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回想電車 第2の停車駅へ
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ドアが閉まり、再び電車が動き出す。真っ白だった視界が戻ってきた。
車窓には通学時に見慣れたいつもの景色が見える。
いつもと違うのは、死者が乗る回想電車に乗っていること。わたしは死んでいて、自分の人生を終え、この電車に乗っているらしい。
自分が死んだことに気づいたせいか、車窓からの景色がさっきまでとは違う雰囲気に見えてきた。鮮明ではなく、色褪せた写真のよう。
「そっか、わたし、車にひかれちゃったんですね……」
それは今朝のことだった。
まるで夢を見ているかのように映像が頭に浮かんだ。それは自分視点ではなく、観客として映画をみているような映像だった。
これが走馬灯というものなんだろうか。
黙っていた乗務員が口を開いた。同情する様子もなく、淡々としている。
「残念ですが、偶然が重なった不慮の事故でした……」
「きっと、わたしの不注意だよ」
わたしは苦笑いを隠せなかった。
「だって、下を向いて歩いていたんだもん」
「黒猫に気を取られていなかったら違っていたかもしれませんね……」
「そうかな」
「朝食を食べていれば、何かが違っていたかもしれませんね……」
「関係ないでしょ。あの時間には家を出なきゃいけなかったし」
「お父様と会話をしていれば……」
「……いい加減にして!」
今となっては取り返しのつかないことに、タラレバ言われるのは腹が立つ。
カッとなり席を立ち上がったが、電車が大きく揺れた。バランスを崩したわたしは再び席に着く。
「もう終わったことなんだからやめてよ……」
わたしの声は震えていた。
「まぁ……そうですね」
諦めを含んだかのような乗務員の声に、虚しくなる。
もうすべてはどうしようもないのだ。
死ぬ瞬間のことを忘れていたのに、今は意識がはっきりしている。
意識、という表現が正しいとは思わない。
だけど、こんなにも自分が死んだことを客観視し、嘆くような時間があるなんて思わなかった。
いっそのこと、死んだ次の瞬間には、次の人生が始まってくれればいいのに。
相変わらず、車窓には今日を生きていたはずのわたしが眺めていたであろう、馴染みの通学風景が流れていく。
それが余計に虚しい。
窓から差し込む光はいつもの朝の様子と変わらない。
車内の床に伸びた不気味な影に、思わず息を飲んだ。
「……死神?」
その影はとてもおぞましいものだった。大鎌を持ち、黒いフード付きマントを被った姿を連想させた。
わたしの呟きに死神の影は含み笑いをする。
「なんと呼ぼうと自由ですが、私は死神ではなく、死者を運ぶ回想電車の乗務員です」
確かに身なりは鉄道乗務員と変わらない。いつも利用している鉄道会社の制服に似た紺色を貴重にしたブレザーとスラックスを着用している。
「……おっと」
電車が大きく揺れた。徐々に速度が落ちている。
「次の駅に到着するようです」
「次は、どんな駅なの? 死神さん」
「ふふっ、……まぁいいでしょう」
死神さん、と言い切るわたしに諦めた様子で、口をつぐむ。
彼とも彼女とも形容しがたいその人は、口の端を吊り上げて微笑んでいた。それはひどく不気味で不思議なくらい美しいものだった。
電車のドアが開くと、再び視界は真っ白に包まれた。
車窓には通学時に見慣れたいつもの景色が見える。
いつもと違うのは、死者が乗る回想電車に乗っていること。わたしは死んでいて、自分の人生を終え、この電車に乗っているらしい。
自分が死んだことに気づいたせいか、車窓からの景色がさっきまでとは違う雰囲気に見えてきた。鮮明ではなく、色褪せた写真のよう。
「そっか、わたし、車にひかれちゃったんですね……」
それは今朝のことだった。
まるで夢を見ているかのように映像が頭に浮かんだ。それは自分視点ではなく、観客として映画をみているような映像だった。
これが走馬灯というものなんだろうか。
黙っていた乗務員が口を開いた。同情する様子もなく、淡々としている。
「残念ですが、偶然が重なった不慮の事故でした……」
「きっと、わたしの不注意だよ」
わたしは苦笑いを隠せなかった。
「だって、下を向いて歩いていたんだもん」
「黒猫に気を取られていなかったら違っていたかもしれませんね……」
「そうかな」
「朝食を食べていれば、何かが違っていたかもしれませんね……」
「関係ないでしょ。あの時間には家を出なきゃいけなかったし」
「お父様と会話をしていれば……」
「……いい加減にして!」
今となっては取り返しのつかないことに、タラレバ言われるのは腹が立つ。
カッとなり席を立ち上がったが、電車が大きく揺れた。バランスを崩したわたしは再び席に着く。
「もう終わったことなんだからやめてよ……」
わたしの声は震えていた。
「まぁ……そうですね」
諦めを含んだかのような乗務員の声に、虚しくなる。
もうすべてはどうしようもないのだ。
死ぬ瞬間のことを忘れていたのに、今は意識がはっきりしている。
意識、という表現が正しいとは思わない。
だけど、こんなにも自分が死んだことを客観視し、嘆くような時間があるなんて思わなかった。
いっそのこと、死んだ次の瞬間には、次の人生が始まってくれればいいのに。
相変わらず、車窓には今日を生きていたはずのわたしが眺めていたであろう、馴染みの通学風景が流れていく。
それが余計に虚しい。
窓から差し込む光はいつもの朝の様子と変わらない。
車内の床に伸びた不気味な影に、思わず息を飲んだ。
「……死神?」
その影はとてもおぞましいものだった。大鎌を持ち、黒いフード付きマントを被った姿を連想させた。
わたしの呟きに死神の影は含み笑いをする。
「なんと呼ぼうと自由ですが、私は死神ではなく、死者を運ぶ回想電車の乗務員です」
確かに身なりは鉄道乗務員と変わらない。いつも利用している鉄道会社の制服に似た紺色を貴重にしたブレザーとスラックスを着用している。
「……おっと」
電車が大きく揺れた。徐々に速度が落ちている。
「次の駅に到着するようです」
「次は、どんな駅なの? 死神さん」
「ふふっ、……まぁいいでしょう」
死神さん、と言い切るわたしに諦めた様子で、口をつぐむ。
彼とも彼女とも形容しがたいその人は、口の端を吊り上げて微笑んでいた。それはひどく不気味で不思議なくらい美しいものだった。
電車のドアが開くと、再び視界は真っ白に包まれた。
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