忘れられた聖女とひとりぼっちの薬師 ~薬草農家を営んでいた僕が、禁忌の森で出会った記憶喪失少女と共同生活する話~

雉子鳥 幸太郎

文字の大きさ
13 / 36

13

しおりを挟む
 まだお昼には少し早いけど、ステラママの食堂は大勢の人で賑わっていた。

 えっと、テラスの一番奥だよな……。
 席を探していると、エプロン姿のステラママが出迎えてくれた。

「あらあら、来てくれたのねぇ?」
「あ、ステラさん、こんにちは」

「ちょうど今くらいの時間から混んでくるのよぉ~、ごめんなさいねぇ」
「いえ、とんでもないです……あの、テラスの奥の方で良いので空いてたりしませんか?」

「ええ、そろそろ空くと思うわ」

 ステラママが奥の方に目を向けると、三人組のお客さんが席を立った。

「ほらね、この店のことは何でもわかっちゃうの、ふふふ」

 可愛らしく笑って、僕を奥の席に案内してくれた。

「ありがとうございます。えっと、じゃあ……何かおすすめのランチをお願いします」
「だめね、シチリちゃん。そんなのじゃモテないわよ?」

「えっ⁉」

「おすすめのランチだなんて……」と、ステラママがため息交じりに顔を振り、
「これがデートだったらどうするの? おすすめのランチを頼む男なんて私ならお断りよ」と両手を腰に置いた。

「そういうものなんですか⁉」
「そうよ、そういうものなの」

 大きくステラママが頷くと、後ろの席から大きな笑い声が聞こえた。

「はははは! ママ、そんなにからかってやるなよ。坊主、気にすんな、どうせランチは日替わりのおすすめしかやってねぇんだから」

 男の人が酒を片手に笑っている。

「え、そうなんですか⁉」
「女の言うことを真に受けちゃだめよ? じゃ、おすすめのランチ、持ってくるわねぇ~」

 ステラママは鼻歌を唄いながら、店の方へ行ってしまった。

「……」

 呆然とステラママの後ろ姿を眺めていると、後ろからさっきの男の人が声を掛けてきた。
 オールバックの白髪、細くて鋭い目だ……。
 一見、怖そうな雰囲気だが、口を開くとその印象は一変した。

「よぉ、兄ちゃん。あんま気にすんなよ? 若いのが来ると、ああやっていつもからかうんだよ」
「そうだったんですね……。どうも、僕はシチリといいます」
「俺はマーカスだ、よろしくな」

 この人がマーカスさんか……見た目と違って気さくな感じだな。
 よし、ここからが勝負。さてさて、どうやって薬を渡したものか。

 モーレスさんの名前を出すわけにはいかないし……とにかく、まずは話をしないとな。

「あの、僕は薬師をしているのですが、マーカスさんは何をされている方なんですか?」
「適当」

「え?」
「だから適当だよ。じゃなきゃ昼間っから飲んでねぇっての」

 マーカスさんはグビグビとエールを流し込む。

「ぷはーっ! うめぇ!」
「……でも、お金とかどうしてるんですか?」

「まぁ、金は天下の回りものっていうだろ? だからよぉ、こんな俺のところにも、たま~に回ってくるのさ。それを逃さず、ガッと掴んで、グッとこう引き寄せてだな、自分のモノにするってだけよ……へへへ」

 大袈裟なジェスチャーを交えながらマーカスさんが答えた。
 何を言っているのかさっぱりだったが、僕は感心したように大きく頷いて見せた。

「なるほど……」
「おっ! シチリ、てめぇは見所があるな! よし、こっちに来て飲め!」

 マーカスさんが自分のテーブルに僕を呼んだ。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 席を移動すると、すぐにステラママが料理を運んで来てくれた。

「あらあら、いつの間にか仲良しになったのねぇ」
「うわぁ、美味しそうですね!」

 おすすめランチは白身魚と貝の入ったシーフードパスタだった。

「当然だわ、だって美味しいんですもの。ふふふ……じゃあ、ごゆっくり」

 ステラママは小さく会釈をして、他の席に向かった。

「さっき食ったが、そいつは絶品だったぜ。ほら、早く食っちまえよ」
「あ、はい、じゃあ、いただきます」

 ――んんっ⁉

 オイルに絡んだ濃厚な貝の旨味がじゅわっと口に広がる。
 だが、あっさりとした味付けの白身魚のお陰でしつこさを感じない。
 それにこの、プツップツッとした麺の歯ごたえとホロホロとした白身の食感が抜群に合う。

「うーん、これは確かに……」
「な? ホントここは飯が美味いんだ」

「はい、今まで来なかったのが悔やまれます」
「なら、これから通えばいいさ」

「そうですね……」
 マイカに食べさせてあげたいなぁ……。

「そういや薬師って言ってたよな?」
「ふぁい、ふぉうですけど……」
 僕は口にパスタを入れたまま答えた。

「どんな薬を扱ってる?」
「んぐっ……ちょ、ちょっと待ってください。サンプルがあるんで……」
 慌てて背嚢から傷薬のサンプルを取り出す。

「ふぅん……傷薬か」
 マーカスさんは傷薬を手に取って眺めている。

「あの、良かったら差し上げますよ」
「……金はねぇぞ?」訝しげに僕を見る。

「もちろんですよ、お近づきのしるしです。特に高価なものでもないので……」
「そうなのか? でも薬だろ?」

 片眉を上げながら鋭い目を向けられた僕は、一瞬背中に冷たいものが走ったが、
「材料と調合を工夫してありますから安価で作れるんです。効果もそこそこ良いですよ」と、精一杯の笑顔で返した。

「ふぅん……ま、ありがたく頂いておくよ」
 そう言って、ジョッキを飲み干すとマーカスさんは席を立った。

「じゃあな、シチリ。今度は一緒に飲もう」
「はい、ぜひ」

 マーカスさんに頭を下げ、その後ろ姿を見送った。

「ふぅ~……なんとか渡せたな」

 やっと肩の力が抜けた。
 こんなに上手く行くとは思わなかった。

 僕は残りのパスタを存分に味わった後、ステラママに挨拶をして家路についた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

元・聖女ですが、旦那様の言動が謎すぎて毎日が試練です

おてんば松尾
恋愛
かつて“奇跡の聖女”と呼ばれたステファニー・シュタインは、光の魔力で人々を癒す使命を背負い、王命によって公爵レイモンドと政略結婚を果たす。だが、奉仕の日々に心はすり減り、愛なき結婚生活はすれ違いの連続だった。 彼女は忘れられた灯台で不思議な灯台守と出会う。彼の魔法によって、ステファニーは聖女としての力と記憶を失うことを選ぶ。過去も夫も忘れた彼女は、まるで別人のように新しい人生を歩み始めるが―― 他サイトで完結している作品を上げます。 よろしければお読みください。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

処理中です...