天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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こぼれ話

ここは楽園か!

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「ママー、あのおじさん達なんでみんなぬいぐるみもってるの~?」
「こらっ、趣味嗜好は人の自由でしょ」



 大量の貢物は私一人じゃ持ちきれないので一先ず各自で持ってもらった。
 ファンシーな人形を持った男達の集団の完成だ。

「あれ?パパ、シリルがいないよ?」
「あいつは入り口の危険物探知で引っかかってたからな。後で追い掛けてくるだろ」
「そっか……」

 今日くらい爆弾置いてくればいいのに……。

 私達はとりあえず先に進んでいることにした。

 歩いている間に、殿下が色々教えてくれる。
 どうやら、成人しても仕事をしていない人はこういう施設に子ども料金で入れるらしい。
 でもそれじゃあ無職って嘘つく人だっているんじゃないの?

 そんな私の疑問に答えるように殿下はある一点を指さした。


「シロ、あれを見てみろ」
「う?」

 殿下が指をさした先には、一人の男性がいた。

「手首に赤いリストバンドをしているだろう。子ども料金で入っている印だ」
「つまり、ニート?」
「そういうことだ」

 頷いた殿下に見てろ、言われたのでその男性をジッと観察する。

「あ」

 男性が躓いた。転ばなかったのは幸いだろう。
 すると、係員さんが男性の元へ小走りで駆け寄って来た。

「あれれぇ、大丈夫かなぁぼく?」

「!?」

 おねーさんや、成人男性にその話しかけ方ってどういうプレイですか?
 私がドン引きしていると、おねーさんはさらに続けた。

「ちゃんと足元に気を付けて歩かないと、メッだよ?」

 そう言っておねーさんは去っていった。

「殿下、説明をもとむ」
「任された」

 どうやら、子ども料金で入った大人は『大きいお友達』や『大きなお子様』と呼ばれ、普通の子どもと同じ扱いをされるらしい。
 恥ずかしいね。
 それならば普通に大人料金で入ればいいじゃんと思ったら、成人しても働いていない人は主婦や主夫、引退後の人達を除いて子ども料金でしかこういう場所に入れてもらえないと。

「……鬼かな」

 つい素直な感想が口から零れ落ちてしまった。

「やる気さえあればどこかしらには就職できるのに親に甘えているのが悪い」

 ……この決まり作ったの殿下じゃないよね。
 遠回しに無職を追い詰めるって殿下すごいやりそう。

 そして、ニートの彼の悲劇はそれだけでは終わらなかった。

 ふれ合いコーナーの係員さんがちびっこ達に呼び掛ける。

「みんな~!あそこの大きいお友達も仲間に入れてあげようね~!」
「「「は~い!」」」

 元気良く返事をするちびっこ達。

「おにーちゃんこっちおいでよ!」
「いっしょにうさぎしゃんさわろ~!」
「……っ!」

 可哀想に、子どもの無垢な親切の餌食になるのか……。
 ジリジリと近付いてくる子ども達に後退する成人男性。

「ちくしょ~!!!ぜってぇ就職してやるかんな~!!!」

 そう言って走り去っていった。がんばれ青年。

「あの人何でここ来ちゃったんだろう」
「暇をもて余したニートがターゲットだからこの決まりはあまり知られてないんだ。あいつも知らなかったんだろ」
「かわいそうに。シロはモフモフのかわいい生き物を見にきたんであって、頭以外ツルツルの哀れな同族を見にきたんじゃないんだけど……」
「それもそうだな。勉強は終わりにしてさっさと進もう」

 そう声を掛けられて私はパパと殿下に手を引かれた。








「ふおおおおお!」

 かわいい! かわいい!

