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犯人
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「被害に気付いたのはいつ頃ですか?」
颯太が端末に状況を入力する。
「被害に気付いたのは一昨日です。昼頃に遊びに行くと言って見送りました」
高倉が当時の状況を説明する。
「服装は?」
「女の子が着るような少しフリルの付いた白いシャツだったと思います。下は茶色の半ズボンです」
「誰かと一緒に?」
「ALKAROIDの娘ですから、友達はいないと思いますので、1人だと…」
「一緒に出掛けようとは思いませんでしたか?」
「私は急ぎの用件があって、自室で仕事を済ませてました。必要でしたら会社に問い合せて頂いても」
颯太は端末に入力していく。
珪那は静かに高倉の動向を見守る。
「それに、前にも一人で出掛けていましたし、問題ないと思いました」
「娘さんが、立ち寄る場所は?」
「主に公園です」
ーー【珪那】ーー
被害者は、高倉 明夫 48歳。
最愛の娘を似せたALKAROIDの盗難被害。
私が携わった殺人事件の被害者でもある。
今のところ、高倉に変わった様子はない。
さて、AFAKE社の社長から貰った情報を整理しよう。
高倉がALKAROIDを購入したのは1年前。
電子決済で一括。
資産もあるから驚きはしない。
勤め先はAFAKE社の子会社で、社会的地位もある。
ん?
写真…か。
私は壁に飾られた額縁に視線を送り、ゆっくりと左右へ目を滑らせた。
並びは月日や身長の変化を追うかのように規則正しく、幼い笑顔が時間軸に沿って連なっている。服の趣味、髪型の変遷、歯が抜けた瞬間の照れた表情は、どれも家庭の温度を伝えるものだ。
「高倉さん、これは娘さんの写真ですか?」
「ええ…全部、結華の写真です。幼稚園の運動会、誕生日、七五三……」
視線は三歳くらいの写真へ戻る。
高倉の表情が曇った。
「失礼しました」
私が謝ると、誰かがこちらを覗いている薄い影も額縁のガラスの反射に混ざった。
心臓が引き締まる。
「颯太…高倉さん。そのまま聞いて下さい」
私が声を掛ける。
「颯太、チラッとでいいから窓際を見て。誰かが覗いてる」
颯太が窓際にチラッと目を向けてくれる。
「あ…誰かが…走って」
「颯太!高倉さんをお願い!!」
「えっ!?珪那さん!?」
ーーーー
珪那は高倉邸を飛び出し、数歩先で黒フードを被った人物が逃げ去る姿を捉えた。
「待ちなさい!」
しかし、黒フードの人物はその呼びかけにも動じず、ただ前へ進む。
「逃がさないわよ…!」
気持ちを強く持ち、珪那は力を振り絞った。足元を気にする暇もなく、道の起伏を越えて突き進む。
時折、黒フードの人物が振り返ることがあった。
その瞬間、彼女はその目を見ることができたかもしれない。
それは、一瞬の冷酷さを宿すものであった。背中に感じる圧力に、彼女の心が強く反応する。
なぜこの人物は逃げるのか?何を知っているのか?その疑問が、さらに追いかける原動力となる。
距離は一時的に縮まり、また開くが、諦めるわけにはいかない。
珪那のペースが落ちることはなかった。
身を捨てても、この真実を追い求めるのだ。
「止まりなさい!」
その声が再び響いた。
彼女は心の底から叫び、さらに足を速めた。
珪那が路地裏へ踏み込むと、急に息を呑む。
黒フードの人物は、背を向けて立ち尽くしていた。
狭い路地は両側に高い壁が立ち並び、後ろに戻ることはできない。
まさに行き止まりだ。
「残念、行き止まりよ」
彼女の声は、反響する静けさの中で響く。
珪那は拳銃を引き抜き、銃口を黒フードの人物へと向ける。
冷たい金属が手の平に重く感じられ、心臓の鼓動がさらに速くなる。
「あなたが誰か、何を知っているのか教えてもらうわよ」
珪那は毅然とした口調だが、緊張した空気が重く垂れ込めた。
「教える?何を教えればいい?どうせ信じないだろう」
普通の声ではない。
どこか不気味で陰鬱な響きを持っていた。
「内容次第よ。ゆっくりこちらを向きなさい」
珪那が要求すると、黒フードの人物がゆっくりと振り返った。
その瞬間、珪那は言葉を失った。
ギョロリとした大きな両目が、彼女をじっと見つめている。
それは恐怖を掻き立てる視線だった。
茶色の輝く肌色が、普通の人間とは異なる質感を持ち、不気味さを増幅させる。
フードから伸びる触覚は、まるで生き物のように動き、周囲の空気をはらむ、その姿はまるで虫そのものだった。
珪那は背筋が凍る感覚に襲われた。
しかし、銃を握りしめた手は動かない。
目の前にいるのは、確かに自分が追いかけていた存在だったが、その正体は想像を絶するものだった。
「聞く耳、持たないだろう?」
黒フードの人物は、その異様な姿で口を開く。
針のような口から発せられる言葉は、奇妙な響きを伴う。
珪那は憎悪に駆られ、その目にどす黒さが宿る。
心の奥底に眠る忌まわしい記憶が、彼女を焦がす。
「お前は…あの時の…ッ!」
その言葉は、怒りと復讐心の渦巻く感情からこぼれ落ちた。
4年前、彼女の目の前で無惨に奪われた者たちの声が耳に響く。
その瞬間、彼女は時間を遡り、あの恐怖の夜を思い出した。
暗闇に包まれた現場、無慈悲な笑い声、両手から滑り落ちた同僚の屍。
忘れることなどできない、あの日の犯人が目の前に立っている。
彼女の体の中にある憎しみが、抗えない力となって湧き上がった。
颯太が端末に状況を入力する。
「被害に気付いたのは一昨日です。昼頃に遊びに行くと言って見送りました」
高倉が当時の状況を説明する。
「服装は?」
「女の子が着るような少しフリルの付いた白いシャツだったと思います。下は茶色の半ズボンです」
「誰かと一緒に?」
「ALKAROIDの娘ですから、友達はいないと思いますので、1人だと…」
「一緒に出掛けようとは思いませんでしたか?」
「私は急ぎの用件があって、自室で仕事を済ませてました。必要でしたら会社に問い合せて頂いても」
颯太は端末に入力していく。
珪那は静かに高倉の動向を見守る。
「それに、前にも一人で出掛けていましたし、問題ないと思いました」
「娘さんが、立ち寄る場所は?」
「主に公園です」
ーー【珪那】ーー
被害者は、高倉 明夫 48歳。
最愛の娘を似せたALKAROIDの盗難被害。
私が携わった殺人事件の被害者でもある。
今のところ、高倉に変わった様子はない。
さて、AFAKE社の社長から貰った情報を整理しよう。
高倉がALKAROIDを購入したのは1年前。
電子決済で一括。
資産もあるから驚きはしない。
勤め先はAFAKE社の子会社で、社会的地位もある。
ん?
