うちの聖女様は規格外のようです。

雪野ゆきの

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甘さは規格外のようです。

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 イブは早々に着替え終わって建物の入口で二人を待っていた。
 受付の人にえっ、もう?という顔をされたのは何とも言えない気持ちになった。
 まぁ、ソルが水着姿を褒めてくれたので良しとしよう。

 しばらく待っているとランが出てきた。

「お待たせ~イブ」
「………」

 急に呼び捨ては馴れ馴れし過ぎやしないだろうか。
 そんなに気にする方でもないので特に何も言わないが。
 ふと、ランの動きが止まっていることに気付いた。
 黙ってランの顔を見るとその視線は私の胸元にある。
 うん、間違いない。

「ランは変態さんだったんだ」
「!?」

 ランは頬を大胆にひきつらせた。

「なんで急にその結論に至ったの!?」
「ずっと私の胸元見てるから」
「君のペンダントを見てたの!」

 ランはイブのダークブルーの石が付いたペンダントを指差す。

「ああこれ?昔ソルがくれたの」
「あいつしっかり自分の髪と同じ色のを贈ったのか……」
「独占欲だね」
「普通に自覚してるんだ。物語のヒロインはこういう時『なんでだろうね~』とか鈍感を発揮するらしいよ」
「ナンデダロウネーイブワカンナイ」
「下手くそか」
「変態よりはましだと思うの」
「だから違うって。……なんかその石、すごく気になるんだよねぇ」
「………ふーん」

 イブがランを見つめているとソルが出てきた。二人を見てソルはジト目になる。

「………イブ浮気か?」
「胸元見られただけだよ」
「やめてよ僕殺されそう。うわっめっちゃ睨んでくるじゃん!!」

 ソルは今にも射殺しそうにランを睨む。

「ペンダント見てたって言ってたけど本当は胸見てたもんね、ランは嘘つきだな~」
「何で誤解を招くようなこと言うかな、この人完全に目潰しの体制に入ってるよ」
「死ぬか記憶を消すか目を潰されるか選べ」
「この人ガチだ!」

 ソルの周りに剣呑な気配が漂う。


「えいっ」

 イブは両手でソルの顔を挟むと自分の方へ視線を向けさせニコッと笑顔を見せる。

「冗談だよ、ソル。怒ってくれたの?」
「……………怒らないはずないだろ」
「えへへ~」

「すみませーん、イチャイチャストップしてもらっていいですかー?」

「僻む奴はモテないぞ」
「短気に言われたくない」

 ゲシッ

「いてっ」

 イブはランの背中を足の裏で蹴った。

「イブ!そんなに脚を上げたらスカートが捲れるだろう!!」
「僕への同情は!?」
「イブに比べたらムダ毛くらいの優先度しかない」
「女子だったら割と重要だからなムダ毛!!」
「そんなことよりもランは早く私達を案内するといいよ」 
「そうだぞランぼったくり仕事しろ」
「ランに変なルビ振るのやめてくれる!?」

 ランは渋々歩き始めた。その後をソルとイブが付いて行く。

 三人は細い路地に入った。ランが言うには裏道らしい。
 三人分の靴音が石畳でカツン、カツンと反響する。

「二人は甘いものは好き?」
「好き」
「イブが好きなものは好きだ」
「あんたは甘いものじゃなくてイブが好きなだけだろ」
「そうだな」
「開き直んな」

 何はともあれ、イブが好きならということで三人は人気のカフェに向かうことにした。
 イブとソルはランについて曲がったり階段を昇ったりひたすら人気のない閑静な路地を進んでいたのに気付けば人の多い大通りに出ていた。

