8 / 15
水着の破壊力は規格外のようです。
しおりを挟む水の国、ヒュドール王国。
その国土の大半が海に面しており、観光資源となる美しい湖や滝などを多く有する水に恵まれた国。また、温泉も数多く存在するため療養地としても名を馳せている。
レンガ造りの道の両端には小さな溝があり、そこには常に透き通った水が流れていて、広場などには必ずと言っていい程噴水が設置されている。
初代の王族である水竜の力が王族に代々受け継がれているお蔭で晴れの日が多いにも関わらず水が干からびることはないのだとか。
そのため、世界で最も美しい国と言われており観光客が絶えないらしい。
さらに特徴として神、主に主神ユイスへの信仰が厚く王都には大きな神殿が存在する。
ヒュドール王国では神殿は神に祈りを捧げる場所でもあり、人に自分の隠し事を打ち明ける場所でもあるらしい。
「お嬢ちゃん、これも持っていきなよ!」
商人特有の良く通る声がイブに向けて投げ掛けられる。
「ふむ?はひはほう」
「イブ、飲み込んでから喋れ」
「ふぁい」
イブはおばちゃんから串焼きを受け取った。
イブの両手は様々な種類の食べ物で一杯になっている。先程からイブの可愛さにやられた人々が商品を次々に差し出して来るのだ。
(こんなことなら出店のある通りになんて来るんじゃなかった……)
ソルは内心嘆息する。
自分以外がイブに群がるのは非常に面白くない。
イブに人が寄ってくる光景を見ると自然と眉間にしわが寄る。
ソルも人外レベルの美形なので視線を集めるのだが、明らかに不機嫌な様子のため話し掛ける者は誰もいない。
ちなみに、男がイブに近付いてきた場合は殺気を放って追い払っている。
「うふふ~ソル怖い顔しないの~」
イブに人差し指で眉間をぐりぐりされる。
なぜかイブは上機嫌だ。
イブの頬はほんのり赤く色付いていてその碧眼は潤んでいる。
(かっ可愛い!!!!)
あまりの可愛さにソルは硬直した。
表情が固まったことで周りからはさらに不機嫌になったと思われたことだろう。
数秒が経って我に帰るとこのイブを他人に見せたくなくて思わず抱き締めてしまう。
「なぁに~?」
イブはケラケラと笑い声を漏らす。
(ん?)
スンスン
イブから香ってくる匂いに首をかしげる。
(この匂い……)
「イブ酒飲んでる?」
「うふふ~飲んでる~誰かがくれたから~」
イブの右手には確かにアルコールの匂いがする飲み物が握られている。
(誰だよイブにこんな強い酒渡したの!酔わせてお持ち帰りする気か?俺だったらするな)
「とりあえず酒は没収な」
「ああ~」
ソルはイブがこれ以上酔わないように酒を取り上げ飲み干す。
残念そうな顔をするイブの口に先程貰った串焼きを突っ込む。
もぐもぐもぐ。
美味しかったのか、目を細めて無言で食べ進める。
その姿も小動物的で愛らしく、ついつい給仕に夢中になってしまう。
「美味しいか?」
「美味しい」
「そうか」
ソルは軽く表情をゆるめ、柔らかな銀髪を撫でる。
その二人の仲睦まじい様子は周囲の人々を和ませる。
あらかた食べ終わるとイブは噴水のある広場へふらふらと歩き始めた。
「イブ?何をするんだ?」
「酔い醒ましに一発芸」
イブは噴水のフチに立つと右手をピンッと上に伸ばし声を張り上げた。
「さぁさぁ!お立ち会いの皆さま!あなたの聖女、イブです!!「俺のだ」今から催し物をするからお金を落としていくといいよ」
イブの容姿に惹かれてもう既にそこそこ人が集まっている。
言い終わるや否や、イブはマントを脱いで俺に投げて寄越した。マントの下に着ていた聖女らしい衣装が明るみになり、イブの銀髪を日射しが照らす。
そしてイブは神力を駆使する。
「はぁ!」
掛け声と共に噴水から吹き出していた水が大量に空高く舞い上がった。細かい水飛沫がソルが居る方へも飛んで来る。
「「「「「「おおっ!」」」」」」
観客が歓声を上げる。
イブは右手腕を自分の体の前で右から左に動かす。
すると、それに伴って筒状になった水もイブの周りを動く。
イブが舞うように動き始めると水も動き、次第に水は東方の蛇のような竜へと姿を変えていく。その頃にはなかなかの大きさになっていた。
それを見た観客達はさらに興奮し、イブの前の石畳にチップを投げる。
太陽の光が舞う水滴で反射してイブの周りがキラキラと光っているように見える。
完全に竜の形になると竜は噴水に巻き付く。
パチンッ
イブは指を鳴らした。
その音が鳴ると同時に竜がその形のまま凍りつく。
「「「「「「ワアアアアアアア!!!!」」」」」」
見物人達の大歓声が辺りに響き渡る。
イブはこれで終わりと言うように噴水の縁から下りた。
チップはだいぶ貯まっていた。これで今日の宿代は問題ないだろう。ソルとイブは二人でチップを集め始めた。
店をほったらかして見物していた人が大半だったので皆氷の竜を記録昌石におさめてから帰っていく。
その中で一人のおじさんが近寄って来た。
「いや~良いものを見せてもらったよ。ここまでできる程神力を持っている人はなかなか居ないからね。チップの代わりにこれをあげるよ」
そう言って差し出されたのは二枚のチケットだった。
イブは取り敢えず受け取る。
「すぐ近くのプールの入場券なんだ。良かったら行ってくれ。水着のレンタルもあるから」
それだけ言うとおじさんは店に戻って行ってしまった。
イブはソルを見上げて首をかしげる。
「どうする?折角だし行こっか」
「ああ、そうだな。まだ午前中だしな」
二人はプールに行ってみることにした。
石畳の道を歩いていくとすぐ近くにそこはあった。他の建物よりもだいぶ大きい。
「思ったよりも大きいねぇ」
「さすが水の国だな」
二人はさらっと受付を済ませるとそれぞれ更衣室に入って行った。
ソルは適当な水着を借りて着替え、プールの入口の壁にもたれ掛かってイブを待っていた。
ソルは何となくここまで来たので考えていなかったのだ。
プールに来るということがどういうことなのか………。
「ソルお待たせ~」
「ああ……」
ソルはイブの声がした方へ振り向いた。
「!?」
「ゴホッゴホッ」
むせた。激しくむせた。
イブの格好はソルには刺激が強すぎた。
後頭部の高いところで一つに括られた銀髪。その白い肌を惜しげなく晒した白ビキニ。
ソルは、鼻血を出さずに済んだのは奇跡だと思った。
0
あなたにおすすめの小説
妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した
無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。
静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……
聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま
藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。
婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。
エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!
Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。
なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。
そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――?
*小説家になろうにも投稿しています
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される
沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。
「あなたこそが聖女です」
「あなたは俺の領地で保護します」
「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」
こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。
やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる