恋敵と恋人同士になったら。~恋敵と傷心旅行へ行ったら。その後のふたり~

緒川ゆい

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11.もう我慢してやらない

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 いじめてるってなんだ! お前はガチで俺のおかんなのか!

 言い返したかったけれど声は出せなかった。それは畑中もだったようで、やつも困惑したように柊真を見上げるばかりだ。

「答えないの? まあそれならそれでいいか。訊きたいってよりは言いたいだけだから」

 溜め息混じりに言い、柊真は長身をひょい、と折る。畑中の顔を間近に見つめ、一言一言区切るように言った。

「双葉は俺のだから。なんか用事あるんなら俺通して。今度ちょっかいかけてるの見たらただじゃおかない。いい?」

 淡々とした声音だった。けれど容赦なくて冷たくて……敵意がしっかりと滲んだ声だった。則正を間に挟んでいたときでさえ、あんな声を向けられたことなどなくて……少し、怖かった。

「行くよ、双葉」

 呆気に取られている間に腕が取られる。引きずられるようにしてその場を離れながらちらっと振り向くと畑中が夕日の中で俯いているのが見えた。
 あいつは結局なんだったのだろう。

 ――秋信くんもさ、君には心開いてる感じじゃない? 彼、則正くん以外には笑ったりする人じゃなかったのに。なんでなのかなあ。

 あんなふうに言ったのはなんでだ? あれじゃあまるで。
 ぐるぐるしている間にキャンパスの外に連れ出されていた。俺達の家はここから少し歩いた場所にある。すたすたと大股で帰路に着く柊真の足は止まらない。そうこうしている間に俺と柊真の家の真ん中にある踏切までやってきた。が、そこでも腕は放されないまま、踏切を越えさせられる。

「ちょ、秋信、家、あっち!」
「また苗字」

 俺の腕を引っ張ったまま柊真が言う。

「お前、まじでお仕置き」
「いや、苗字呼ぶの好きって言ったじゃん。ってそれはよくて! お前んちあっち! なんでこっち来てんの!」
「いい。今日はお前の家行くから」
「いやいや、だめだって!」

 なにを勝手なことを! 腕を取り返そうとするが、大きな手は離れない。

「こら! 放せ! やだって! 絶対、家に入れないから!」
「なんで? 誰かいるとかそういうこと?」
「はあ?! いるわけないだろ?!」

 なんでそうなるんだろう。意味がわからな過ぎてむかつく。暴れる俺を引きずるようにして柊真は踏切を渡り終え、俺の自宅へと足を向ける。

「じゃあなんの問題もないだろ」
「問題大ありだわ! とにかく、は・な・せ!」
「嫌だ」

 きっぱりと首が振られる。強引なところもあるやつだけれどここまで頑なな姿を見たことがなくて俺は怒鳴り声を口にしまい込む。その俺の腕を引っ張ったまま柊真が呟く。

「俺はめちゃくちゃ怒ってる。お前には俺のこの怒りを鎮める義務がある。だから俺はもう我慢してやらない」
「義務ってなに。そもそもなんでそんなに俺の家、行きたいの。面白くないって言ったろ」
「お前のことは全部知りたい。お前の家行ったとき、お前がどんな顔見せてくれるのか。俺はずっと知りたかった」

 物おじすることなく堂々と言い切られて返事に詰まる。柊真は前方を見据えたまま俺の腕を引き歩き続ける。

「これまではお前が嫌がるならって我慢してた。誰だって見せたくないものはあるのかもって思ったし。けど……もう我慢するのはやめた。ここのところ悶々と考えてたけど、結果ろくなことにならなかった。思ったまま全部伝えないとお前には伝わらないから」

 手を掴んだ手に力が籠る。決意そのものの力に思えて困惑する。こちらも頑なに嫌だと言えなくなる。けど、やっぱり、俺は、怖い。

「そんなこと言っても……見たら後悔するものってのも世の中にはあると思う」
「たとえば?」
「え、なんだろ、鶴の恩返しの鶴とか」
「なんだそれ」

 くっと柊真の肩がわずかに揺れる。そうされて少しだけ、落ち着いた。

「鶴ほどじゃないかもしれないけど……俺の部屋見たらさすがにお前、引くと思う……」
「引く?」
「だから……」

 ああ、駄目だ。恥ずかしいとか言っている段階じゃもはやない。きゅっと瞼を瞑って俺は叫んだ。

「汚いんだって! 猛烈に! お前の家の百倍! そんなの見たら引かれるから! だから嫌だったの!」

 沈黙が来た。数秒黙っていた柊真がふうっと深く息を吐いたのがわかった。

「お前ってほんと、馬鹿」

 俺の手を握り締めていた手がかすかに緩む。が、すぐにもう一度きゅっと握り直された。

「部屋が汚いくらいで俺が引くって本気で思ってんの? あるわけないだろ。大体、則正と一緒に行ったとき、そこまで汚くなかったし」
「あのときは片づけたの! 今はその……まあまあきてるから。さすがのお前でも……」
「引かない。お前がどんなでも嫌いになんてなるわけない」
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