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「らいと5番さん指名~。」
内勤の人がバックヤードにいる私にそう伝える。
「ぴちゃんですか?」
「そうだね。桃酎ハイワンセットね。」
こく、と私は頷くと自分のロッカーを開けて香水を手に取り、自分に振りかける。その後に温かいおしぼりを手に取り、桃の酎ハイを2缶業務用の冷蔵庫から取りだし、鏡を見て髪型等を整える。
一日の始まりのルーティンである。
バックヤードから出て、見る店内はいつも通り。少しばかり暗めの店内に、左を見れば個室のVIPのお客の席。中央奥にはステージがあり、右から奥には通常のテーブル席で数えて5番目の位置に私のお客の「ぴちゃん」は座っている。
洒落た小さめのシャンデリアが天井から垂れていて、丁度その真下辺り。
「らいと、おはよー!さっき起きて来たよー!」
「連絡みてたからさっき起きたの知ってる。はい、おしぼり。」
少しぬるくなったおしぼりを広げて渡す。
私の今月のエースで、指名エースのぴちゃん。ここ2週間は毎日来てくれている。
※エース 1ヶ月で1番お金を使うお客さん
※指名エース 1ヶ月で1番指名してくれたお客さん
私はぴちゃんの隣に座ると、いつもと同じようにテーブルに置いてある2つのグラスを手に取り、酎ハイの缶をプシュっと開けて、グラスに注ぐ。
「俺、氷入れていい?」
「いつも、最初から持ってきていいから!」
笑いながらそう答える。
ぴちゃんは、飲む時に氷がとても邪魔で飲みにくいから、と氷を入れない。そもそも氷自体無料提供なのだから勝手に持ってこればいいものを、よく忘れてしまう。
「それでね、来週締め日でしょ?その時のために1週間出稼ぎ行ってくるね。」
※締め日 その月の最終営業日
※出稼ぎ ホストの場合、地方での風俗のこと
「わかった。いつもありがとう。ぴはいつも頑張ってるな。はっきり言って尊敬する。そんなとこが好きだわ。」
流れるように嘘を吐く。それでもその言葉を聞いたぴちゃんは照れながらもニッコリとグラスのお酒を飲んでいる。本営は楽でいい。
※本営 本カノのように振る舞いお店に来てもらう
ホストの好きは大嘘。正しくその通りで、好きなど思うこともない。しかし、当人は本当だと思っている。いや、思い込んでいるのか。私は女性ではないのでわからないが、嘘だとはバレない。しかし、私自身が本当に好きになってしまうとエースであるのに、お店に呼びたくなくなってしまう。それどころか、出稼ぎだって行かせたくなくなるわけだし、ホスト自体を辞めたくなるのではないだろうか。恋は命取りだ。
「5番~桃酎ハイツーセット~」
テーブルに置いてあるお酒が無くなってきたので少し声をあげて内勤の人に伝える。そうすると、1分ほどで頼んだお酒を持ってきてくれる。
毎日こんな感じでお酒を一緒に飲みながら、お客の愚痴を聞いたり、楽しみたいお客ならゲームをして、盛り上げ楽しんでもらう。
お客が楽しいのは当たり前。
でも私は?
そりゃ何も楽しくないよね?
内勤の人がバックヤードにいる私にそう伝える。
「ぴちゃんですか?」
「そうだね。桃酎ハイワンセットね。」
こく、と私は頷くと自分のロッカーを開けて香水を手に取り、自分に振りかける。その後に温かいおしぼりを手に取り、桃の酎ハイを2缶業務用の冷蔵庫から取りだし、鏡を見て髪型等を整える。
一日の始まりのルーティンである。
バックヤードから出て、見る店内はいつも通り。少しばかり暗めの店内に、左を見れば個室のVIPのお客の席。中央奥にはステージがあり、右から奥には通常のテーブル席で数えて5番目の位置に私のお客の「ぴちゃん」は座っている。
洒落た小さめのシャンデリアが天井から垂れていて、丁度その真下辺り。
「らいと、おはよー!さっき起きて来たよー!」
「連絡みてたからさっき起きたの知ってる。はい、おしぼり。」
少しぬるくなったおしぼりを広げて渡す。
私の今月のエースで、指名エースのぴちゃん。ここ2週間は毎日来てくれている。
※エース 1ヶ月で1番お金を使うお客さん
※指名エース 1ヶ月で1番指名してくれたお客さん
私はぴちゃんの隣に座ると、いつもと同じようにテーブルに置いてある2つのグラスを手に取り、酎ハイの缶をプシュっと開けて、グラスに注ぐ。
「俺、氷入れていい?」
「いつも、最初から持ってきていいから!」
笑いながらそう答える。
ぴちゃんは、飲む時に氷がとても邪魔で飲みにくいから、と氷を入れない。そもそも氷自体無料提供なのだから勝手に持ってこればいいものを、よく忘れてしまう。
「それでね、来週締め日でしょ?その時のために1週間出稼ぎ行ってくるね。」
※締め日 その月の最終営業日
※出稼ぎ ホストの場合、地方での風俗のこと
「わかった。いつもありがとう。ぴはいつも頑張ってるな。はっきり言って尊敬する。そんなとこが好きだわ。」
流れるように嘘を吐く。それでもその言葉を聞いたぴちゃんは照れながらもニッコリとグラスのお酒を飲んでいる。本営は楽でいい。
※本営 本カノのように振る舞いお店に来てもらう
ホストの好きは大嘘。正しくその通りで、好きなど思うこともない。しかし、当人は本当だと思っている。いや、思い込んでいるのか。私は女性ではないのでわからないが、嘘だとはバレない。しかし、私自身が本当に好きになってしまうとエースであるのに、お店に呼びたくなくなってしまう。それどころか、出稼ぎだって行かせたくなくなるわけだし、ホスト自体を辞めたくなるのではないだろうか。恋は命取りだ。
「5番~桃酎ハイツーセット~」
テーブルに置いてあるお酒が無くなってきたので少し声をあげて内勤の人に伝える。そうすると、1分ほどで頼んだお酒を持ってきてくれる。
毎日こんな感じでお酒を一緒に飲みながら、お客の愚痴を聞いたり、楽しみたいお客ならゲームをして、盛り上げ楽しんでもらう。
お客が楽しいのは当たり前。
でも私は?
そりゃ何も楽しくないよね?
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