天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

文字の大きさ
33 / 104
こぼれ話

ば〜ぶ、あう、だ〜あ!(私は今何と言っているでしょうか?)

しおりを挟む


「うっ、ううっ!」

 泣き続けるアニ。

「う~?」
「うん、にーにだよ~」

 感極まったアニはシロを抱きしめて腹に顔を埋めた。止まる気配なく溢れる涙がシロの服に吸い込まれていく。

「……しろの服がぬれる」
「あっ!」

 アニにされるがままになっていたシロは、いつの間にか来ていたクロの腕におさまった。

「だ~う! うんにゃ~?」
「……かわいい」

 クロがシロの頬をツンツンとつつき始める。それがくすぐったかったのか、シロはキャッキャッと笑う。

「たべちゃいたい……」
「やめなさい」
「……」

 もちろん歯はたてていないが、柔らかな頬をアグアグとみ出したクロにエルヴィスがストップをかけた。
 クロは不満そうな顔をするも、大人しくシロの頬から唇を離した。

「まったく……」

 エルヴィスはハンカチを取り出して濡れた頬を拭いてやった。
 すると、シロは嬉しそうに声を上げる。

「あ~!」

 にっこりとシロが笑うので自然とエルヴィスも笑顔になる。

「お前もそんなに変わんねぇじゃねーか」
「……どうるい」
「や~いロリコ~ン」
「それお前アニにだけは言われたくない」

 苛ついたエルヴィスはアニの頭に軽いゲンコツをくらわせた。

 そのままやいのやいのと騒いでいると、シロがブレイクに両手を向けてぐずり始めた。

「あ~う、あぁ~うぅ~!」
「……やっぱり、たいちょがいいのかな……」
「うぅ~……だぁ!!」
「おーよしよし、パパが抱っこしてやろうな~」

 ブレイクの手に移ったシロはコロリと機嫌を直し、にぱっと笑みを見せる。


「……隊長、そのドヤ顔は正直ムカつきます」
「……くやしい……」
「お、俺だってシロちゃんに『にーに』って呼んでもらえたし!!!」
「え~僕まだ抱っこもさせてもらってないんだけど~」

 ブレイクの美貌を台無しにするドヤ顔に不満が止まらない。

「きやぁ~!」
「む、こらシロ、イケメンなパパの顔をペチペチするんじゃない」
「うきょきょきょっ!」

 ブレイクが嫌がるのが嬉しいのかシロは奇妙な笑い声をあげる。

「シロ、めっ! だ。悪い子にはちゅーすんぞ」
「ちゅ~?」
「そうだぞ。むっちゅ~」

 ブレイクはシロの頬にちゅっちゅっとキスを贈る。

「おえっ」
「おい今オエッて言ったか?」

 シロは真顔でふるふると首を振る。


「し~ろ~。シロはかわいいからとっておきの火薬をあげようね」
「中身赤ん坊に危険物与えんな」

 シロの手に火薬の入った袋を握らせたシリルはすかさずエルヴィス常識人に頭を叩かれた。
 シロはすかさずライターで火をおこした。

「やだこの子賢い。火薬の使い方をわかってるわ。誰だよシロにライター渡したの」
「え、俺」
「幼女の安全に配慮しろロリコン」

 エルヴィスはシロの手からライターを回収した。
 シロは不思議そうに首を傾げ、エルヴィスにライターを返せというような顔をした。

「うぅ~! あう~!!」
「だめ、危ないでしょ。ないないだよ」
「うぅぅぅ~……びええええええええ!!」

 おもちゃライターを取られたシロの顔は徐々にゆがみ、ついには泣き出してしまった。
 皆の視線がエルヴィスに集まる。

「「「「い~けないんだ~エルヴィス~で~んか~にいっってやろ~」」」」
「いい年した大人が……。殿下に言うのはリアルに報復が怖いから止めてください」
「ボクがなんだって?」
「ヒエッ!?」

