私の全てを奪ってくれた

うみすけ

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今日もまた仕事だ。今日からぴちゃんは出稼ぎにいくので、他のお客を呼ばなければならない。この事をすっかりと忘れていた。

腕時計をみると、時刻は18時頃。営業開始まで後1時間しかない。少しゆっくりし過ぎた。これはを組まないと怒られる。

※同伴 お客さんと一緒にお店に出勤すること

やばい、やばい、と私はお客の何人かに連絡をした。そんなにすぐに返信が返ってくることは中々ないので、外に出て道行く女性に声を掛けていこうと思う。キャッチと言うやつだ。行ってることはナンパと変わらない。

10人くらいに声をかけて1人でも食いついてくれたらラッキーくらいの気持ちで声掛けをする。

そんな折に、少し大きめの鞄を抱えた女性がスマホをみてキョロキョロとしている。

とりあえず、と声をかけてみる。

「おはよ。キョロキョロして何してるの?」

女性は少し目を開きギョッとして答える。

「だ、大丈夫です…」

少し長めの髪の毛に身長は低めのその女性から、私の好きな匂いが漂う。この子の連絡先は欲しい。本能的にそう思った。

「なんか、困ってることある?」

少しでも乗っかってくれないか、と私は声を掛ける。

「…実は…」

事の顛末をぽつりぽつりと話し始めた。案外あっさりと反応をしてくれた。

彼女は大学生で学校の用事でこの辺にいる事。住んでる所は地方で新幹線で大体3時間ほど。ただし、用事は明日なので今日泊まれそうな所を探してると言うこと。

うんうん、と話しを聞いて、私は答える。

「じゃあ俺の家使っていいよ。」

変な気があってそう言ったわけではない。今から私は仕事だし、深夜帯はどこかに飲みに行けばいい。私はこれを口実に連絡先を、交換できる。

「ええ?嫌ですよ!」

こんなに断られるか…とガッカリしたが、大丈夫だと言うことを伝えた。

「え、本当にいいんですか?」

肩にかかった髪を彼女は触りながらもう片方の手でもっていたスマホをポケットにしまう。それと同時に私はバッグから家の鍵を取り出す。色んな鍵の中から1つを持って

「いいよ。これが家の鍵。1階のとこは5963のごくろーさんで空くから。連絡先だけ交換しといて。」

わかりました、と彼女はポケットにしまったばかりの携帯を取り出す。


ここまでしたが、地方の子じゃ店には呼べないな、とか、今日店に呼べばよかった、と考えてしまう。

連絡先を交換してる時に、携帯の時間をみると19時になろうとしていた。連絡してた私のお客から返信はしっかりきてることも確認した。

「俺は明日の朝7時に帰るから、その時に鍵返して。家はそこの信号を渡って右に曲がったところのマンションだから。5階の501。」

そう伝えると、彼女はありがとうございます!と立ち止まったままで私を見送ってくれた。

家提供する必要なかっただろ、とそのまま見捨てることをしなかった私はしくじった、と考えながら、同伴の約束が出来たお客との待ち合わせ場所に向かう。歩く道中、冷たい風が私の全身を伝う。気温は零度近く。2月になったばかりのこのとても寒い時期が大嫌いだ。そんな事を思ってるからか、ポツリと私は呟く。

「冬より夏派だな。」
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