写真…か。
私は壁に飾られた額縁に視線を送り、ゆっくりと左右へ目を滑らせた。
並びは月日や身長の変化を追うかのように規則正しく、幼い笑顔が時間軸に沿って連なっている。服の趣味、髪型の変遷、歯が抜けた瞬間の照れた表情は、どれも家庭の温度を伝えるものだ。
「高倉さん、これは娘さんの写真ですか?」
「ええ…全部、結華の写真です。幼稚園の運動会、誕生日、七五三……」
視線は三歳くらいの写真へ戻る。
高倉の表情が曇った。
「失礼しました」
私が謝ると、誰かがこちらを覗いている薄い影も額縁のガラスの反射に混ざった。
心臓が引き締まる。
「颯太…高倉さん。そのまま聞いて下さい」
私が声を掛ける。
「颯太、チラッとでいいから窓際を見て。誰かが覗いてる」
颯太が窓際にチラッと目を向けてくれる。
「あ…誰かが…走って」
「颯太!高倉さんをお願い!!」
「えっ!?珪那さん!?」
ーーーー
珪那は高倉邸を飛び出し、数歩先で黒フードを被った人物が逃げ去る姿を捉えた。
「待ちなさい!」
しかし、黒フードの人物はその呼びかけにも動じず、ただ前へ進む。
「逃がさないわよ…!」
気持ちを強く持ち、珪那は力を振り絞った。足元を気にする暇もなく、道の起伏を越えて突き進む。
時折、黒フードの人物が振り返ることがあった。
その瞬間、彼女はその目を見ることができたかもしれない。
それは、一瞬の冷酷さを宿すものであった。背中に感じる圧力に、彼女の心が強く反応する。
なぜこの人物は逃げるのか?何を知っているのか?その疑問が、さらに追いかける原動力となる。
距離は一時的に縮まり、また開くが、諦めるわけにはいかない。
珪那のペースが落ちることはなかった。
身を捨てても、この真実を追い求めるのだ。
「止まりなさい!」
その声が再び響いた。
彼女は心の底から叫び、さらに足を速めた。
珪那が路地裏へ踏み込むと、急に息を呑む。
黒フードの人物は、背を向けて立ち尽くしていた。
狭い路地は両側に高い壁が立ち並び、後ろに戻ることはできない。
まさに行き止まりだ。
「残念、行き止まりよ」
彼女の声は、反響する静けさの中で響く。
珪那は拳銃を引き抜き、銃口を黒フードの人物へと向ける。
冷たい金属が手の平に重く感じられ、心臓の鼓動がさらに速くなる。
「あなたが誰か、何を知っているのか教えてもらうわよ」
珪那は毅然とした口調だが、緊張した空気が重く垂れ込めた。
「教える?何を教えればいい?どうせ信じないだろう」
普通の声ではない。
どこか不気味で陰鬱な響きを持っていた。
「内容次第よ。ゆっくりこちらを向きなさい」
珪那が要求すると、黒フードの人物がゆっくりと振り返った。
その瞬間、珪那は言葉を失った。
ギョロリとした大きな両目が、彼女をじっと見つめている。
それは恐怖を掻き立てる視線だった。
茶色の輝く肌色が、普通の人間とは異なる質感を持ち、不気味さを増幅させる。
フードから伸びる触覚は、まるで生き物のように動き、周囲の空気をはらむ、その姿はまるで虫そのものだった。
珪那は背筋が凍る感覚に襲われた。
しかし、銃を握りしめた手は動かない。
目の前にいるのは、確かに自分が追いかけていた存在だったが、その正体は想像を絶するものだった。
「聞く耳、持たないだろう?」
黒フードの人物は、その異様な姿で口を開く。
針のような口から発せられる言葉は、奇妙な響きを伴う。
珪那は憎悪に駆られ、その目にどす黒さが宿る。
心の奥底に眠る忌まわしい記憶が、彼女を焦がす。
「お前は…あの時の…ッ!」
その言葉は、怒りと復讐心の渦巻く感情からこぼれ落ちた。
4年前、彼女の目の前で無惨に奪われた者たちの声が耳に響く。
その瞬間、彼女は時間を遡り、あの恐怖の夜を思い出した。
暗闇に包まれた現場、無慈悲な笑い声、両手から滑り落ちた同僚の屍。
忘れることなどできない、あの日の犯人が目の前に立っている。
彼女の体の中にある憎しみが、抗えない力となって湧き上がった。
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