うちの居候エルフが高貴すぎてしんどい

雉子鳥 幸太郎

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正真正銘の淫魔です⁉

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「シ、シルフィ様ぁーーーっ!」

理子がソファに寝そべるシルフィに抱きついた。

「な、何だお前は⁉ おい、森田! 貴様何を連れて帰った⁉」
「知らん、お前の知り合いだ」

「何⁉ 我の……?」

シルフィのたわわに顔を埋めていた理子が「ぷはっ」と顔を上げる。

「シルフィ様、ワタシです! 参謀長のリリスですっ!」
「リリス⁉ お前……リリスなのか⁉」
「はい! お会いしたかったです、シルフィ様!」

満面の笑みを浮かべた後、理子は再びシルフィの胸に顔を擦り付ける。

「こ、こら、離れろ! 暑苦しい!」
「えーっ⁉ 折角、お会いできたのにぃ……」

「ぐ……ちょ、いいから座れ! 落ち着いて話もできん」
「はぁーい……」

渋々といった様子で、理子がソファに座り直す。
シルフィは体を起こし、やれやれとソファの上で胡座をかいた。

俺は二人にお茶を出す。
こうして並びで見ても、理子はヴィジュアル的にシルフィに負けていなかった。
ううむ……眼福としか言い様がない。
そう思いながら、俺は少し離れて床に座った。

「いつ日本に来た?」
「先月です。もう我慢できなくなっちゃって……」
「しかし、我は女だぞ? お前の吸精の相手にはなれんが?」

吸……精?
何か話がおかしくなってきたぞ。

「やだシルフィ様、それくらいわかってますよ。単にシルフィ様のお近くに居たかっただけです。だって、ワタシのお師匠様なんですからっ!」

目を輝かせる理子。
シルフィのどこがそんなにハマったのか……。

「好きにするがいい。だが、奈落の牙の活動は疎かにしてもらっては困るぞ?」
「もちろんですっ! ちゃんとスケジュールも立ててますし、抜かりありません!」
「ならいいが……」

理子はキョロキョロと部屋の中を見て、
「ところで……シルフィ様と森田はこのボロ屋で寝泊まりしているのですか?」と失礼なことを言う。
「ボロ屋じゃねーし! 古民家風だし!」
突っ込むと理子がジロリと俺を見た。
「森田、シルフィ様に変なことしてないでしょうね?」
「ばっ……⁉ す、するわけないだろ⁉」

「安心しろリリス、こいつはだ」
「え……⁉ うそ⁉」
みるみるうちに理子の顔が赤くなった。

「よ、余計なことを言うなっ!」
「本当のことだろ? さすがに生まれてから一度も性交経験が無いというのは……我も不憫に思うぞ。だが考えようによっては、あと五年守れば妖精になれるわけだ。いっそのこと妖精になって我に仕える気はないか?」

くそっ、これに関しては何も言い返せない!
憎い……DTな自分が憎い!

「なれねぇし仕えねぇよ!」 

俺はそう吐き捨て、二階へ駆け上がった。


 * * *


二階には俺の寝室兼物置がある。
六畳でそんなに広くはないが、居心地は悪くない。

畳の上に敷いた布団の上で体育座りになる。
はぁ~っと大きくため息をつき、こみ上げる恥ずかしさに蓋をする。

壁の染みを見つめながら、どうして俺はDTなんだと自問した。
そもそも、シルフィと住んでいる時点で彼女なんてできっこない。

仮に俺に好意がある子がいたとして、家にシルフィが居たらどう思うだろう?
まず、間違いなく関係を疑うはずだ。

あとは自分とシルフィのルックスを比べて、戦意喪失するとか?
近くにあんな美人が居たら、普通の女性は近づいて来ないよなぁ……。

あれ? 俺って実は……絶望的な状況なんじゃね?

「お邪魔しまーす」
「え? お、おい……」

理子が部屋に入ってきた。

「ふーん、何も無いのね?」
「そ、そりゃ、ほぼ寝室として使ってるから」
「そっか」

ちょこんと俺の隣に腰を下ろす。

「え、ちょ……何か俺に用事でも?」

タオルケットを引き寄せ、少し理子から距離を取る。
すると、理子は離れた分以上に体を寄せてくる。

「もう、何で離れるのー?」
「え? だってそりゃ……マズいだろ?」
「何が?」
「何がって……あれ? あ、そうだそうだ、シルフィはどうした? ギルドの打ち合わせとかあるんじゃないのか⁉ そうだ、うん、大変だもんなぁ、俺は邪魔しないから二人でゆっくりやってくれ、うん」

緊張で思っている以上に早口になってしまった……。

「ねぇ森田、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?」

突然、大人びた表情になる理子。
やべぇ! とてもJKとは思えぬ色気……。

タオルケットの下で理子の手が俺の手に触れる――。

はぁ? おいおいおい!
何これ⁉ 突然おかしくない⁉

「ど、どうしたんだよ急に⁉」
「よく見ると森田って可愛い」
「か、可愛い? 俺が?」
「うん、可愛い……だから、ねぇ……食べてもいい?」

理子が顔を上気させ、いきなり俺の耳に噛みついた。
甘い吐息が鼓膜に響き、全身にゾワゾワが走り抜ける。

「ほわぇぁぁ~っ⁉ な、な、何を……⁉」
――と、その時、扉の方で声が聞こえた。

「リリス、何をしている?」
「あ、し、シルフィ様……」

理子が俺から離れた。

「ったく、まあ、お前の前で森田が無垢だと言った我も浅はかだったが……」
「い、いえ、そんなことは……あは、あははは……」
「すまんなリリス、森田はこれでも我の協力者だ、吸精ドレインは許してやってくれ」
「わ、わかりました……師匠がおっしゃるなら我慢しま……してみます」

「ど、どういうこと? 何だよ吸精って……」

俺が訊ねるとシルフィがやれやれと頭を掻いた。

「リリスは人では無い、淫魔だ」
「え゛⁉ い、淫魔ぁ⁉」
「稀に居るのだよ、我のように人間社会に適応して生活する、人ならざる者がな」
「ごめんね森田、DTって聞くとつい高ぶっちゃって。てへ」

ペロっと舌を見せる理子。
めっちゃ可愛いけど、もし吸精されてたらどうなってんの俺⁉

「ちょ……吸精されたらどうなんの?」
「恐らく十年は失うだろうな」

理子の代わりにシルフィが答えた。

「じゅ、十年⁉ 寿命ってこと?」
「そだよー、でもね、その代償に釣り合うだけの快楽は与えてあげられるかな……」

そう言って、理子はネットリとした目で俺を見る。
思わず、ぶるるっと身震いした。

「え、遠慮しておきます……」
「そっか、じゃ、ワタシ帰ります、また遊びに来ますねー」

天使のような笑みで、淫魔が帰って行った。

「た、助かったぁ……」
「リリスが本気になれば、魔法の使えぬ我など相手にならん……気を付けるのだな」

「わかった、あ……ありがとうシルフィ」
「……構わん、気にするな」

シルフィは片手を小さく上げると一階へ降りていった。

「はぁ……寝るか」

布団に潜ると、さっきの理子の吐息や体温を思い出してしまう。
うー、恐るべし淫魔……。

俺はぎゅっと目を瞑って素数を数えた。
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