒を怠らない様にした。
「この先には、私達のような別の世界から来た人しかいないよ」
琴音が向かった先は裏路地の一番奥にある、地下室への入り口だった。確かにこの先なら、周囲を気にすることなく元の世界の話ができるだろう。
「……」
「どうした涼子?」
涼子は地下室に入る事を、迷っている様子だった。だがこの先に行くなら、涼子がいた方が話が早いだろう。
「来てくれよ。お前も他の転移者に会った方がいいだろ」
「…そうだね」
階段を降りた先の地下通路は、意外と暗くなかった。あちこちに燭台があり、それによって通路は明るく照らされていた。
最奥部には、見るからに頑丈そうな鉄扉があった。実際の強度は分からないが、核兵器が使用されてもこの扉の向こうは無事で済みそうだった。
「鍵がいっぱいついてるな」
「ちょっと待ってて」
琴音は鍵を二つ取り出して、鉄扉の鍵を開錠した。どうやらそれだけで十分だったみたいで、彼女が力一杯押すと鉄扉は開いた。
「止まって下さい」
「身分を提示しろ」
鉄扉の向こうは小さな部屋になっていて、そこには警備員がいた。傭兵の様な見た目の警備員達は、俺と涼子に身分を明かせと命令した。
「ええと…水無月嶺二です。横浜出身の日本人で、高校3年生です」
「よし、琴音さんと一緒に入ってくれ」
警備員達は俺に対する警戒を解いて、簡単に部屋に入れてくれるみたいだ。彼らの警戒は、俺よりも涼子の方に強く向けられていた。
「名前を名乗れ」
「荒井涼子。今は14歳」
「それだけでは不十分だ!」
彼女は名前と年齢だけ名乗って警備員の間を通り抜けようとしたが、止められた。俺をこの世界に連れて来た時は制服姿だったし、中学生のはずだが…
「こっちに4年間いるから、向こうでは4ヶ月前から行方不明になってる。多分向こうではまだ小学生扱い」
4年間…4ヶ月…こっちの1年間は向こうの1ヶ月なのか。どちらにせよ、この世界に何年間もいるつもりは無い。
「…コトネさん、どうします?」
「しょうがないから、中にいる転移者達と話し合って決める」
そう言って、涼子にも奥の部屋に入る許可が下りた。警備員達はやはりこの世界の人間で、雇われているだけの様だった。
「琴音…そいつらは…」
「みんな同じ世界の人間だよ。彼は私の幼馴染で、こいつは私がこの世界に来た原因」
部屋の中にいたのはアフリカ系と思われる男性と、北欧人っぽい女性だった。割と親しげにしているので、琴音は彼らと協力関係にある事が分かった。
「その小さいガキは向こうに閉じ込めとけ」
「っ…」
涼子は兵士達によって奥の部屋に連れて行かれた。俺はこのままここにいていいみたいだが、どうやら彼らは俺の話を聞きたいみたいだ。
「なるほど、レイジと言うんだな。私はシローネで、こいつはカリド。お前も琴音と同じように、さっきの小さい女のせいでここに来たのか」
「はい」
「俺達は、さっきの女と同じだ。叶えたい願いがあるから、この世界に来たんだ」
しかし、この世界に来て願いを叶えるとは、どう言う事なのだろうか。確かにこちらの世界は俺達のいた世界とは随分違うので、願いを叶えてくれる神でもいるのかも知れない。
「レイジは琴音と同じか?元いた世界に帰りたいのか?」
「…帰りたいです」
「微妙に頼りない返事だな。まぁいい」
一応、俺としては帰りたい意思はあったが、そのモチベーションが低い事は見抜かれていた。向こうの世界に帰れても、きっといい事ばかりでは無いからだ。
「あなた達の願いは…」
「俺は家が貧乏だったんだ。たがら、家族に少しでもまともな暮らしをさせてやりたい」
どの様な願いなのか聞いたら、カリドさんはあっさり答えてくれた。家の経済状況を改善させたいというのは、立派な願いだろう。
「私は地位と権力を望んだ。これ以上話すつもりは無い」
地位と権力を求めている理由を聞きたかったが、そんな無駄な事をするつもりは無い。そもそも出会ったばかりの人間に、自分の望みを話そうとしない方が自然だろう。
「私達は涼子に聞きたい事がある。レイジと琴音はゆっくり休んで欲しい」
そのままシローネさん達は別室へと移動して、部屋には俺と琴音しかいなかった。俺は琴音に最近の様子を聞きたかったので、好都合だった。
「琴音はどんな感じだった?」
「退屈な毎日だったよ」
琴音は大学に進学しても、退屈な気分で過ごしているみたいだ。昔から気怠げそうな雰囲気だったので、想像の範疇だが。
「レイジはどうするの?もう高3でしょ?」
