25 / 104
こぼれ話
大人達の会合
しおりを挟むある日の昼下がり、シロが昼寝をしている間に大人達による会合が行われていた。
殿下は優雅な動作でカップをテーブルの上に置く。
「……ブレイク、そのワンコはなんだ」
「俺を差し置いてシロとお昼寝をしようとしてたから無理矢理引きずられて来たクロくんだ」
「なるほど、それは許せんな」
「……ゆるせないのはこっち……」
クロは不貞腐れて地べたに寝そべった。
ふて寝だろうか。
クロの襟首から手を離したブレイクは、殿下の正面に腰掛ける。
「それで?今日は何の用なんだ」
「いつも通りシロと戯れにな。ついでに仕事を持ってきた」
「ついでに仕事なんですね……」
茶菓子を持ってきたエルヴィスが突っ込んだ。ちなみに、この場にはシロ以外の特殊部隊隊員が全員揃っている。
「まあ仕事の話は後だ。それよりも……」
そう言って殿下はアニを見据えた。
「アニ、お前が作ったシロのアルバムをボクにも譲ってくれないだろうか。何なら言い値で買う」
「え、俺王子様からぼったくれちゃう感じ?」
「こらアニ!」
ぼったくり宣言をしたアニにすかさず兄からの叱責が飛ぶ。
だがそんなことは日常茶飯事なので特に気にせずアニは続けた。
「でも殿下が影に命じて撮らせてる写真よりもはるかに枚数少ないですよ?」
「まあそうなんだがな、カメラ目線の写真がほぼないんだ」
「ああ……」
「今ちょっとトンデモナイことを聞いた気がするんだけど!?」
「シロが気紛れに影に向けてポーズをとる時のくらいしかないんだ」
「本人公認なんだ……」
「ウチの娘がそれくらい気付かないわけないだろう」
娘を自慢するブレイクはどこか誇らしげだ。
「最近は影達もシロの魅力に気付いちゃったみたいでねぇ。休日返上でシロの盗さt……護衛に精を出す始末だ」
「盗撮の自覚あってよかったよ」
ブレイクの返答に殿下は誤魔化すようにニッコリと笑って返した。
「はぁ、で、結局殿下はそのストーカー予備軍の撮ってくる写真じゃ満足できなくなったと」
「だって目線の合わない写真だけ持ってるなんてストーカーみたいじゃないか」
「自覚があって何よりだ。あとついでに殿下も影もロリコン臭いぞ。お前達はみんなアニの後継者だな」
「ちょっ!!止めて下さいよ隊長!」
ここで声をあげたのは殿下ではなく何故かアニだった。
「なんだ、お前はロリコンだろ?」
「俺はロリコンですよ!でもそんな影からハァハァしてる奴等と一緒にしないで欲しいです!俺はハァハァするなら正面からハァハァするんで!!!」
「……悪かった」
珍しくブレイクが素直に謝った。その表情はドン引きのそれだったが。
本気で怒った訳ではないので、アニの怒りはすぐにおさまった。
「はぁ、まあアルバムは差し上げますけどね。対価はお金じゃなくて性能の良いカメラとかがいいです」
「手配しよう!」
殿下が喜びの声をあげると、それまで寝ていたクロがむくりと起き上がった。
「……アニ、おれもほしい」
「え?」
「おれもほしい」
「シロのアルバムか?」
アニが聞き返すとクロはコクリと頷いた。
「クロが物を欲しがるなんてっ!!いいぞっ!何冊でもやろう!!」
「ん……」
これまで悟りを開いたのかと言いたくなるくらい物欲がなかったクロの要求に、アニは感動すら覚えた。
「隊長は頼まなくてもいいんですか?」
「あ?娘のアルバムをまず最初に父親に献上するのは当たり前だろ」
「……そうですね」
エルヴィスは一応後でアニに伝えておくことにした。誰でも弟が上司に半殺しにされる姿は見たくない。
「ん……ぱぱ?」
どうやらシロが起きてきたようだ。
あくびをしながら右手にエンペラー、左手にぬいぐるみを抱いてトコトコ歩いてくる。
「シロおいで」
「んん~」
ブレイクが両手を広げて呼ぶと、自らも両手を広げ父に抱きついた。
そしてまだ若干寝ぼけたままブレイクの胸元に頬を擦り付ける。
「甘えん坊だな」
「うにゃ」
シロと接するブレイクは、どこからどう見ても父親の顔をしている。
「殿下、今の心境は?」
「ただただ羨ましい」
殿下は素直な男だった。
「殿下はまだ帰らないのか?」
ブレイクが遠回しに帰れと訴える。
「いやまだ用事が済んでない……って、ああ、忘れるところだった。シロも起きてきたことだし、今のうちに今回頼みたい仕事内容を伝えておこう」
「そういえばそんなこと言ってたな」
どんな仕事なんだ?とブレイクが問う。
「そうだな、仕事内容を端的に言えば、盗賊から盗みをしてきて欲しいんだ」
「「「「……え?」」」」
65
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。