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37 魔法のお勉強

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誰もいなくなった室内で、寒くもないのに両肩を抱く。


それは得体の知れない不安感。


クリス先生が、どこかおかしかった。


そのことが心の奥底で棘の様に引っ掛かる。


なんだか、嫌な予感がする。


「フレディ……」


小さく呟いたその名前が、あのフレディの名前であることに自分でも驚いた。


「お呼びでしょうか」


どうやってこんな小さな声が聞こえたのだろうか、フレディはスッと部屋に入ってくる。


「え……すごい、聞こえたんですね」


「ええ、エリーゼ様の呼ぶ声には、いつだって対応できる様にしております」


そんな忠実すぎる答えに、思わず笑ってしまう。


「あの、フレディはクリス先生がどういう人に見えていますか?」


すると、そのエメラルドグリーンの瞳は右上に動いた。


「クリストフ医師について、私がどう見えているか、ですか。
私は……あの医師のことを快く思ってはおりません」


さっきクリス先生に鋭い目線を向けていたから、そうだろうなとは思っていたけれど、何か因縁でもあるのだろうか。


「理由を聞いてもいいですか?」


「そうですね、一つ挙げるならエリーゼ様を愛称で呼ぶところですね。
普通に腹が立ちます」


「そこなの?」


「はい、今後はあまりあの医師を呼びたくないですね。
私には回復魔法の適性はないのですが、回復の種を食べて適性を上げて、実用レベルにすることを本気で考え始めています」


急に分からない単語が出て来た。


ちょっと話についていけない。


「回復の……種?
そんなものがあるの?」


「はい、希少なので手に入れること自体が難しいのですが、魔法適性を上げることができるものです」


魔法適性……?


魔法を使う適性だろうか。


「それって、もしかして、私もその種を食べれば、魔法が使えるんですか?」


もし、それを食べて魔法が使えるなら、私の悩みの一つは解消される。


まさに夢のような代物じゃないか。


しかし、フレディはあっさり否定する。


「いえ、それは難しいでしょう。
いい機会なので、朝食後に魔法のお勉強をしましょうか」


「そっか……でも、ありがとうございます。
ずっと魔法のお勉強がしたかったんです」


魔法の勉強をしましょうという言葉が、純粋に嬉しかった。


魔法を使えない私が魔法の勉強をする意味はない、勉強したって使えないなら不毛なことだ。


それでも、興味はすごくあった。


どうしたらそんな不思議な力が出るのか、分からないことばかりだったから。













朝食後


「それでは始めましょうか」


「はい!」


フレディはベッドサイドに座ると、私に魔法の教科書を見せながら、講義を始めてくれた。


内容を要約するとこうだ。


魔法には魔法属性と魔法適正と言うものがある。

魔法属性は炎、氷、雷、風、大地、聖、闇、呪、回復、補助がある。

その属性の適性のことを魔法適性という。

魔法適性は数値化されており、適性0だとどんなに頑張っても、その魔法は発動しない。

適性100以下は魔法自体は発動するけれど、弱くてあまり効果が期待できない。

100くらいが実用化できるレベルであり、500くらいあれば相当得意といえる。

その魔法を使い込むことによって魔法適性は上がる。



種はその属性の適性を50上げることができる。

適性0の人がその属性の種を食べると適性値を50に上げることができるし、発動しなかった魔法が発動できるようになる。



魔法を使う上で大事な能力は、魔力である。

魔力は生まれた時に決まるので、その後の努力では変わらない。

魔力と魔法適性によって、発動する魔法の強さは変わる。

たとえば、炎の魔法適性が100あったとして、魔力が50の人が発動するのと、魔力300の人が発動するのでは、魔法の威力が変わる。

魔力はだいたい50~300くらいであることが多い。

この国では5歳の誕生日に教会で魔力を計ることになっている。


「それってつまり……」


「はい、エリーゼ様の魔力はゼロです。
ですので、種を食べても魔法は使えません」


「そんな……」


すると、フレディは腕を組んで少しだけ考え事をしていた。


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