「それは…」
正直言って、何も決めていないというのが本音である。どんな仕事がいいかを決める事が、未だに出来ないのだ。
「自分が何がしたいのか、分からない。それでも元の世界に帰りたい」
俺はどうすればいいのか分からなくても、元の世界に帰りたかった。この世界も悪い所ではないが、いつまでもいていい場所では無い様に感じた。
「琴音も帰りたいのか?」
「うん。こっちは色々と不便だし」
なるほど、昔からめんどくさがりな琴音らしい理由だった。とは言え、俺が帰りたがる理由の大部分もそれなのだが。
「元いた世界に帰りたいんでしょ。だったら一緒に頑張ろうよ」
「うん…」
琴音は元の世界に帰る事については、割とやる気があるみたいだ。ここまで琴音がやる気を出している事も、珍しいと思っていた。
「話してる所悪いんだが、来てくれ」
俺達が休憩している部屋に入って来たのはカリドさんだった。先程と変わらない様子だったので、緊急の用事では無いみたいだ。
「俺達だけじゃ涼子から聞き出せない事も多い、協力してくれ」
「久しぶりというか…」
琴音の方も、あまりに突然の再会に驚いているようだ。俺も彼女が引っ越したと聞いて以来、一度も連絡をしていなかったので、どうすればいいのか困ってしまった。
「あなたは逃げないで」
「えっ」
いつの間にか服を着ていた涼子はその場から逃げ出そうとしたが、琴音に呼び止められた。涼子は驚いたが、下手な事はしない方が良いと考えたのか動きを止めた。
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「…しょうがないね」
俺は琴音について行く事にして、涼子も渋々同行するらしい。だが、ジョージさんは自分の用事があるので、一緒には来ないみたいだ。
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「こんな市場、初めてだ…」
この国のものでは無いと思われる食べ物も多くあり、肉の串焼きや焼飯、よく分からない魚料理など様々だった。取り敢えず肉の串焼きを食べて、腹を満たす事にした。
「あんたこの国の人間じゃ無いな。どっから来たんだ?」
「海の向こうから…」
異世界人だと話す訳には行かないので適当に答えたが、それ以上追及される事は無かった。この世界にも色々な人間がいるから、余計な詮索はしないのだろう。
(安いな…)
涼子のお金で買った肉の串焼きは、日本円で百円程度だった。まぁ、品質は問題なさそうだったが、味には期待しない方が良さそうだ。
(何の肉だこれ…)
鳥の肉みたいだったが、どんな種類の鳥かは分からなかった。俺達がいた世界には存在しない動物の肉である可能性も、十分にある。
「食べてみて、美味いから」
涼子も俺と同じ物を買っていて、既に食べていた。まぁ、俺の苦手な味はしないだろうと思って、食べ始めた。
かなり塩辛く、様々な香辛料を使っている事が分かった。素材の味は薄かったが、それでも十分に美味しかった。
「美味しかったでしょ」
「予想よりも美味しかったな…」
取り敢えず腹を満たした俺達は、琴音と一緒に裏路地に入った。裏路地はかなり暗く、この世界に転移した時の事を嫌でも思い出す。
「あんまりキョロキョロしない方がいいよ」
裏路地にはホームレスをはじめとした、身寄りの無い者が多くいた。彼らと目を合わせない為にも、歩く方向に顔を向けつつ警戒を怠らない様にした。
「この先には、私達のような別の世界から来た人しかいないよ」
琴音が向かった先は裏路地の一番奥にある、地下室への入り口だった。確かにこの先なら、周囲を気にすることなく元の世界の話ができるだろう。
「……」
「どうした涼子?」
涼子は地下室に入る事を、迷っている様子だった。だがこの先に行くなら、涼子がいた方が話が早いだろう。
「来てくれよ。お前も他の転移者に会った方がいいだろ」
「…そうだね」
階段を降りた先の地下通路は、意外と暗くなかった。あちこちに燭台があり、それによって通路は明るく照らされていた。
最奥部には、見るからに頑丈そうな鉄扉があった。実際の強度は分からないが、核兵器が使用されてもこの扉の向こうは無事で済みそうだった。
「鍵がいっぱいついてるな」
「ちょっと待ってて」
琴音は鍵を二つ取り出して、鉄扉の鍵を開錠した。どうやらそれだけで十分だったみたいで、彼女が力一杯押すと鉄扉は開いた。
