天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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こぼれ話

無人島は楽しい!

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「ふぃ~」

 ブレイクのお腹の上で寛ぐシロ。そのブレイクは仰向けになって海にプカプカと浮いている。
 シロは浮き輪よりも優れたものを手に入れた。シロが落ちないように自動で支えてくれ、頭も撫でてくれる仕様だ。
 時折シロは手で水面をパシャパシャと叩いて楽しんでいる。

「ボクの知ってる海の入り方じゃないんだが……」
「シロが楽しければそれでいい」

 なあ、とブレイクはシロの頭を撫でた。

「うん!」

 どうもシロは海のしょっぱい水が苦手なようだ。海水が顔につくと嫌でも口にしょっぱい水が入ってくるのが不快らしい。
 なので顔を海水に浸けずに海を楽しむ方法を模索したらこのような形になった。
 すると、殿下が何かを思いついた。

「あ、そうだシロ、一緒に砂遊びをしよう」
「すなあそび?」
「そうだ。海岸の砂で山や城を作って遊ぶんだ。それなら顔に海水はつかないぞ」
「やる!」

 ブレイクの上で寝そべっていたシロはガバッと顔を上げた。
 その目は爛々と輝いている。



「だいいっかい! お砂遊びせんしゅけ~ん!」

 シロの声が海岸を駆け回った。

「「「おー!!!!」」」

 男達がやる気満々の歓声を上げる。
 殿下が皆の前に出た。

「ルールは簡単。最も芸術的な作品を作った者の勝利だ。審査員はボクとブレイクがする。じゃあ始め!」

 殿下がそう宣言した瞬間、参加者達は作業に取り掛かる。
 シロも早速その場に座り込んだ。

「シロ、あまり水辺に近いと波にさらわれるかもしれないから少し離れた所にしよう」
「うん」

 ブレイクの言葉にシロは素直に頷き、湿っている地面から渇いている所に移動した。
 シロのチームはブレイクとシロにクロ、そしてエンペラーだ。殿下はパラソルの下で冷たいジュースを楽しんでいる。
 エンペラーの手ではなにもできないのでシロの背もたれ係だ。

「シロは何を作りたい?」
「お城!」
「じゃあうちの王城みたいなのを作るか」
「うん!」

 シロは早速砂を掻き集め始める。
 ちなみに、シロと一緒のチームになりたがりそうなアニは、本日は撮影係に専念するらしい。




 一時間もすると、どのチームも基盤はできていた。

「なあ、セバスとウイリアムは何を作ってるんだ?」

 他のチームの偵察をしに来たエルヴィスが二人に尋ねた。
 ウイリアムは嬉々として作業をしているのだが、セバスは気乗りしなさそうだ。お得意の猫も被れていない。

「なにこれ、裸の人間?」

 エルヴィスと一緒に来ていたシリルが二人の作品を見て問いかけた。

「兄上を作っている」
「……へ~、じゃあもしかしてこれって裸の殿下ってこと?」
「そうだ」
「なんで裸なの?」
「芸術作品の人間は大抵裸だろ?先駆者を見習った結果だ」
「……まさかシロに見せられない部分まで細かに作るつもりじゃないだろうね」

 シリルは念のため危惧した内容を口に出した。そんなことを心配するくらいには砂殿下の完成度は今の時点でも高い。

「作るに決まってるだろ。完璧な兄上を完璧に再現してみせるんだ」

 ウイリアムは真顔でそう答えた。
 セバスはこの後の展開が読め、静かに目を瞑る。

「「……」」

 エルヴィスとシリルは無言で顔を見合わせ、同時に一つ頷いた。
 スッとシリルが超小型手榴弾を取り出す。

「え、お前今どこからそれ出した?」

 エルヴィスは素で疑問を口に出した。
 シリルは例によって水着一枚だ。

「まあまあ、細かいことは気にしないの」

 シリルは迷いなく手榴弾のピンを抜くと、砂殿下の上にポイっと投げた。

「へ」

 ウイリアムが間抜けな声を上げる。

「さあ逃げるよ」

 シリルが普段と変わらぬ声のトーンで言った。
 近くにいた他の三人は本能的に走り出した。

 ドッカ―ン!

 湿り気を帯びた砂が辺りに飛び散る。
 砂で作られた殿下が合った場所は軽く焦げ、地面が抉れていた。

「うわあああああああ!! 兄上がああああああ!!」

 ウイリアムがショックから地面に崩れ落ちた。

「シリルグッジョブだ」
「いえ~い」

 シリルはピースをする。
 ウイリアムがガバッと立ち上がった。

「報復してやる!」
「え」

 砂浜を走り出すウイリアム。
 ウイリアムは走ってきた勢いのまま、エルヴィスとシリルが造った前方後円墳を蹴り飛ばした。
 砂が派手に宙を舞う。

「「ああああああああああ!!」」
「因果応報だ!!」

「ちょっとウイリアム! 俺の作品に砂が直撃したんすけど!」

 イオがウイリアムに怒り、飛び掛かった。
 二人は犬同士の喧嘩のようにゴロゴロと転がり、エスが作っていた三角木馬に激突した。

「ああ! なんてことしてくれるんですか!!」
「うっせー! そんな卑猥なもん壊れちまえ!」
「なんですと!?」

 その後、エスや作品を壊された他の隊員も参加し、乱闘という名のじゃれ合いに発展した。

 結局、最後まで作品を完成させたのはシロチームとイオのみだった。
 イオが作っていたのは砂でできた犬で、イオの動物への愛を知っている皆は近付かなかったのだ。

「え、クオリティ高っ」

 殿下はシロ達の作った砂の城を見て驚いた。
 それは普段殿下が過ごしている城をただ縮小したかのような精巧な造りをしていた。

「そういえばシロは絵も上手かったな。将来は芸術の道に進むのもいいかもしれんぞ」
「むふふ」

 褒められたシロは嬉しそうにブレイクに抱き着いている。
 イオの犬も普通に上手なのだが、シロの作品には及ばなかった。
 しかしイオは自分が作った犬を見て既に満足そうだ。勝負のことなどもう忘れているだろう。

「うむ、優勝はシロだな」

 殿下が宣言する。

「やった~!」

 無邪気に喜ぶシロ。
 大人達はそんなシロを見て目じりを下げる。



***



 一方、隊舎に残されたオッサンは束の間の平和を享受していた。


「あいつらいないと静かだな~」







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