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三章
おお……本当に拝まれてます……
しおりを挟む「それじゃあお邪魔しました」
ぺこりと頭を下げて教室を出る。
私の肩に乗っていた二頭はヴォルフス様によって下ろされ、今は私の腕の中にいる。ノヴァも回収され、シアラさんの腕の中だ。
「きゅ~」
先生に向けて小さな手をフリフリするノヴァ。そのノヴァを先生が名残惜しそうに見ている。完全にノヴァの虜になっちゃいましたね。
ノヴァ、罪な子竜です。
授業をお邪魔してしまったにも関わらず、生徒さん達はみんなにこやかな顔で手を振り、私達を見送ってくれた。
それから廊下を歩いていると、ちらほら生徒さん達が教室から出てきた。
「休み時間になったようですね」
学園長さんがそう言いながら別の建物に移動するための渡り廊下に繋がる扉を開けた。
中庭らしき場所を突っ切る形の渡り廊下なので、花壇に咲いている花などを見ることができる。学校ってこんなちゃんとした花壇とかもあるんですね。
移動教室があるからか、私達のいる渡り廊下や花壇の間の道をそこそこの数の生徒さんが行き交っている。大体の人はこちらを見て目を瞠ると、軽く会釈するか立ち止まってこちらを見るかの二つの反応に分かれる。
花壇の花を眺めながらふらふらと歩いていた私だけど、ふと見ていた花壇の向こうにいた生徒さんと目が合った。
「!」
「?」
目が合った男子生徒さんの反応がなんだか他の人と違ったので私は首を傾げる。どうしたんでしょう。
黒い髪を短く刈り込んだ男子生徒さんは私と目が合った直後、私から目を逸らさないままわなわなと震え、地面に膝をついた。そして顔の前で手を組む。
もしかして、さっき学園長さんが言っていた聖竜教の方なんですかね?
まさか本当に拝まれるとは。
事前に言われていたからカノンとリューンをギュッと抱きしめる程度で済みましたけど、知らなかったら何をしているんだろうともっと驚いちゃった気がします。
「きゅきゅっ?」
「ぎゅぅ?」
カノンとリューンがあいつが驚かせたんか? って顔で見上げてくる。
「二頭ともどうどうです。あの人は何も悪いことしてませんよ」
今にも彼にガンつけに行きそうな二頭をゆっさゆっさと揺らす。
こんな小さい子達に心配される私って……。
少しな情けなくなりつつも心配してくれた二頭の頭に頬ずりしておく。
腕の中の二頭を宥めつつ周囲を見ると、ちょいちょい同じようにこちらを見て拝んでいる人がいた。……なんだか落ち着かないですね。
そういえばノヴァはと思って見てみると、いつの間にかヴォルフス様の腕の中に移動して、すぴすぴと寝息を立てていた。さっき大分はしゃいでましたもんね。
それにヴォルフス様の腕の中は安心するしあったかいのでつい寝ちゃう気持ちも分かる。
ヴォルフス様が私からカノンを取り上げて言った。
「せっかくだし手でも振ってあげたらどうだ?」
「え? 私で喜びますかね?」
「拝まれてるんだから喜ぶだろう」
ヴォルフス様に促されたので、私はリューンを片腕で抱っこしたまま恐る恐る手を振ってみた。
「!!」
ちょうどこっちを見ていた男子生徒が目を見開き、次第にその瞳が潤みだす。
「ヴォルフス様、彼泣きそうです」
「……効きすぎたみたいだな……」
まあ聖竜は絶滅したと思われてましたからね。好きで仕方ない幻の生き物が目の前に現れたみたいな感じなのかもしれません。
同級生の前で泣き顔を見せるのは嫌かなと思ってちょこちょこ振っていた手をピタリと止める。
そこで次の建物の入り口に差し掛かったので、最後に後ろを向いてペコリとお辞儀し、建物の入り口をくぐる。
「こっちは何の建物なんですか?」
「こちらの建物は主に実験などをする建物ですね。先程までいた教室とはと少し作りが違うでしょう?」
「あ、ほんとですね」
大きな机が教室の中に六つ設置されていて、棚の中にはいろんなガラス器具や薬品が入ってる瓶などが入っている。まさに実験って感じですね。見てるだけでワクワクします。
ただ、流石に実験はできないので色んな設備の教室を一通り見学し、最後に学園長室に寄った。
「学園長、今日は本当にありがとう」
ヴォルフス様がお礼を言うのに合わせて私もペコリとお辞儀をする。
「いえいえこちらこそ。生徒達にもよい刺激になったでしょう」
そこで隣の部屋から女性がお茶を持ってきて私達の前に置いてくれた。
そして、その女性がうっとりとした顔でヴォルフス様を見て言う。
「陛下、お会いできて光栄です。間近で見ても本当にかっこいいですね」
「ああ、ありがとう」
熱を持った視線に対してサラリと返すヴォルフス様。
……ん? なんか今、胸の辺りがもやっとしたような……。
気のせいですかね。もしかしたら慣れないことをして疲れちゃったのかもしれません。
「メイラー君」
そこで、学園長さんが咎めるような声で女性の名前を呼んだ。
「ハッ! 失礼しました。憧れの陛下を前にしてつい……!」
メイラーと呼ばれた女性は、慌てたように学園長さんとヴォルフス様にペコリとお辞儀をすると部屋を出て行った。
……去り際にメイラーさんがちらりと私に冷たい視線を送ってきたのは……さすがに気のせいですよね?
初対面ですし。
そんな風に少し考え込んでいると、いつの間にかヴォルフス様と学園長さんの話は終わっていたらしい。
ヴォルフス様に声を掛けられて私は我に返った。
「リア、そろそろ帰ろう」
「あ、はい! 学園長さん、本日はありがとうございました!」
丁寧にお辞儀をすると、学園長さんは穏やかな微笑みで応えてくれる。
その後は行きと同じように母竜達に乗って帰ったのだけど、私の様子が少しおかしかったのか子竜やヴォルフス様、そしてシアラさんに心配をかけてしまった。心なしか母竜達も丁寧に飛んでくれていた気がする。
まあ、きっとこのモヤモヤは疲労のせいだと思うので帰ったらゆっくり寝よう。
そんな風に考え、私は何かに気付きそうな思考にそっと蓋をした。
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