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19話 ハーバリウムに閉じ込めて
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さて暇になった俺だが、ただ突っ立っているわけにはいかない。
あくまで俺の予想だが、リディアは欲しいものが見つからないと思う。というか、「欲しいもの」という概念がわからないのだと思う。
だから探さなくてはならない。彼氏として、リディアが喜ぶプレゼントを。
店内には若い女性客がたくさんいる。そういった人たちを観察すれば、自ずと女性にウケるものがわかるはずだ。
……なのだが、じろじろ見ていたら不審者を見る目を向けられてしまった。興奮はしない。視線の送り主がリディアだったら無条件に興奮していただろうけどな。
「難しいな」
雑貨ひとつとっても、あまりに精緻で理解できない。木彫りのクマとかなら馴染みがあるのだが、そういうわけにはいかないだろう。
数分後、リディアが俺の元へやってきた。予想通り、彼女の手には何も握られていない。
リディアは寂しそうに、でも無理して笑った。
「ごめんなさい。私には欲しいものはないです。正輝さんが欲しいものを買ってください」
「そう言うと思ったよ。店の前で待っていてくれるか?」
「えっ、は、はい」
俺はリディアを店の外に出した。
本当は、買うものには目星がついていた。これを買ってどんな反応をされるかはわからない。ただ、ポジティブな方向に進んでくれるのを祈るのみだ。
それをレジに持って行って、5200円を支払った。リディアの労働時間的にちょうどいい値段だろう。
店を出るとすぐ側の電柱でリディアは待っていた。
「……大好きなリディアにプレゼントがある」
「ちょ、ここ外ですよ?」
「こういう時はいいんだよ。格好つけさせてくれ」
「わ、わかりました」
リディアの顔は火を拭きそうになるほどに赤く染まっていた。しかし、俺は構わず続ける。
「前にも言ったが、リディアの優しさや可愛らしさ、そのすべてに恋をした。歪な出会いだったけど、この恋は本物だと思う。だから、リディアのために選んだプレゼントだ。受け取ってくれ」
「は、はい。ありがとうございます」
リディアはプレゼントの包装紙を丁寧にほどいた。
「これって……」
中から現れたのは黄色いハーバリウムだ。
ハーバリウムとは植物標本のことで、最近ではそれをオシャレに可愛く作られている。
リディアに渡したものもそうで、植物を黄色く色付けし、ボトルに詰めてあるのだ。見た目鮮やかで、ボトルの中は燦然と輝いているようだ。
しかし知っての通り、リディアは植物にトラウマを抱えている。彼女はハーバリウムを持ったまま若干俯いた。
「正輝さん、これは」
「もちろんわかっている。でもよく見てみてくれ」
「えっ?」
リディアは勇気を出したように、ハーバリウムをもう一度よく見つめてくれた。
「リディア、お前の大嫌いな植物は色付けされてオイルに浸され、挙げ句の果てにボトルに監禁されたんだぞ! どうだ、ちょっと強くなった気がしないか?」
リディアは言っていた。守れるものを守る力が欲しいと。
おそらくそれは、過去にあった何かしらの出来事から漏れた本心なのだろう。
だから俺はハーバリウムを選んだ。リディアがトラウマを克服し、強くなった気がするものを選んだのだ。他でもない、大好きなリディアのために。
俺の言葉を聞いたリディアは、
「ぷっ、あはははは」
笑った。
清楚な彼女が、大口を開けて、笑った。
数秒、いや十数秒と笑い続けた。俗にいうツボにハマるというやつだ。
「そ、そんなに面白いか?」
「はい。正輝さんがおバカすぎて、もう笑うしかありません」
「な、なんだよおバカって。これでもない頭をフル回転させてだな……」
つらつらと想いを語る俺に、リディアは抱きついてきた。
昨日の夜は後ろから。しかし今は、前から。
本格的な、恋人たちがする、抱擁だ。
俺もそれに応えるように、リディアを抱き返した。
「ありがとうございます、正輝さん。すごく、すっごく嬉しいです」
「そうか。リディアが嬉しいなら、俺も嬉しいよ」
俺たちはしばらくの間抱きしめあった。
