ひーやん

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小学6年生までの話

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 5月頃だった。
 私の住んでいる町では毎年夏の前に陸上大会がある。町にある3つの小学校合同で行う町の陸上大会。小学5年生の部と小学6年生の部があって基本的に全員参加だった。
 私のいた小学校は1学年1クラス30人弱の小さな学校で、(他の2校もそんなもんだけど)だいたいこの季節になると放課後に陸上大会に向けて練習をするようになった。大会に出場できるのは5、6年生からだけど練習はなぜか4年生から。3学年みんなでウォーミングアップをして、その後出場する種目の練習に入る。
 ウォーミングアップ。準備運動をしたら校庭に引かれた100メートル走のラインの前に各学年4列に並ぶ。右から新体力テストの50メートル走が速い順になるように。毎年私は2列目の先頭にいる。そして毎年右隣は同じ人。最後の年である今年も、それは変わることはなかった。
 渡辺光。ひーやん。彼は私の学年で誰よりも速く走ることができる。毎年、毎年私はあなたに敵わない。私はずっと2番目だった。
 なんで走るのが速いというだけでこんなにも気になる存在になってしまうのだろう。私が唯一敵わない相手だからなのだろうか。とにかく私は今日も彼を目で追ってしまう。私の右のレーンで股関節回しをし、腿上げしている彼を感じてしまう。なんでなんだろう。恋だと気づくのにそう長くはかからなかった。
 ウォーミングアップの最後は50メートルダッシュ。
「よーい、はい」
一列後ろの列の1番右側の人が(つまりひーやんの一個後ろの人)が手を叩くと、ひーやん、私、かけやん、ひなたが駆け出して行く。
 あぁ、私はやっぱりあなたに敵わない。そう思うたびにやっぱり気になってしまう。
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