私の全てを奪ってくれた

10

あれから1年が経つ。私と夏海は順調に付き合っていた。私は夏海の住む街へと新しくアパートの一室を借りて、半同棲のような形で過ごしていた。


「まちか、大好きだよ。」


そう、夏海が言葉にするのは毎日の日課みたいなもので、それに対して私は


「知ってる。」


の一言で終わらせる。ホストをやっていた時は嘘を隠して偽の愛を相手に伝えていたが、今の私にはなぜだか、本心の愛を伝えるのはとても恥ずかしい。私にとってはもう安心できる彼女なのだから言葉にしなくてもわかるでしょ？


「なんで好きって言ってくれないの！」


そう、少しだけ怒りながら言う夏海は出会った時から変わらない髪の長さに茶髪で、メイクをしなくても可愛らしい顔つき。匂いもふわっと香り、シャンプーではなくて夏海の匂いで、私の好きな匂い。


「好きじゃないから」

「は？」

「嘘だよ。そんなことないから。」


いつもこんな感じに私は誤魔化す。夏海がメンヘラチックじゃなくて助かっている。どう考えても、刺されるくらいには塩対応なのだから。

「そんな事言ってると、私が離れちゃうぞ～」

「大丈夫、夏海は俺の事好きだから。」

「好きだけどさ…！もう！」

少し不機嫌な顔をしている夏海だが、5分も経てば機嫌が戻る。1年の間にこんな感じのやり取りを何回したか。


「今日の夜、まちかは何食べたいー？」


だから、このままずっとこの幸せな状態が続くと思っている。きっとこのまま夏海と結婚もするんだろう。


「簡単なものでいいよー。うどんとか。」


本音を嘘で固める癖は抜けていないが、夏海もそれは分かっているはず。


「じゃあ、冷凍の麺が残ってるしうどんにするね。」


夏海からの愛を受け、私は言葉にしないが伝えている。そのつもりでいた。


「オッケー。助かるわー。」


そのつもりだった、この幸せは続くはずだった、さよならなんて、訪れるわけないと思っていた。

思っていたから、そんな事が起きた時の対処法なんて知り得もしない、考えもしないことだった。