顔の裏側その顔は。

ASFAKE

文字の大きさ
9 / 9

因縁

しおりを挟む
 4年前。

 珪那がまだ駆け出しの刑事だった頃。

 彼女は期待と不安が入り混じった気持ちで、同僚の先輩たちからの連絡を待っていた。

「犯人を確保した」という言葉が、まるで彼女の心の中で何かを引き起こすかのように響く。

 珪那は急いで駐車場へと向かう。
 人々が通り過ぎる中、彼女の心は高鳴り、足は自然とその方向へと急ぐ。
 新人としての緊張感が、彼女の中で昂ぶりを増していた。
 初めての大きな事件に関わり、正義を果たすチャンスが目の前に迫っている。

 運転席に乗り込み、エンジンをかける。

 周囲の音が遠くなり、彼女の心の中には先輩たちの声と、確保された犯人への期待でいっぱいだった。
「これで解決だ。流石、先輩達」
 その思いが、彼女の顔を緊張させる。

 しかし、現場に車を付けて先輩たちへ連絡を取ろうとするも、電話は繋がらなかった。

 繰り返し虚しい音が響くばかり。
 焦りがじわじわと心の中に広がり、彼女の不安感は一層強まっていく。

「どうして繋がらないの?」珪那は自問自答しながら、無駄にかけ直していた。何かが起こっているのかもしれない。

 彼女は気のせいだと思おうと努力するが、暗い予感が胸を締め付ける。
 すぐに現場に向かうべきだと判断し、携帯をポケットにしまい、先輩達の元へ向かう。

 すると、衝撃的な光景が目の前に広がった。
 珪那の目に飛び込んできたのは、1人の先輩の亡骸が地面に無惨に転がっている姿だった。

 彼女の心臓が一瞬止まり、思わず後ずさる。
 頭には大きな風穴が空き、目を背けたくなるほどの惨状が広がっていた。

 干からびた遺体は無惨な姿だった。
 珪那は一瞬言葉を失い、恐怖と悲しみに襲われた。
 先輩の名が彼女の口から出ることもなく、その場の正体不明の恐怖に飲み込まれそうになる。
 彼女はその先輩がどれほどの努力をし、仲間として共に過ごした時間を思い出していた。