 いつの間にかエルヴィスの背後に殿下が立っていた。

「殿下なんでいるんだ? 仕事中だろ」
「いや、仕事をサボってでも見に行った方がいいものがあるって影に聞いてな」
「ツッコミどころが多すぎる!!」





 「……!!!」

 殿下の体中に電撃が走った。

「う~?」

「なんだっ!!! この生き物はっ!!!」

 殿下は口元を覆ってその場に崩れ落ちた。

「親近感を感じる……」

 アニの発言。

「あ~う! あ~う!」
「尊い……」
「推しに感動するオタクか」

 ブレイクは殿下の反応に呆れっぱなしだ。

「さ、触ってもいいか……?」

 殿下はカバーガラスを扱うよりも慎重にシロの頬に人差し指を触れさせる。

「変態臭いぞ殿下」
「うるさいな」

 ブレイクがうろんな目をする。


「う!」

 不意に、シロが殿下の指をガシッと掴みそのまま流れるようにぱくっと口にくわえた。

「――――!!!」
「むごむご」

「コラッ、ばっちいだろ。ぺってしなさい」
「おい誰の指がばっちいだ」
「だぁ!」

 シロはデロンと殿下の指を吐き出した。

「シロ、指はやれんが、これで遊んでいろ」

 そう言って殿下はシロに手のひら大のゴムボールを握らせた。
 シロはそれを見てキラキラと瞳を輝かせる。

「あ」

 一瞬ブレイクがしまった、というような声を出す。

「だう!!」

 バビュン!!

 シロが投げたゴムボールは豪速球となって壁にめり込んだ。
 ブレイクは冷静に壁からボールを回収して言った。

「体はそのままで精神が赤子になっただけだからな。手加減ができなければこうなる」
「普通の5歳児はこうはならないですよ……」
「力が強いとこういう事態が起こりかねないから十歳以下にしか効果がないのかもねぇ」

 シリルも冷静に分析しだす。

「今日のシロに物を持たせるのは危険だな……」
「あの香の効果は一日なので今日をのりきればどうにかなりますよね……」

 大人達が真剣に議論し始める。


「クゥ~ン」
「どうしたエンペラー、今ちょっと話し合いが……」

 ブレイクがエンペラーに視線をやると、そこには毛布にくるまれてエンペラーの腹に埋もれ、すやすやと寝息を立てるシロがいた。

「うにゅ……すぴー、すぴー」

 気付けば日はほとんど沈んでいた。













 ブレイクは一時間経っても起きないシロを抱いて部屋に戻ってきた。
 ベッドにシロを寝かせる。

 そして、いつもよりもどこか幼い寝顔を見つめた。

「……やっぱり、最初からずっと育ててやりたかったな……」

 静まり返った部屋でブレイクは本音を吐露した。
 シロはもっとイタズラやわがままを言ったりしてもよいとブレイクは考えている。シロは賢いがゆえに、その年齢にしては聞き分けがよすぎるからだ。
 シロを割と強引に特殊部隊に入れたことは確固たる居場所を与えるという点では成功していた。だが、同時にシロに余計な責任感を感じさせてもいた。

 シロは基本的に訓練や仕事を嫌がらない。むしろ、仕事に自分から同行したがることさえある。
 それはブレイクや皆と一緒にいられるというのもあるだろうが自分は特殊部隊の一員なのだからしっかりせねばという意識があるのも事実だろう。

 ブレイクはシロが嫌だと言ったら無理にやらせるつもりはなかった。むしろ、もっとわがままを言ってもいいと日々考えていた。
 今日の赤子らしい無邪気なシロも余計ブレイクにそう思わせた。

「……やはり俺から甘やかしていくしかないか」

 ふむ、とブレイクは一つ頷き、子育ての方針を変えることを決意した。

 考え事が一段落したブレイクはシロの横にもぐり込み、娘を抱き込んで眠りに入った。












 その後の三日間、シロはアニと口をきかなかった。





しおりを挟む
感想 356

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。