 あら不思議。

 そのままランおすすめのカフェへと足を進める。

 そこは大き過ぎず小さ過ぎず、青を基調としたおしゃれなカフェだった。

 店内に入る結構混み合っていた。客の割合としては圧倒的に女性客が多い。
 扉をくぐると制服を着た店員が三人を出迎えた。

「いらっしゃいませ、三名様ですか?……すみません、ただ今二人用の席しか空いておりませんので少々お待ちいただけますか?」
「問題ない」
「え?」

 店員にそう返すとソルとイブは空いている席へと勝手に向かった。

「え!?ちょっと、それ僕が立ってるってこと?」

 ランがソルに尋ねながら慌てて後を追う。

「んなわけあるか。ランの置物なんて需要ないだろ」

 そう言うとソルはテーブルとよく合ったデザインの椅子に腰掛けた。そしてイブに向けて両手を広げる。

「おいで、イブ」
「ほいっ」

 イブは迷わずソルの脚の上に座った。
 ソルはすかさずイブの胴に両手を回すとイブの旋毛に頬擦りする。

「あんたらまじか………」

 ランは呆れつつも二人の向かいに腰を下ろす。

 周りの視線はソルとイブに釘付けになっている。
 それもそのはずだ。二人は滅多に見ない美形であり身長差も丁度よく、一つの絵画の様に絵になっているのだ。
 ランも美形の部類には入るのだが二人といるとどうしても霞んでしまう。

「ほらさっさとお勧めを頼んでよ」
「わかってるわ」

 ソルが催促するとランは店員にミルクレープとチョコレートケーキに紅茶3つを頼んだ。
 その間も周りからは視線が痛い程注がれている。

「非リアへの視覚の暴力だよねぇ」

 ランが何気なく呟く。

「ランは非リアなの?」
「イブ、その質問は嫌味だぞ」
「ああ、ごめんね……」
「イブその哀れみの目やめて……。僕恋人は居ないけどリアルは充実してるから。何てったって僕には兄さんがいるからね!」

「「ブラコン」」

「うん、否定しない」
「うわぁ」
「ソルの兄さんその反応は傷付く。僕にとっての兄さんはソルの兄さんにとってのイブと同じような存在なんだよ!」
「お前は実の兄を恋愛対象としてみているのか……」
「うんごめん撤回する。全然一緒じゃなかった。あとあんた会話の端々に地味にのろけてくるよね」
「私知ってるよ!そういうのを近親相かn」「イブちょっと黙ろうか」

 イブが変な単語を口走ったがランのストップが入った。

 そんな話をしているとケーキと紅茶が運ばれて来た。

「お待たせしました~」

 店員はもうソルとイブの体勢に突っ込まない。

 周りは一体どうやって食べるのかと二人を見守っていると、ソルがフォークを手に取りケーキを一口サイズに分けた。

「絶対胸焼けするよ……」

 ランの呟きは誰にも届かなかった。


「はい、イブあーん」
「あーん」

 ソルはイブの口元にケーキを差し出す。勿論表情はピクリとも変わらずにだ。
 イブは素直に口をパカッと開けてケーキを食べさせて貰う。
 ランはしっかり目を逸らしている。

「おいしいか?」

 ソルがそう尋ねるとイブは花が咲くようにふわりと微笑んだ。

「うん、おいしい」

 それを受けてソルも口角を少しゆるませる。


「「「ゴフッ!!」」」


 店内のかなりの客が二人の甘い空気にやられた。効果は抜群のようだ。

「ソルにも食べさせてあげようか?」
「いや、それされると俺正気保てないから……。俺はイブがおいしそうに食べてる姿を見てればそれで満たされる」
「そう?」

 店内には甘い空気が充満していた。


「すみませーん、空気が砂糖なんで換気お願いしまーす」

 バタンッ!

 一人の女性が椅子から倒れた。


「しっかりして!!甘い会話に負けちゃ駄目っ!あんた死因が美形カップルでもいいの!?」
「うわあああああああああ口よりも目と耳の方が甘さを感じてるううううううう」
「あ、コーヒー下さい。もちろん濃い目で」
「わっ、私は彼と別れたばっかりなのに、見せ付けやがって……うらやまじいいいいいいいいいい」

 店内は一時騒然とした。

 周りの騒ぎはまるっと無視してソルはイブにあーんをし続け、イブはあーんを受け続けた。




 このカフェはそれから暫くダメージを受けたい人の為の店と話題になり、ドの付くMの方々が数多くご来店なさったのだが、それは余談である。


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