「んん~。やっぱり男の体液は不味いねぇ。艶がない」

 と、不気味な笑みを浮かべながら、暗闇から姿を現したのは、確保されたはずの犯人だった。

 珪那は目を疑った。

 あの男が、無事に捕まっていたはずなのに、目の前にいる。

 犯人は両手に他の先輩の干からびた死体を持ち、その骸はまるで彼の手遊びの道具のように見え、まるで彼の狂気を讃えるかのようだった。

 恐怖と怒りが一瞬にして彼女の心を支配する。

 生き残りの彼女にとって、目の前の光景は悪夢そのものであった。

「な…なぜお前がここにいる!」

 声が震えながら、珪那は必死で言葉を絞り出した。

 直視できない現実が目の前に広がり、思考が追いつかない。

 彼女の心は怒りで燃えるように熱くなり、犯人への復讐心が芽生える。

 しかし、同時に恐怖も絡みついていた。

「捕まえられたと思った?甘い甘い、どれほど無能なのか、知っているからね」

 犯人の言葉には、挑発的な響きと底知れぬ冷酷さが含まれていた。

 彼の目には狂気が宿り、珪那に向けられたその視線はまるで獲物を狙う猛獣のようだった。

「貴様ァッ!!」

 珪那は心の中の怒りを解放するかのように銃を引き抜き、躊躇なく発砲した。

 しかし、犯人は驚異的な反応速度で弾を避け、瞬時に彼女の首を鷲掴みにして壁に押し付けた。

 息が詰まるような圧迫感に、彼女は一瞬動けなくなった。

 目の前には狂気の笑みを浮かべた犯人の顔が迫り、冷たく響く声が耳に届く。

「人間は愚かだね。異形者には勝てないってさ」

 珪那は必死で自分の体を彼から引き離そうと奮闘するが、力強い手の握りが彼女の動きを止めていた。

 心臓が激しく鼓動し、恐怖と怒りが交錯する。

 しかし、彼女は諦めるわけにはいかなかった。

「君の体液は美味しそうだけど、今日はお腹いっぱいだからいいや」

 挑発するように言い放った。

 その言葉には狂気が宿り、彼女の心に恐怖が押し寄せる。

 しかし、同時に怒りも湧き上がっていた。

 彼女はこの男が命を奪ったことを忘れない。

 ーーーー

「今ここで、皆の仇を討つ…!!」

 と、珪那は心の底から叫びながら、拳銃の引き金に指を入れた。

 過去の悲劇が彼女の心に燃える怒りを注ぎ、視界が赤く染まっていく。

 彼女はこの瞬間、すべての感情を一つに集約していた。

「やっぱり聞く耳、持たないじゃないか」

 犯人は壁から壁へと飛び跳ね、まるで影のように姿を消してしまった。

 珪那は驚愕の表情を浮かべ、目の前の状況に一瞬戸惑ったが、すぐに端末を取り出し応援要請を行った。

 自分一人では対応しきれないことは明白だった。

 彼女の心の中には焦燥感と不安が渦巻いていたが、仲間を頼ることで少しでも安心できると思った。

 すぐに捜査網が引かれるが、犯人の痕跡には至らなかった。

 どれだけ警戒を強めても、彼はまるで幻のように姿を消してしまう。

 その事実に珪那は苛立ちが募るばかりだった。

 時間が経つにつれて、彼女の心は緊張と不安に包まれていった。

 現場には、刑事課長の荒岩 剛(あらいわ つよし)も足を運んでいた。

 彼は目だけで人を殺せそうな目つきで、情のない表情を浮かべていた。

 顎髭が彼の威厳をさらに引き立たせており、その存在感は圧倒的だった。

「課長…すみません。取り逃がしました」

 珪那が視線を落とすと、険しい表情から一変、珪那の肩に手を置いた。

「お前が無事で良かったよ」

「すみませんでした…」

「気にするな。本当に盗難被害と今回の殺人事件、繋がってる可能性があるとはな」

「ええ」

「珪那。お前はこのまま盗難事件を追ってくれ。我々は殺人事件から犯人を追う」

「分かりました」

 ーーーー

【異慶市殺人2件、4年前の悪夢再び】

 一面を飾る見出しを横目にコルハは零す。

「最近、物騒ね」

「そうですね」

「ちゃんと戸締りとかしないとダメよ?天羅ちゃん」

「そうですね」

「買い物行くなら呼んでね?一緒に行くからね?」

「そうですね…って、コルハさん。もう部屋にいるじゃないですか」

 天羅は苦笑いを浮かべる。

「ほら、最近物騒だしね。ここはセキュリティーが厳重だけど…」

 コルハの母性は今日も全開だ。

 いつ仕事をしているのかというくらい、天羅に付きっきりだった。

 結局、買い物に行くことになり、恒例のコルハのファンサービスが始まり、天羅は近くの公園でブランコに乗る。

「あれ?」

 天羅は不意に気配を感じ、電柱の影から覗く黒フードの男を見つけた。

 彼の姿はどこか不穏な雰囲気を醸し出しており、見るからに怪しい印象を与えていた。

 普通なら、こんな状況では即座に通報するか、その場から離れるか、あるいは目撃者を頼るものであろう。

 しかし、天羅は不思議な勇気に背中を押されていた。「何してるんですか?」と、彼女は普通に声を掛けた。

 男は一瞬驚いたように振り返り、その表情を隠すようにフードを深く被り直した。

「…何でもない」と、低い声で答える。

 しかし、そこには何か隠し事があるように感じられた。

 天羅はその反応を見逃さず、内心の不安を抑えながらさらに踏み込んだ。

「あっ、もしかして、コルハさんのファンですか?言って来ましょうか?」

 天羅が気を遣って声をかけると、男は慌てて制止するように手を振った。

「そんなんじゃないよ」と、彼の声には焦りが滲んでいた。

 その態度に、天羅は少し驚いた。

 彼女は初めて男の顔をじっくりと見た。

 中年の男性で、思っていたよりも優しそうな表情が浮かんでいる。

 しわの寄った額と柔らかな目元は、どこか温かさを感じさせた。

「本当に大丈夫ですか?」

 と、天羅はさらに心を開いて尋ねた。

 男性が持つ優しさに惹かれ、自分の中にある不安が和らいでいくのを感じていた。

 男は一瞬ためらいながらも、少しずつ心を開いた。

「申し訳ない、ただ一人で考えているところだったんだ」

 と彼は言葉を続けた。

 その言葉に、天羅は優しさを持って接し続けることを決めた。

「何かお手伝いできることがあれば、教えてください。そういう時は、誰かに話した方が楽になりますよ」

 男は彼女の温かな言葉に心を打たれたようだった。

「ありがとう、君は不思議だね。僕を見て驚かないなんて…」

 と少し目を伏せた。

「驚き?ませんよ?困ってるなら力になれればなぁって」

 と天羅は真剣な表情で言った。

 その瞬間、男は何かを決意したように顔を上げ、少しずつ心の内を語ろうとした。

「ごめん天羅ちゃん。お待たせ」

「大丈夫ですよ。あっ、コルハさん。この人、困ってるみたいなんです」

「え?」

 コルハが首を傾げる。

「誰もいないけど?」

 天羅は少し戸惑いながらも、焦りは見せずに振り向いた。

「え…?」

 すると、男性はなぜかその場から消えてしまったかのように、まるで彼女たちの視界から消えていた。

「あれ??」

 と、天羅は困惑した表情で言った。

 彼の存在を確かに感じていたのに、今はただ静寂だけが残されていた。

「どうしたの?その人、どこに行ったの?」

 コルハは不思議そうに尋ねた。

「さっきまでここにいたのに…本当に、急に消えちゃったみたいです。優しい顔をしてた人だったから、何か力になりたかったんですけど」

 と、天羅は眉をひそめて残念そうに言った。

 コルハは少し考え込みながら、「もしかして照れちゃったのか?心の中に問題を抱えている人もいるから、理解するのは難しいよね」
 と優しく寄り添った。

「うん、でもわたしは、話を聞きたかったです。誰にでも色々なことがあるんだなって」

 と天羅は感じたことを正直に話した。

 コルハは力強く頷き、天羅のことを誇りに思う。

「天羅ちゃんは本当に優しいね。だれかを助けたいと思える気持ちは大切よ。きっと彼も、誰かに話すことで少し楽になるかもしれないね」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...