 興奮する私の視線の先にはホワイトタイガーとその子ども達。どうやら変異種のようだ。
 変異種は一般に、通常の種よりもなにかしらの能力が突出していることで知られている。なので、その分檻も頑丈そうだ。

「かわいい!モフモフ!!」

 全力で触りたい。
 私がピョンピョン飛び跳ねていると、保護者達の顔が蕩けた。

「ああ、ウチの娘が可愛い」
「シロ、一回こっち向いて、動画におさめてるから」
「……しろが一番かわいい」

 ……なんで誰も動物見てないの?
 私じゃなくてホワイトタイガーにレンズ向けてよ。動物園にきて撮った動物が私だけって意味ないし、20人近くの大人が動物園で幼女撮ってる光景って異常じゃない? あ、だからさっきからこの集団の周りに人がいないのか。
 唯一、エンペラーだけは浮気かと言いたげに唸ってきている。浮気じゃないもん。ちゃんとモフモフの中ではエンペラーが一番だもん。

 すると、親のホワイトタイガーと目が合った。そしてノッシノッシとこちらに近づいて来る。

「グルウウウウ」


「う?」









 ベロンベロン

「ザリザリするぅ~」

 シロin檻。
 まあ、檻と言ってもこのトラさんが一部を噛み千切っちゃったからあんまり意味ないんだけどね。一歩間違えたら大問題だよ。
 そして檻の内側に連れ込まれた私は他の仔トラ達と一緒に毛繕いを受けている最中というわけだ。

 ちびっこ達かわいい。もふもふだ。
 向こうから近寄って来るのをいいことに思う存分撫で回す。

「にぃ~」
「うみゃ~」
「グルルルルル」

 あれだね、これは完全に私もこのホワイトタイガーの子どもだと思われてるやつだよ。一切噛んだり引っかかれたりする気配ないし。連れてこられた時は甘噛みだったけど。
 私も毛玉にギュウギュウに包まれてご満悦だ。

 ……だけど、檻の外が騒がしい。

「……エルヴィス、はなして。しろ連れもどす……」
「離したらクロあのホワイトタイガー殺っちゃうだろ!!」

「なぁ、檻が中の動物に壊されるとかありえないよな。シロが怪我でもしたらどう責任をとるつもりだ?」
「もっ、申し訳ありません!!殿下っ!!」

「シロ~、こっち向け~。おいアニ撮れてるか?」
「バッチシです隊長!」

 パパに手を振られたので振り返す。
 パパにはちゃんと危険がないのが分かってるみたいだ。取り残されたエンペラーもその場に伏せをして待機している。いいこ。
 後でいっぱい撫でてあげよう。


 暫くモフモフを堪能していると、パパからストップをかけられた。

「シロ、そろそろクロが限界だ。あとついでにエルヴィスも。だから戻っておいで」
「は~い」

 私は小さい毛玉達を一撫ですると立ち上がり、最後に親タイガーにギュッと抱きついた。

「じゃあバイバイ。シロにはちゃんとパパがいるから。もうやんちゃしちゃだめだよ?」
「グルウウウウ」
「みゅ~ん」
「うなぁ~」
「みぃ~」

 檻を出て柵を乗り越えた瞬間、クロに抱き締められた。

「しろ、けがしてない?どこもいたくない?」
「大丈夫だよ。だから匂いを嗅ぐのはやめようか」

 スンスンしてんのバレてるから。

 すると、後ろからヒョイッと抱き上げられた。
 私を抱っこしたのはパパだ。安心する。

「むふふ」
「シロの親はパパだけだからな」

 ……なんでちょっとトラと張り合ってるのパパ。




 その日はアクシデントが発生したため、動物園は早めに終業となった。なので、私達もさっさと帰路につく。

 城に着くと、なんだかホッとして眠くなってしまった。
 みんなからのお土産を受け取り、ウトウトしながらパパに抱きつく。

「シロ?……おねむか。じゃあ俺はシロを寝かしつけてくるから各自解散」
「「「はーい」」」









 その日の夜、夕食の時間になってもシロとブレイクが食堂に現れなかったので隊員達は二人を部屋まで迎えに行った。

 コンコン

「隊長、入りますよ~……」

 ソッとエルヴィスが扉を開ける。

 やけに静まりかえった部屋の真ん中では、父娘が仲良く寄り添い眠っていた。……大量の動物のぬいぐるみに埋もれながら。

「……誰か、この幸せな光景を崩せる猛者は居るか?」

 全員がブンブンと首を横に振る。

「だよなぁ」

 結局、二人を起こさずにそのまま寝かせておくことにした。


「おやすみなさい、シロ、隊長」


 そしてソッと部屋の扉が閉じられた。












 翌日の朝。

 ブレイクは腕を組んでベッドの上を見つめる。




「……やっぱりこれだけぬいぐるみがあると邪魔だな」



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