顔の裏側その顔は。

ASFAKE

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盗難捜査

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 異慶市警察署に戻ると、相棒の颯太がすぐに話し掛けて来た。

「先輩、AFAKEの代表と会って来たんスよね?いいなぁ…」

「何で知ってるのよ」

「もう噂なってるスよ!どうでした?美人社長は」

 と目を輝かせて訊ねてきた。

 珪那は少し考えながら、颯太の興味を受け流そうとした。

「そうね。美人だったわ。でも、実際に会って話をすることで情報を得ることができたのは大きいわね」

 と彼女は続けた。

 颯太は暫く興奮気味に話を続け、

「美人社長が事件に関与してたりしたら、さらに面白いですね!」

 と笑った。

「そういう思わぬ展開は、捜査を進める上でありがたいけれど、何よりも信憑性が必要だから。仮定に過ぎないわ」

 珪那は注意を促すように言った。

「ねぇ、颯太」

「はい?」

「今日はやけに喋るわね」

「いつもと同じッスよ」

 一瞬だけ、颯太の目が泳ぐ。

 それを見逃す珪那ではない。

 問い詰めると颯太は白状する。

「殺人が2件?」

「そうっス。既に捜査チーム作られてるんスけど、珪那さん外されたんス」

 言葉が放たれた瞬間、机上の書類の端が微かに舞う。
 颯太から告げられた事件の概要を聞く。
 珪那は冷たい静寂の中で、唇を引き締め、背後の窓から差す斜光が彼女の横顔を一層強調した。

「なら仕方ないわね」

「え?」

 珪那の反応に颯太は驚いた顔で反応する。
 普段なら血が騒いで自ら先陣を切るからだ。

「課長が外したんでしょ?」

 珪那が見透かしたように話すと颯太は頷く。

「ってことは、盗難事件を進めても問題ないわね」

「でも先輩、いつもなら直談判したりするじゃないスか…どしてそんなに冷静なんスか?」

「だって私、課長を信頼してるもの」

 と返した声には、確固たる信念が感じられた。
 この言葉の裏には、単なる信頼を超えた何かが潜んでいる。

「明日受理する盗難被害と今回の殺人。繋がってるかもしれないわよ」

 颯太は驚きと不安が入り混じった表情で反応する。

「繋がってるって、どういうことッスか?単なる偶然じゃないスか?」

「今回の殺人、被害者は体液を吸い取られて亡くなっているのよね」

「そうっス」

 颯太は珪那に捜査資料を共有する。

「被害者の身元は確認中らしいスけど、いずれも未成年の女の子らしいスね」

 珪那が確認すると、現場写真に写る遺体は干からびて皮だけになっていた。

 しかし、珪那はこれを見るのは初めてではない。
 過去に対峙した事件を思い出す。

「とにかく…明日ね」

 颯太は微かに震えていた珪那を心配そうに見つめてしまった。

 ☆☆☆☆☆

 珪那と颯太が訪れたのは、異慶市の東側に立ち並ぶ住宅街であった。

「…ここね」

 珪那は被害者の待つ自宅へ訪れた。

 颯太が一歩前に出て、インターホンを押した。
 鳴る音に緊張が走り、二人は待つしかなかった。しばらくしてドアが開き、中から中年男性が顔を出した。
 彼は目にくたびれた様子だった。

「昨日対応した捜査官の明日空と言います。ALKAROIDの盗難被害についてお話を伺いに参りました」

「お待ちしてました。こちらです」

 被害者男性の後に続いていくと、玄関先や廊下には娘と思わしき女の子の写真や絵が飾られているのが目に入った。
 無邪気な笑顔を浮かべた彼女の姿が、部屋の中に温かい雰囲気をもたらしている。

 小さな女の子が遊んでいる様子が、父親の深い愛情を物語っているように感じられた。

 一室に案内されると、コーヒーとお菓子を差し出される。

高倉 明夫たかくら あきおと言います。来ていただいてありがとうございます 」

「いえ。それで、盗難に遭われたALKAROIDは娘さんに似せて製作したものなのですよね? 」

「はい…。4年前に娘が…娘が…」

 その瞬間、涙が彼の頬を伝い、悲しみが胸の奥から溢れ出すのが分かった。
 珪那と颯太は、彼の心の痛みを理解し、無言でその瞬間を共有した。

「申し訳ありません。お話しするのが辛い時期だと理解しています」

 珪那は、優しく語りかけた。

 高倉は大きく深呼吸をした。

「4年前、娘の結華(ゆいか)が殺されたんです。私は乗り越えようとしましたが…妻にも先立たれていて私に結華しか居なかったんです。ですから、
 彼女に似たALKAROIDを製作したのです 」

 高倉の声は震え、喉の奥で何度も詰まった。

「お気持ちお察し致します…」

 珪那は穏やかな口調で接する。

「彼女と過ごした時間は、全部ここにあるんです。なのに私は、また失ってしまった…」

 声が次第に細くなり、言葉の端々に溢れる喪失感が切り取られるようだった。

「…では、状況について、ゆっくりで構いませんのでお願いします」

 珪那は静かに息を吐くと、そっと颯太の肩に手を置いた。

「ここからは、あなたに任せるわ」

 颯太は一瞬視線を返し、頷くと椅子を前に出して高倉への聞き取りを引き継いだ。
 言葉の受け渡しは滑らかで、場の重さは保たれたま次の段階へと移った。

 彼女は席を立ち、静かに背筋を伸ばし、深く吸ってからゆっくりと吐いた。
 呼吸を整えると、脳内に捜査ボードを描き始める——断片的な情報が黒板にピンで留められていくように、被害者の犯歴、アリバイ、証言の食い違い、物的証拠、そしてALKAROIDに繋がる可能性のある人物や組織。
 色分けされた線が交差し、疑問符と仮説が並列して浮かび上がる。

 彼女の目はほんの一瞬、遠いところを見据える。感情を押し殺し、論理と直感だけを取り出して並べる作業。
 珪那は一つ一つの断片を手繰り寄せ、頭の中で優先順位を付けていった。
 時間、人物、動機、捜査ボードはまだ白紙に近いが、そこにはこれから繋げられる「線」と、解き明かすべき真実の輪郭が確かに形を取り始めていた。
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