「止まって下さい」
「身分を提示しろ」
鉄扉の向こうは小さな部屋になっていて、そこには警備員がいた。傭兵の様な見た目の警備員達は、俺と涼子に身分を明かせと命令した。
「ええと…水無月嶺二です。横浜出身の日本人で、高校3年生です」
「よし、琴音さんと一緒に入ってくれ」
警備員達は俺に対する警戒を解いて、簡単に部屋に入れてくれるみたいだ。彼らの警戒は、俺よりも涼子の方に強く向けられていた。
「名前を名乗れ」
「荒井涼子。今は14歳」
「それだけでは不十分だ!」
彼女は名前と年齢だけ名乗って警備員の間を通り抜けようとしたが、止められた。俺をこの世界に連れて来た時は制服姿だったし、中学生のはずだが…
「こっちに4年間いるから、向こうでは4ヶ月前から行方不明になってる。多分向こうではまだ小学生扱い」
4年間…4ヶ月…こっちの1年間は向こうの1ヶ月なのか。どちらにせよ、この世界に何年間もいるつもりは無い。
「…コトネさん、どうします?」
「しょうがないから、中にいる転移者達と話し合って決める」
そう言って、涼子にも奥の部屋に入る許可が下りた。警備員達はやはりこの世界の人間で、雇われているだけの様だった。
「琴音…そいつらは…」
「みんな同じ世界の人間だよ。彼は私の幼馴染で、こいつは私がこの世界に来た原因」
部屋の中にいたのはアフリカ系と思われる男性と、北欧人っぽい女性だった。割と親しげにしているので、琴音は彼らと協力関係にある事が分かった。
「その小さいガキは向こうに閉じ込めとけ」
「っ…」
涼子は兵士達によって奥の部屋に連れて行かれた。俺はこのままここにいていいみたいだが、どうやら彼らは俺の話を聞きたいみたいだ。
「なるほど、レイジと言うんだな。私はシローネで、こいつはカリド。お前も琴音と同じように、さっきの小さい女のせいでここに来たのか」
「はい」
「俺達は、さっきの女と同じだ。叶えたい願いがあるから、この世界に来たんだ」
しかし、この世界に来て願いを叶えるとは、どう言う事なのだろうか。確かにこちらの世界は俺達のいた世界とは随分違うので、願いを叶えてくれる神でもいるのかも知れない。
「レイジは琴音と同じか?元いた世界に帰りたいのか?」
「…帰りたいです」
「微妙に頼りない返事だな。まぁいい」
一応、俺としては帰りたい意思はあったが、そのモチベーションが低い事は見抜かれていた。向こうの世界に帰れても、きっといい事ばかりでは無いからだ。
「あなた達の願いは…」
「俺は家が貧乏だったんだ。たがら、家族に少しでもまともな暮らしをさせてやりたい」
どの様な願いなのか聞いたら、カリドさんはあっさり答えてくれた。家の経済状況を改善させたいというのは、立派な願いだろう。
「私は地位と権力を望んだ。これ以上話すつもりは無い」
地位と権力を求めている理由を聞きたかったが、そんな無駄な事をするつもりは無い。そもそも出会ったばかりの人間に、自分の望みを話そうとしない方が自然だろう。
「私達は涼子に聞きたい事がある。レイジと琴音はゆっくり休んで欲しい」
そのままシローネさん達は別室へと移動して、部屋には俺と琴音しかいなかった。俺は琴音に最近の様子を聞きたかったので、好都合だった。
「琴音はどんな感じだった?」
「退屈な毎日だったよ」
琴音は大学に進学しても、退屈な気分で過ごしているみたいだ。昔から気怠げそうな雰囲気だったので、想像の範疇だが。
「レイジはどうするの?もう高3でしょ?」
「それは…」
正直言って、何も決めていないというのが本音である。どんな仕事がいいかを決める事が、未だに出来ないのだ。
「自分が何がしたいのか、分からない。それでも元の世界に帰りたい」
俺はどうすればいいのか分からなくても、元の世界に帰りたかった。この世界も悪い所ではないが、いつまでもいていい場所では無い様に感じた。
「琴音も帰りたいのか?」
「うん。こっちは色々と不便だし」
なるほど、昔からめんどくさがりな琴音らしい理由だった。とは言え、俺が帰りたがる理由の大部分もそれなのだが。
「元いた世界に帰りたいんでしょ。だったら一緒に頑張ろうよ」
「うん…」
琴音は元の世界に帰る事については、割とやる気があるみたいだ。ここまで琴音がやる気を出している事も、珍しいと思っていた。
「話してる所悪いんだが、来てくれ」
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