ひーやん

文字の大きさ
上 下
8 / 8
中学1年生の話

1

しおりを挟む
 次にひーやんと会ったのは中学1年の2学期、10月くらいのことだった。
 地元の中学校は、町にある3つの小学校に通っていた人が集まる1学年3クラス、1クラス40人くらいの規模の中学校だった。
 中学校に入り、人生で初めてクラス分けを経験した。私は1年2組になった。2組という響きがしっくりこなかった。
 他の小学校から来た人たちとも仲良くなった。特に部活が一緒の子とは過ごす時間も多くすぐに友人になった。
 走るのが得意だった私は陸上部に入った。陸上部では小学生の時と同じく短距離とハードルを始めた。
 中学に入ると、私のことを「あかりっぴー」と呼ぶ子はいなくなった。あかりん、あかりちゃん、あーちゃん、あかりさん、と無難になった。〇〇ぴーと呼ぶのが小学校の流行りだった。ちっぴーもなんとなくちーちゃんと呼ぶようになった。
 たつにいは同じ1年2組で、席は私の後ろだった。同じ陸上部で、なんでもそつなくできる器用な彼は4種競技をやっていた。
 なんでもそつなくできて、誰からも嫌われなくて(もちろん先生からも)空気を読んで行動できて、周りに気をつかえる彼は1学期の学級委員長だった。(小学校の先生の推薦らしい)みんなが彼を羨ましがったし憧れたけど、自分を押し殺していい子を演じている彼を私は可哀想だと思っていた。そんなことを冗談めかしで言ったら、やっぱバレてたか、と小さく笑っていた。それからは何となく、愚痴を聞いてあげる仲になり、お互い本が好きだった私たちはよくどちらかが「ブックトークしよ」と言い出すと、今読んでいる本について語り合った。
 彼のおかげで私は有川浩を知った。図書館戦争を貸してもらった。
 本当に気を遣わないで済む友達だったと思う。リーダーっぽいし、よくリーダー役をやらされえるけど素は静かな人だった。なんとなく似ているところがあって波長が合う人だった。
 彼の顔が広いお陰で彼と同じ小学校の人とも仲良くなれた。特にふっちーとみほんことは仲良くなって、オタクの2人に染められて私はどんどんアニメと漫画の世界へとのめり込んで行った。
 同じ陸上部だと、りあなと仲良くなった。たつにいの幼馴染らしく、よくたつにいの話を聞いた。たつにいが好きなのかと思ったら、「あいつはみんなのたつにいだから」と笑った。やっぱりモテてたらしい。
 結構中学校に慣れてきて、ひーやんへの気持ちをそっとしまい始めた時、ひーやんはいきなり現れた。
 学級活動の時間に担任の長谷てぃーに連れられて、やってきた。中学の制服、上履き、ナイキのエナメルバッグ。髪の毛が生えていて、二本の足で立っている。
 あぁ、ひーやんだ。と思った。
 午前中だけ学校に来て午後には帰るらしい。
 「じゃあ、光くんも来たことだし、席替えしましょうか」
 長谷てぃーの声で教室がざわざわとなった。1ヶ月に1度の席替え。四隅の子がジャンケンをして勝った子から蛇の字の順で長谷てぃーお手製の席替え割り箸を引いていく。
 私は1番後ろの席になった。うちのクラスはひーやんを入れると42人。横8列縦5列で真ん中だけに6列目が2席ある。その6列目の席だった。ラッキー。
 長谷てぃーが黒板に描いた雑な四角形の中に自分のネーム磁石を貼っていく。              
 私の隣の席には、「渡辺光」のネーム磁石が貼られていた。
 「よろしく。」
「よろしく。」
それしか話せない。せっかく会えたのに。こんなラッキーなこと、ないのに。
 嬉しいのに。
 気づいたら学級活動は終わっていた。休み時間も終わっていた。
 次の授業は社会科。科目自体大好きなのに先生のせいで本当につまらない。ボーッと話を聞いてると、隣でひーやんがガサゴソとエナメルバッグを漁っている。真っ黒い本を取り出して、バレないように膝の上にで開いて読み始めた。
 「何読んでんの?」小さめな声で話しかけると、本の表紙を見せてくれた。
 雑学の本。
 めちゃめちゃどうでもいいことが書いてあった。人は人生で何匹ゴキブリを食べるとか、蛇の交尾はめちゃめちゃ長いとか。ひーやんは私にも見やすいように2人の間で本を開いてくれた。バレないようにくすくす笑いながら社会科の時間を過ごした。
 いつのまにか社会科の時間は2人でひーやんの雑学本を読むことが日常になった。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...