天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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二章

れっつバレンタイン!

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「ばれんたいん?」

 シロは殿下に聞き返した。

「そう。女の子が好きな人にチョコレートをあげる日らしいよ。うちの国でもやろうと思って」
「ふーん。でもシロの負担大きくない? シロ好きな人いっぱいよ?」
「でもその代わりにバレンタインの一か月後にはホワイトデーというバレンタインであげたものが三倍になって返ってくるイベントがあるらしいぞ」

 その殿下の言葉にシロの目の色が変わった。チョコレートが積まれて山になっている映像がシロの脳裏に浮かぶ。

「にゃんて素敵なイベント……。シロ! ばれんたいんやる!!」

 シロは右手で拳を作って頭上に掲げた。
 目指せお返しである。



***




「ということでパパ、チョコを作るんだよ」
「パパと一緒に作るのか?」
「うん!」

 シロは大きく頷いて殿下が持ってきた真っ白いフリフリエプロンを身に付けた。

「お、かわいい。殿下ナイスだな。シロ、その場で回ってみてくれるか?」
「うん」

 ヒュンヒュンヒュンッ!

 シロはその場で三回転ジャンプを披露した。
 シュタッと着地したシロはブレイクを見上げる。

「どう?」
「うん、ちょっと思ってたのとは違ったけどかわいかったぞ」
「えへへ」

 ブレイクとしてはフリルの付いたエプロンがふわりと広がるところが見たかったのだが、三回転ジャンプを決めてドヤ顔をする娘はもっと愛らしかったのである。
 ブレイクはシロを抱き上げると頬にキスを贈った。

「でも手作りは結構大変だぞ? 市販にしないか?」
「ううん。殿下がばれんたいんは手作りチョコを贈るものだって言ってた」
「それ多分殿下の私情だと思うけどな」

 だがブレイクも我が子の手作りチョコは食べたいので異論はなかった。

 早速父娘は調理室に向かった。シロがサプライズにしたいと言うので他の隊員は立ち入り禁止だ。そしてまだバレンタインという行事も伝えていない。

「―――シロ、これはなんだ……?」
「カカオ豆」

 調理台の上には、シロが殿下に頼んで取り寄せてもらった大量のカカオ豆が置いてあった。

「手作りって……カカオ豆から作るのか?」
「手作りってそういうものじゃないの?」
「売ってるチョコレートを溶かして形を変えたりする人がほとんどなんじゃないか?」
「そんなの手作りとは言わないよ」
「全世界の女子を敵に回したな。流石俺の娘だ」
「えへへ」

 よく分からないが褒められたのでシロはご満悦だ。

「じゃあさっそくはじめましょ~!」
「ああ」

 シロはチョコレートの作り方(カカオから)が書かれた本を開いた。

「まずはカカオ豆をフライパンで焙煎するんだって」
「分かった。火を使うのは危ないからここはパパがやるぞ」
「うん! パパありがと~!」

 ブレイクは大量にあるカカオ豆をどんどん焙煎していった。

「はいシロ。次はこの皮を剥くんだったな?」
「うん!」

 上手く焙煎された皮はパリッと心地よい音を立てて簡単に剥けた。剥くこと自体は簡単だが、かなりの量があるカカオ豆を二人は地道に剥いていく。



「―――やっと剥き終わった~!」
「なぁパパめんどくさくなってきちゃったんだけどもうこれで完成ってことにしないか?」
「シロもちょっと思ったけど却下。物事は中途半端が一番よくないんだよパパ」
「俺の娘は賢いな」

 娘に諭され、仕方なくブレイクはチョコレート作りを続行することにした。
 次は皮を剥いたカカオ豆をすり鉢ですりつぶす作業だ。
 初めて見るすり鉢に下がりかけていたシロのテンションが上がる。

「なにこれ!!」
「この棒で剥いたカカオ豆を粉々にしていくんだ。シロできるか?」
「うん! 力仕事は得意だよ!」

 シロはブレイクから麺棒を受け取ると、向いたカカオ豆の入ったすり鉢に向けて振り下ろした。さながら正月の餅つきのように。

 ダァァァァァァンッ!

 シロが麺棒を振り下ろした衝撃で中に入っていたカカオ豆が器の外に飛び散る。

「……シロ?」
「パパ、カカオ豆が家出してった。すり鉢難しいね」
「……そうだな」

 ブレイクはその後、シロに優しくすり鉢の使い方をレクチャーした。


 トロトロになったカカオに砂糖を入れて味を整えていく。

 ドサッ

 シロが一気に大量の砂糖を投入した。続けて横にあったもう一袋も投入する。

 ドサッ

「……入れ過ぎじゃないか?」
「シロ、チョコは甘いのが好き」
「そうか」

 ブレイクは、まあ失敗しても自分含めて皆喜んで食べるしな、と考え直し。シロの好きにさせることにした。
 
 後はチョコレートを殿下が用意した型に注ぎ、冷蔵庫で固めれば完成だ。もちろん型はハートの形のものだ。



 十分後、固まったチョコレートをシロはトレーの上に取り出す。そしてそのうちの一つを手に取ってブレイクの口の前に差し出した。

「はい、パパあーん」
「あーん」
「どう? どう?」

 シロは期待を込めた目でブレイクを見つめる。
 ブレイクは早く感想を言ってやりたかったが、シロの手作りチョコを噛み砕くという選択肢は存在しないため溶けるまで舌の上で転がす。

「……うまい」
「!!」

 ブレイクの思わずといった一言に、シロの顔がぱぁっと笑顔になる。

「えへへ、シロも一個食べちゃお~」
「今度はパパが食べさせてやろう。ほらシロあーん」
「あーん」

 シロも片側の頬を膨らませてチョコレートを味わう。シロにもパパと一緒に作ったチョコを噛み砕くという選択肢はないのだ。


(うちの子は天才かもしれない……いや、天才だな)

 料理の才能まで発露させたシロにブレイクの親バカはさらに加速するのだった。
 ……例えシロの料理が下手でも同じ結果になったのだが。






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