その後抱擁を解いたら周囲の人たちの視線を集めまくっていることに気がつき、2人して顔を隠してそそくさと大通りを抜けていった。
あくまで俺の予想だが、リディアは欲しいものが見つからないと思う。というか、「欲しいもの」という概念がわからないのだと思う。
だから探さなくてはならない。彼氏として、リディアが喜ぶプレゼントを。
店内には若い女性客がたくさんいる。そういった人たちを観察すれば、自ずと女性にウケるものがわかるはずだ。
……なのだが、じろじろ見ていたら不審者を見る目を向けられてしまった。興奮はしない。視線の送り主がリディアだったら無条件に興奮していただろうけどな。
「難しいな」
雑貨ひとつとっても、あまりに精緻で理解できない。木彫りのクマとかなら馴染みがあるのだが、そういうわけにはいかないだろう。
数分後、リディアが俺の元へやってきた。予想通り、彼女の手には何も握られていない。
リディアは寂しそうに、でも無理して笑った。
「ごめんなさい。私には欲しいものはないです。正輝さんが欲しいものを買ってください」
「そう言うと思ったよ。店の前で待っていてくれるか?」
「えっ、は、はい」
俺はリディアを店の外に出した。
本当は、買うものには目星がついていた。これを買ってどんな反応をされるかはわからない。ただ、ポジティブな方向に進んでくれるのを祈るのみだ。
それをレジに持って行って、5200円を支払った。リディアの労働時間的にちょうどいい値段だろう。
店を出るとすぐ側の電柱でリディアは待っていた。
「……大好きなリディアにプレゼントがある」
「ちょ、ここ外ですよ?」
「こういう時はいいんだよ。格好つけさせてくれ」
「わ、わかりました」
リディアの顔は火を拭きそうになるほどに赤く染まっていた。しかし、俺は構わず続ける。
「前にも言ったが、リディアの優しさや可愛らしさ、そのすべてに恋をした。歪な出会いだったけど、この恋は本物だと思う。だから、リディアのために選んだプレゼントだ。受け取ってくれ」
「は、はい。ありがとうございます」
リディアはプレゼントの包装紙を丁寧にほどいた。
「これって……」
中から現れたのは黄色いハーバリウムだ。
ハーバリウムとは植物標本のことで、最近ではそれをオシャレに可愛く作られている。
リディアに渡したものもそうで、植物を黄色く色付けし、ボトルに詰めてあるのだ。見た目鮮やかで、ボトルの中は燦然と輝いているようだ。
しかし知っての通り、リディアは植物にトラウマを抱えている。彼女はハーバリウムを持ったまま若干俯いた。
「正輝さん、これは」
「もちろんわかっている。でもよく見てみてくれ」
「えっ?」
リディアは勇気を出したように、ハーバリウムをもう一度よく見つめてくれた。
「リディア、お前の大嫌いな植物は色付けされてオイルに浸され、挙げ句の果てにボトルに監禁されたんだぞ! どうだ、ちょっと強くなった気がしないか?」
リディアは言っていた。守れるものを守る力が欲しいと。
おそらくそれは、過去にあった何かしらの出来事から漏れた本心なのだろう。
だから俺はハーバリウムを選んだ。リディアがトラウマを克服し、強くなった気がするものを選んだのだ。他でもない、大好きなリディアのために。
俺の言葉を聞いたリディアは、
「ぷっ、あはははは」
笑った。
清楚な彼女が、大口を開けて、笑った。
数秒、いや十数秒と笑い続けた。俗にいうツボにハマるというやつだ。
「そ、そんなに面白いか?」
「はい。正輝さんがおバカすぎて、もう笑うしかありません」
「な、なんだよおバカって。これでもない頭をフル回転させてだな……」
つらつらと想いを語る俺に、リディアは抱きついてきた。
昨日の夜は後ろから。しかし今は、前から。
本格的な、恋人たちがする、抱擁だ。
俺もそれに応えるように、リディアを抱き返した。
「ありがとうございます、正輝さん。すごく、すっごく嬉しいです」
「そうか。リディアが嬉しいなら、俺も嬉しいよ」
俺たちはしばらくの間抱きしめあった。
その後抱擁を解いたら周囲の人たちの視線を集めまくっていることに気がつき、2人して顔を隠してそそくさと大通りを抜けていった。
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