緋い悪夢

鬼灯計都

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その後の譚

巻き戻された時間

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 秋好村での壮絶な一夜を終え、5人は民宿に戻り、荷物をまとめてランドクルーザーに乗り込んだ。侑里と老夫婦に見送られ、朝焼けの中、村を後にする。車は細い山道を下り、ようやく舗装された道路に出たところで、皆がほっと息をついた。  
「やっと脱出したぜ……もう二度とこんな村には来ねぇ」
アレックスが後部座席で大げさに身体を伸ばすと、「お前、フラグ立てんなよ」と龍之介が笑いながら突っ込んだ。玲音はまだ疲れた顔で助手席に座り、「でも、無事でよかった……」と呟いた。雅弘はハンドルを握りながら、「温泉でゆっくりしたら全部忘れられるさ」と明るく言った。碧斗は黙って窓の外を眺めていたが、左上腕の疼きがようやく収まったことに安堵していた。  
その時、龍之介がポケットからスマホを取り出し、画面を見て思わず叫び声を上げた。

 「おい、日付跨いだはずなのに……!」  
「何!?」
雅弘が運転席から振り返り、アレックスと玲音も一斉に龍之介に視線を向けた。碧斗も助手席から身を乗り出し、龍之介の手元を覗き込む。  
龍之介のスマホ画面には、現在の日付が表示されていた。だが、そこに映し出されたのは、村に迷い込んだ日――つまり、旅行二日目の日付だった。秘祭の夜を戦い抜き、朝を迎えたはずなのに、日付はまるで進んでいない。  
「どういうことだ?」
雅弘が眉を寄せて呟くと、アレックスが慌てて自分のスマホを取り出した。
「俺のもだ……昨日と同じ日付になってる!」
玲音も確認し、小さく声を震わせた。
「僕のも……時間が止まってるみたい……」  
碧斗が冷静に自分のスマホを見ると、やはり同じ日付が表示されている。時計は朝6時を指しているが、日付は進んでいない。
 

 「村を出たはずなのに……まだ何か影響が残ってるのか?」  
「まさか、時間の感覚がおかしくなっただけじゃねぇよな?」
アレックスが不安げに言うと、龍之介が首を振った。
「いや、俺たち全員同じなら、感覚の問題じゃない。村で何か変なことが起きてたんだ!」  
「紅姫様の力か……?」
玲音が呟くと、一瞬車内に重い沈黙が流れた。雅弘がハンドルを握る手に力を込めながら言った。
「時間まで操るなんて、神どころか妖怪の域を超えてるな。あの絡新婦、倒したはずなのにまだ何か残ってるのか?」  
碧斗が静かに口を開いた。
「聖魔の疼きは収まってる。紅姫自体はもういないはずだ。でも……あの村自体が何かおかしいのかもしれない。時間の歪みまで引き起こす力が働いてたとしたら」  
「じゃあ、どうすんだよ? このまま進んでも大丈夫なのか?」
アレックスの声に焦りが混じると、雅弘が冷静に答えた。
「とりあえず、電波がちゃんと通じる場所まで行ってみる。そこから状況を確認しよう。もし何かおかしかったら、俺の実家に連絡して調べてもらうさ」  
一行は不安を抱えつつも、車を走らせ続けた。やがて高速道路に差し掛かり、スマホの電波が復活した瞬間、5人のスマホが一斉に通知音を鳴らした。友人や事務所からのメッセージが溜まっていたが、それらを確認する中で、さらに驚くべき事実が判明した。  
「待てよ……これ、昨日俺が事務所に送ったLINEの返信が今来てるぞ」
龍之介が目を丸くすると、玲音も「僕もだ……まるで昨日の続きみたいに時間が動いてる」と呟いた。  

 「村にいた時間が……なかったことになってるのか?」
アレックスが呆然と言うと、碧斗が低い声で結論を述べた。
「秋好村自体が現実から切り離されてたのかもしれない。俺たちが迷い込んだのは、ただの山奥じゃなくて、何か別の領域だったのかもな」  
車内が再び静まり返った。雅弘が深呼吸して言った。
「まぁ……今は無事に戻れただけでいいだろ。温泉入って、飯食って、全部忘れようぜ」
「だな。もうホラーはこりごりだ」
アレックスが笑って締めると、皆が疲れた笑顔を浮かべた。  
車は日光方面へと進み続け、朝陽が5人を優しく照らした。秋好村での出来事が夢だったのか現実だったのか、時間の歪みが何を意味するのか――その答えはまだ分からないままだったが、彼らは前を向いて旅を続けることにした。  

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