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38 乙女にだけ効くワイン

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しばらく考えに耽っていたフレディは小さく何かを呟いてこちらに向き直る。


「エリーゼ様が、もし本当に魔法を使いたいのなら、一つだけ思い当たることがあります」


「本当に!?
何ですかそれは?」


「はい、確か……エイママギサスというワインがあるのですが、乙女にだけ魔力を与えるという変わったワインだと聞いたことがあります。
エリーゼ様がそのワインを飲めば、もしかしたら魔力を身につけられるかも知れません」


「乙女……ですか?
私は大丈夫なのでしょうか」


「はい、エリーゼ様は乙女だと思いますが……もしかして違うのですか?」


「え?そんなこと言われても、分からないです」


乙女か乙女じゃないかって、本人の自己認識ってことなのかな。


「でも、可能性があるなら、乙女ということで試してみたいです!」


一か八かでも、試せるなら試したい。


藁にもすがる気持ちだった。


これで魔法が使えるようになったからと言って、家族に受け入れてもらえるとまでは思っていない。


これは、自分のため。


自分に少しでも自信が持てるなら、とても素晴らしいことだと思った。


「かしこまりました、すぐに街に行って探して参ります」


「ありがとうございます!
よろしくお願いします」


フレディは行動が早くて、とても助かる。


もし手に入ったら、もし魔法が使えたら、もし……と想像するだけで、わくわくした。





そして昼食後


食後の紅茶を飲んだ後、安静にするようにとのことなので、ベッドに横たわる。


あちこちが筋肉痛だったので、身体を休めるというのも存外悪くない。


紅茶を下げようとしているレイアの手を止めて、気になっていることを聞いてみた。


「ねぇ、レイアはエイママギサスってワインを知ってる?」


すると、その琥珀色の瞳を数回瞬きさせた後に、レイアは小首を傾げる。


「ワイン……ですか?
私はお酒が飲めないので、全然詳しくないです。
そのようなワインがあるのですね」


「うん。
なんでも乙女が飲むと魔力がつくというワインらしいんだけど」


すると、レイアは唇の前に指を立てるようにして考えた。


その考え込む姿は、結構可愛らしい。


「乙女が飲むと、って……
なんだか、ものすごく怪しいですね。
その魔力って……別の意味な気がしますが」


「どういうこと?」


「分からないですけど、例えば……媚薬とか」


「びやく?何それ?」


「エリーゼ様には少し早いですが、まぁ、興奮作用のある薬品、といったところでしょうか」


「ふぅん、そうなんだ」


ただの興奮の薬だったら、それはガッカリだな。


レイアのこの反応を見るに、魔力が上がる薬かどうかは、眉唾物かもしれない。


あまり期待しすぎない方が良いのかな。


「ねえ、レイア。
私以外で魔力ゼロな人っているのかな?」


「そうですね。
少なくともエリーゼ様以外では見たことも聞いたこともありません。
魔力が少ない子は生まれて間もなく亡くなってしまうと聞いたことがありますから、魔力が無いとうまく育たないのかも知れません」


「そうなんだ。
同じ悩みを持つ人がいたらと思ったけど、いなさそうなんだね」


偶然にも、私は魔力無しのまま育ってしまったというのだろうか。


私の両親は、いつ死ぬかも分からない子供を手元に置くのが辛かったのだろうか。


だから、私だけ離れに住まわせているのだろうか。


何もかも、憶測に過ぎない。


……私だけ魔力を持たないなんて、世の中から嫌われているようだと思ってしまう。


しかし、それが現実なのだから、受け止めざるを得ない。


今までだって、嘆いたところで何も変わらなかったのだから。


「……レイアは何の魔法が得意なの?」


「私は風魔法が得意で、少しだけ炎魔法も使えます」


「そうなんだ!」


赤い髪なので、なんとなく炎かと思ったけど、風魔法なんだ。


「かっこいいなぁ」


その後も、レイアの魔法についての質問責めをしてしまった。

























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