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6 雨上がり
しおりを挟むーーコンコン
呆然と部屋にいると、部屋がノックされる。
「はい」
「お食事をお持ちしました」
「……はい」
フレディが食事のトレーを持って入室した。
いつもは部屋の外にトレーを置いてすぐにいなくなるのに、こんなことは初めてだ。
ハイテーブルにトレーを置くと、フレディは私のベッドに近づいてエスコートするように手を出した。
「震えていらっしゃいますね。
歩けますか?」
「え、震えてなんか……」
そう思ったが、どうやらいつの間にか体は震えて寒そうに両肩を抱いていた。
「エリーゼ様……失礼致します」
「ひっ!」
ベッドに座る私を抱き上げて、数歩先のハイテーブルの椅子に下ろす。
「失礼致しました。
エリーゼ様、本日は昼食がこのような時間になってしまい申し訳ありませんでした。
どうぞ召し上がってください」
「え……あ、はい」
さっきから、フレディがやけに丁寧に話しているのは気になるけれど、とりあえずお腹はすごく空いていたので、食べようと思った。
しかし、どうしてだろう。
少し、いや、かなり食事が豪華だ。
いつものパンじゃない。
見たこともないおしゃれな前菜と、よくわからないけれど香ばしい香りのクリームスープ、メインのお魚、パンも普通のじゃない、なんだろう、名前なんてひとつもわからないけれど、すごい。
「いただきます」
そうしてスプーンを持とうとしたのに、スプーンはすり抜けてトレーの上にカランと落ちる。
「え……?」
右手が、どうしようも無く震えていた。
それどころか、すぐに視界が歪む。
ぽた、ぽた、と雫が手に落ちた。
どうして……だろう?
なんで、涙が出るの?
すぐにフレディが隣に座り、白いハンカチで涙を拭いてくれた。
でも、何が起こっているのか、私には何も分からない。
「エリーゼ様、私がお手伝い致します。
体力をつけるために、どうか食べてください」
フレディが私の手を持ってスプーンを握らせてくれるが、まともに力が入らない。
「……っ」
どうしてだろう?
お腹が空いているのに、涙が止まらない。
どういう意味の涙なのかも、何も分からない。
「エリーゼ様……」
フレディは何も言わずに、ずっと私の涙を拭いてくれた。
スプーンを握らせてくれる手の温かさも、そっと涙を拭いてもらう感覚も、初めてのことだった。
フレディに手を操作してもらいながら、半ば食べさせてもらうような形になる。
この涙の意味も、あの意地悪なフレディの献身も、何もかも理解できない。
そして、食事を終える頃にはすっかり嵐も止み、あのしとしとという雨音だけが響いていた。
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