異世界ツアーしませんか?

ゑゐる

文字の大きさ
180 / 243

180 教師 (別視点)

しおりを挟む
* 別視点 加藤千晶 side *

 話は数日前にさかのぼる。

 ここは、とある高校の職員室。授業が終了した時刻。

 2年A組の副担任、加藤千晶ちあき(24歳女性教師)は、悩んでいた。
 隣の席には担任の志村健一けんいち(30歳男性教師)が座っている。


*    *    *


 どうしよう。
 私一人の力では、どうしようもない。修学旅行はあきらめるしかないのかな。
 でも生徒たちがかわいそう。

 私は、修学旅行について生徒と保護者に意見を聞いた。その結果は・・・
 生徒は全員、修学旅行に行きたいと答えた。
 保護者は、「修学旅行を実施してほしい」「修学旅行を中止にしてほしい」
 と意見が分かれた。

 私個人としては、修学旅行を実施したい。
 生徒たちの喜ぶ顔が見たい。それに私自身、旅行がしたい。
 この閉鎖的な生活には、もううんざりしている。

加藤「志村先生、修学旅行をどう思いますか?」
志村「賛成反対、どちらでもないです。学校の方針に従うだけです」

 志村先生、こういう人なのよね。なんか冷めていると言うか、機械的と言うか。
 悪い人では、ないんだけど・・・

 私は周囲から熱血教師に見られているらしい。自分ではそう思っていないけど。
 志村先生と私、バランスが取れているから同じ組の担当になったのかな。

 それより、学校側はどうするつもりなの?
 校長先生と教頭先生は、検討すると前に言っていたけど、日本人の「検討する」は「やらない」と同じ意味だよね。
 もうこれ以上厄介ごとを増やしたくない、みたいな感じだったし。

 またネットで宿泊先を探してみよう。個人的に情報収集するなら、問題ないでしょう。

     *

 海外は、だめね。東洋人が感染源だといううわさのせいで、差別されたり暴行を受けたことがニュースになっていたし。
 日本人が集団で歩いていると何をされるかわからない。やはり海外は無理ね。

 国内は営業を続けているところがあるけど、小さな宿ばかり。大きなホテルは、団体客お断り。

志村「また、宿泊先を探しているんですか?」
加藤「はい。ただ調べているだけです」
志村「宿泊出来て、感染もしない、
   そんな魔法・・みたいな旅行先があれば、いいですね」

 うわー、なにそれ? いやみ?

 魔法・・・

 そう言えば、そんなサイトがあった。胡散うさん臭いからスルーしたけど。
 あのサイト、また見てみようかな。

     *

 これだ。異世界ツアー、2泊3日、15万円。
 なに? 異世界って? どこに行くの? 本当に異世界に行くわけじゃないでしょ。
 ツアー先は異世界・・・社名も電話番号もないけど・・・
 どこかの島にあるレジャー施設かな? これ行った人いるの?

 検索・・・

 いた! ほんとに? 写真がある。 一人じゃない・・・何人かいるみたい。
 行き先は、海、滝、湖、草原、森、マンモス? 恐竜? なにこれ? アトラクション?
 この人たち、グルなのかな。

 どうしよう・・・

 フリーメールのアカウントを作って、問い合わせしてみようかな。
 それなら学校に迷惑かからないし。学校名を出さなければ平気よね。

 使い捨てのアカウントでメールしてみよう。

     *

 何回か、メールをしてわかったことは・・・

 ツアーガイドの名前がアンナ。でも女性とは限らないよね。
 支払いは前金制で現金、振込不可。おカネを持ち逃げする気かな。
 現地で日本円は使えない。食事は外国の料理。やっぱり海外なのかな。

 行き先は異世界、観光地の移動は魔法、それって・・・

 『着ぐるみの中の人は、男性ですか? 女性ですか?』
 『人が入っているわけではありません。彼らはキャラクターです』・・・みたいな。

 客の夢を壊さないコンセプトかもしれないね。

 あと重要なことは、ウイルスの感染リスクについて。
 質問したら、ウイルスの感染リスクは無いって、断言した。
 どうして断言できるの?
 施設を貸し切りにするのかな?

 大体わかった。謎はたくさんあるけど。

 聞きたいことは、これくらいかな。
 最後にちょっと意地悪な質問をしてみようかな。

私  「事前に現地を視察することは、可能ですか?」

アンナ「可能です」

 え? 可能? ほんとに? 国内かな? ひょっとしてVR?(ヴァーチャルリアリティー)

 まさか、事前に現地を視察できるとは、想定していなかった。どういうこと?
 どうしよう。
 私、何かヤバイことに首を突っ込んでいるのかな?
 ちょっと冷静になって考えよう。

私  「現地の視察を検討します」

アンナ「わかりました」

 本当に検討するよ。遠回しに『やらない』と言っているわけじゃないよ。

     *

 一日考えた結果。

私  「現地の視察を希望します」

アンナ「歓迎いたします。日時と集合場所を指定してください」

私  「次の日曜日、午前10時、新宿アイランドタワー、LOVEの前」

 約束しちゃった。もう後には引けないよ。
 あとは、志村先生にこのことを話せば、心配して一緒に来てくれるはず。

     *

志村 「えっ、異世界に行く? 視察に?」
私  「はい」
志村 「それ、だまされていますよ」
私  「おカネは払いませんから、大丈夫です」
志村 「いつ行くんですか?」
私  「次の日曜日、午前10時、新宿アイランドタワー、
    LOVEの前で待ち合わせです」
志村 「明日ですか?」
私  「はい・・・心配いりません。大丈夫です」
志村 「どうなっても知りませんよ」

     *

 視察の当日、日曜日、午前9時50分。
 新宿アイランドタワー、LOVEの前に到着したけど・・・

私  「志村先生、おはようございます」
志村 「のんきですね」
私  「相手がどういう人か、見に来たんですか?」
志村 「ぼくも一緒に行きます」

 思惑どうり。

私  「心配いりません。相手は女性ですから」
志村 「相手は女性を語った男性だと思いますよ」
私  「いいえ、女性です。私はかんがいい方です」
志村 「女の勘ですか? 宛てになりませんよ」
私  「10時になれば、わかります」

     *

 午前10時。


*    *    *



アンナ「ようこそ、異世界へ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

処理中です...