天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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二章

馬車に揺られる

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「ガウッ!」

 外に出れば、日向ぼっこをしていたエンペラーが飛び付いてきた。もふっと毛皮に包まれる。
 エンペラーも同行許可が出たので一緒に行けるのだ。うれしい。

 そのままみんなで荷物を持って王城の方へ移動する。すると、そこには何台もの馬車が並んでいた。
 馬車の列の丁度真ん中らへんに一際大きくて豪華そうな白い馬車がある。王家の紋章もついてるし、きっとあれが殿下の乗る馬車なんだろう。
 ザ・王族って感じの馬車だね。綺麗だけど防犯的には微妙じゃないかな……。
 一台しかないし、王族が乗ってるので狙ってくださいと言わんばかりだ。

 そんなことを考えながらジト―っと白い馬車を見詰めていると、後ろからヒョイっと誰かに抱き上げられた。

「あ、殿下」
「おはようシロ。目立つ馬車だろう。盗賊やらなにやらに狙ってくれと言わんばかりだな」
「あ、やっぱり殿下もそう思うんだ」
「もちろん」

 よかった、そんな心配をしてるのはシロだけじゃなかった。

「なんであんな目立つ馬車にしたの?」
「ん~、一応国としての正式な訪問だからな。それに、この際だから一番上等な馬車にして国力の差を見せつけてやろうと思って」

 ……殿下、本気だね。
 本気で嫌がらせ……というか、叩き潰す気だ。
 どうやったら殿下をここまで怒らせられるんだろう……。

「王家の紋が入った馬車は基本王族とその従者しか乗ってはいけない決まりになってるから元々そんなに台数がないんだ」
「なるほど。悪用されちゃったら困るもんね」
「そういうことだ」

 王族しか乗れない馬車だからカモフラージュ用も用意できないんだね。

「まあ、それでも防犯のためにボクはシーベルト国に着く直前まで別の馬車に乗って行くんだが。あの馬車にはそれまで代わりの騎士が乗る」
「王族以外乗っちゃいけないんじゃないの?」
王族ボクの命に比べたらそんな規則あってないようなものだよ」
「それもそうだね」

 臨機応変に対応していこうってことだね。

「だから乗り換えるまではシロと馬車の旅を楽しめるぞ」
「おお!」

 そっか、殿下はあの白い馬車には乗ってかないんだもんね。



「――荷物全部乗せ終えたぞ」
「お、ご苦労」
「パパお疲れさま」

 荷物を全部詰め込み終えたパパが戻ってきた。シロも手伝おうと思ったんだけど、次々乗せられる荷物に巻き込まれて一緒に詰め込まれちゃいそうになったから諦めた。

 パパに手を取られる。

「そろそろ馬車に乗るぞ」
「やったぁ!」

 パパと自分達が乗る馬車に向かって歩き出すと、殿下が付いて来た。

「殿下も同じ馬車に乗るの?」
「ああ、ブレイクと同じ馬車なんて、これ以上安全な環境はないだろう?」
「うん!」

 そりゃあパパと一緒が一番安心安全だ。パパが一番強いもんね。

 私達が乗る馬車の見た目はシンプルで、一見何の変哲もない馬車だ。
 馬車に乗るための段差は私には高すぎたので、パパが抱っこして乗せてくれた。パパや殿下はひょいひょいっと自分の足で乗り込んでる。足長くていいね。
 中は赤いソファーみたいな椅子が向かい合うように設置されていた。その片方にぴょこんと腰かける。

「おお、ふかふか」

 びっくりするほど座り心地がよかった。

「そりゃあそうだろう。カモフラージュのためとはいえボクが乗るんだぞ? 内部構造はそりゃあ弄られてるさ」
「そうなんだ」

 王族すごいね。なりたいとは思わないけど。だって義務とか大変そうだし。なんだかんだ言ってもちゃんと王族してる殿下はすごいと思う。

「ボクは座ったことがないから分からないが、他の馬車はもっと座り心地が悪いらしい」
「そっか、じゃあシロはラッキーだね」
「そうだぞ」

 殿下が鷹揚に頷く。
 できれば帰りも殿下と同じ馬車に乗りたいね。

「シロ、もし椅子に乗り上げるなら靴は脱ぐんだぞ」
「は~い」

 パパにそう言われたので、靴を脱いでから椅子に膝立ちになる。そして窓の外を覗き込んだ。
 窓の外では、騎士さん達が馬に乗って馬車の周りを固めていた。

「ねぇパパ、シロ達はああいうことしなくていいの?」

 アニとかシリルも別の馬車に乗ってるし、殿下を護るなら私達も周りを固めた方がいいんじゃないかな。

「ああ、一応俺達は交流試合のために体力を温存することになってる」
「一応?」
「まあ、それは建前だ。あいつらを馬に乗せて自由にさせると勝手にどっか行っちまうから護衛どころじゃない。むしろ迷子になって捜すのが大変から基本うちは馬車移動だ」
「そうなんだ……」

 確かに、みんなが大人しく馬に乗ってついてくところは想像できない。
 協調性って言葉から一番遠い所にいる人達だもんね。

「パパも殿下も苦労してるんだねぇ」
「分かるか」
「シロはいい子だな」

 よしよしと殿下に頭を撫でられた。














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