異世界の聖杯を拾ったら後輩系彼女ができた件

三色ライト

文字の大きさ
8 / 30

8話 動物園デート

しおりを挟む
「あ、流れ星だぞ」

「え?」

 昨日と同じく一つの布団を分け合って寝ていると、夜空に一筋の光が走った。

「そういえばこの世界は星が綺麗に見えるんですね」

「異世界では見れないのか?」

「こっちほどは。邪神が空を暗く染めたらしいので」

「そりゃ大変だな」

「流れ星は普通の星と違うのですか?」

「俺は勉強が苦手だから原理は知らないぞ。ただ流れ星はその名の通り流れていくから綺麗なんだ。あと流れている間に3回願いを言えたら願いが叶うらしい」

「聖杯と同じ能力を!?」

「落ち着け、ただの迷信だ」

「むぅ」

 俺から解放されたいからか、そこからリディアはジッと流れ星を待っていた。珍しいものだから1日に何回もあるものじゃないぞと言っても聞かなかった。

「あ、流れ星!」

「うそ、2回も?」

「聖杯を返してください聖杯を返してください聖杯を返してください」

「リディアに好かれるリディアに好かれるリディアに好かれる」

「何ですかその願いは!」

「そっちこそ俺から離れるための願いじゃないか」

 正反対だ。一応これでも付き合っているのだから面白い。

 それにしても1日に2回も流れ星とは。何かが起こる前兆なような気がして逆に不気味だ。

「どうか私の願いが叶いますように」

「どうか俺の願いが叶いますように」

 流れ星が消えた後も俺たちは願い続けていた。意地を張って願いを唱え続けると普通に疲れてくる。

 唱え終わったのは同時だった。

「明日はデートだ、もう寝ようぜ」

「そうですね。私が正輝さんに惚れることはないと証明する良い機会です。万全の状態で挑まないとです」

「なかなか言うじゃないか」

 当てつけのように言いやがる。

 俺は布団に戻り、そのまま目を閉じた。

 昨日眠れなかったこともあって、今日は一瞬で夢の世界へと誘われた。



 翌日。

 俺たちは少し早起きをし、この辺りでは1番大きな動物園である東山動植物園に足を運んでいた。

 俺は大きめのリュックサックを背負っている。中にはもちろん人質こと聖杯くんが詰め込まれている。純金製だからかわからないけど、とにかく重い。服を脱いだらリュックサックの紐の跡が残ってそうだ。

 今日は平日なだけあって、客はほとんどいない。遠足で来た幼稚園児か、それより小さな子どもを連れたお爺さんお婆さんか、大学生カップルくらいだ。

 快適に、ストレスなく動物たちを見ることができそうだな。

「こんな広いところに動物たちを集めているのですか?」

 リディアは看板前で目を見開いた。

 異世界で動物がどう扱われているのかは知らないが、規模と種類の豊富さに驚いているようだ。

「動物だけじゃないぞ。動植物園なだけあって、植物もたくさんある」

「植物も……そうですか」

 植物には食いつかないな。興味がないのだろうか。

 季節の花なんかが見られるから、俺としてはおすすめだ。興味を持ってもらえるようなガイドを心がけてみよう。

「あ、なんですかあの大きな動物は!」

「おいおい、転ぶなよ」

 リディアは興奮した様子でゾウの広場まで走っていった。

 今日のリディアはブルーのTシャツと白いスカートをチョイスしていた。リディアが可愛いからなのか、はたまた菜々緒先輩のセンスなのかはわからないが、すごくいい服に見えた。たぶん前者だな。

 そんなリディアの後ろ姿を追う。手すりの前でぴょこぴょこ跳ねるリディアは中学生にしか見えなかった。

「正輝さん、鼻が長いです!」

「そうだな。あれはゾウといってめっちゃ重たい動物らしいぞ」

 ガイドがクソだ。こんなことならもっと勉強して教養を身につけておけばよかった。

 ふと、どこかから視線を感じた。しかし首を振っても怪しい人はいなかった。気のせいか、はたまた可愛いリディアを見つめる男の目か。

「正輝さんどうしました?」

「いや、なんでもないよ。それより次の動物を見に行こうぜ」

「はい!」

 リディアは昨日の態度が嘘のように盛り上がっていた。

 これは俺の持論だが、優しい子は動物が好きだ。だから優しいリディアも例に漏れず、動物が好きなのだろう。

 次に訪れたのはゴリラ・サル・チンパンジーのエリアだ。

 ここ東山動植物園のゴリラ・サル・チンパンジーエリアには名物キャラが2頭いる。まず1頭目は……

「あぁあぁぁぁぁあああ!」

「な、なんですかあの叫び声は!」

 絶叫する猿でお馴染み、フクロテナガザルのケイジくんだ。

 初見だと誰でも驚く。異世界人のリディアなら尚更だろう。

「リディアへの求愛だったりしてな」

「なるほど。正輝さんより明るくて素敵な方ですね」

「俺テナガザルに負けるの?」

 泣くよ?

 まぁ、おそらく冗談だろう。おそらく。そうでないとやってられない。

 何度も叫んでファンサービスをしてくれるケイジくんに、リディアは目を輝かせていた。スカイブルーの瞳が、まるでサファイアのように映る。

「綺麗だな」

「え、ケイジくんは綺麗というより豪快では?」

「いや、リディアがだよ」

 数秒の間を置いて、リディアは顔を真っ赤にした。

 そして、

「あぁぁ……」

 ケイジくんの1000分の1ほどの声量で叫び、顔を手で隠してしまった。

「そろそろ慣れてくれよ。リディアは可愛い。天使。大好き」

「も、もうやめてください! 私そういうの言われたことないんです」

「異世界人はセンスがないんだな」

「う、うぅ……」

 これ以上褒めたら泣いてしまうな。何となくの線引きが理解できた気がする。

 東山動植物園のゴリラ・サル・チンパンジーエリア、2頭目の名物キャラはゴリラの楽園にいた。

「な、何ですかあのイケメンは!」

「イケメンゴリラのシャバーニくんだ」

「正輝さんの何倍もイケメンです!」

「おいこら」

 シャバーニには負けても仕方ないかも知れない。文句なしのイケメンだし。

 ただしケイジくんに負けたのだけは納得がいかない。俺の薄いプライドがそこだけは譲れないと吠えている。

「……不思議です」

「ん、どうした?」

 リディアがポツリと呟いた。

 独り言のつもりだったのか、俺が反応したことに驚いた様子だった。

「いえ、その、魔力を持った動物が一頭もいないので不思議だなと」

「そっちでは動物が魔力を持っているのか?」

「そうですね。半分くらいは」

「怖いな。魔法とか撃てるの?」

「もちろんです」

 もちろんなんだ。

 もし地球がそんな世界だったら、人間は生態系の頂点に君臨できなかったかもしれないな。

 不意にぐぅ、と腹の虫の声がした。

 昨日の夜は俺の腹から。でも今日は、リディアの腹からだった。

 どんな顔をしているか確認しようとしたら、すでに顔を手で隠していた。

 ……恥ずかしがることないのに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...