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18話 リディアとデート
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まず入ったのは服屋だった。俺1人では絶対に入らないような服屋。
店の前にワゴンがあり、セールになった服がいくつも放り込まれていた。といっても秋口に半袖が売られているので、おそらく売れなかった夏服を処分するためのコーナーなのだろう。
それでも、リディアは興味ありげに覗いていた。
「見てください正輝さん」
「ん、どした?」
ワゴンから気に入った服を取り出したらしいリディアは、子どものように目を輝かせていた。
「この花柄のシャツ、可愛くないですか?」
「おー、可愛いとは思うけど」
「けど、なんですか?」
その先を言うのは憚られた。ただリディアの方は聞くまで逃しませんよという態度だったので、恐る恐る口を開く。
「植物、苦手なんじゃないの?」
「私が苦手なのは本物の植物だけです。これは所詮刺繍ですから」
「な、なるほど」
「本物の植物が怖いのは変わらないですからね、もし植物で悪戯なんかしたら本当に嫌いになりますからね!」
「そんなことしないよ。俺をなんだと思っているんだ」
「本当は、克服したいんですけどね」
リディアは俯いた。
幼い頃のトラウマはそう簡単に払拭できるものではないだろう。俺だって、子どもの頃に食べたピーマンが苦すぎて今も嫌いだ。
俺の例えはあまりにスケールが小さいが、ともかくトラウマは克服したいけど難しいのだ。
「まぁ無理するな。誰だって苦手はある」
「そう、ですかね」
「苦手なところを補うのが人間の美しさだと思う。俺とリディアはラブラブカップルだから、補っていこうぜ」
「前半は同意ですが、後半に関しては議論の余地があります」
ちぇ、いい話の流れに流されて同意を得ようとしたのに。
そんなことをしても意味がないのはわかっている。しっかりとリディアの口から、本心で俺のことを好きと告げてもらわねばならないのだ。
服屋を出て、さらに人混みがすごい大通りに出る。ここは人気なお店が立ち並んでおり、土日になれば人で溢れかえる道だった。
「す、すごい人です。押されるようで……」
「リディア、俺に寄れ」
「えっ?」
「リディアが他の人に触れるのはその、やきもち妬いちゃうから」
「……嫉妬深い男性は嫌われますよ」
「リディアに嫌われなければそれでいいさ」
「も、もう。バカですね」
そう言いつつも、リディアは俺に寄ってきた。
ふにゅ。
肘に、何か柔らかいものが当たっている。
リディアは俺の腕に彼女の腕を絡ませた。必然的に密着状態になる。だから当たったのか。
「……心音が大きいです。どうかしましたか?」
「天国だ」
「そ、それは良かったです」
肘の感触も天国だし、リディアの頭が顔の近くにあるので、彼女の匂いが強く鼻をつついた。
バニラのような香りだ。心優しいリディアにぴったりだと思う。
「なにかいかがわしいことを考えてはいませんか?」
「いえまったく」
「本当ですか?」
「本当だ」
「なぜ目を逸らすのですか!」
やはり俺も考えが顔に出やすいらしい。リディアの目が見られなくて、覗き込まれたら視線を泳がせてしまった。
なんとかこの場は誤魔化して先に進んだ。
途中、通行人と肩がぶつかってリディアとの密着が強まった。肘に伝わる柔らかいものを、より強く押してしまう。
「んっ」
「えっ?」
「な、なんでもありません!」
こればっかりはマジで追及しない方がいいやつだ。俺の第六感がそう告げている。
数分歩いて、ようやく目的の店に到着した。
その店は瀟洒な外観を誇るインテリア・雑貨ショップだ。ここに店を構えていたのは知っていたが、実際に入ったことはない。
だがこの店ならリディアへのプレゼントが見つかる。根拠はないが、そんな気がするのだ。
「さぁこの店だ」
「あ、はい」
店に入るので、この密着状態ともしばしのお別れだ。寂しい。もっとくっついていたい。
ふと、腕を気にした様子でさすっていたリディアが目についた。
「リディア、どうかしたか?」
「えっ!? な、なんでもないです」
「そ、そうか。それならいいんだけど」
俺の力が強すぎて痛めたとかだったら嫌だからな。リディアは腕も繊細で、すぐ折れてしまいそうなほどに細かったから心配だ。
俺たちは少しぎこちない距離でインテリア・雑貨ショップに入店した。初めて入る店に、俺も少し緊張気味だ。
まず、店内の匂いに驚かされた。
木材の匂いだろうか。どことなく上品な甘い匂いが鼻をつつく。もうこれだけでいい店だと理解できた。
何気なく置かれている雑貨も、どこか芸術性を感じるものだった。そういうものに無頓着かつ疎い俺でも良さが理解できるのだから、レベルが高いのだろう。
「リディア、欲しいものがあったら言ってくれよ」
「は、はい。でもお金は……」
「そもそもが今日のリディアの給料だ。いっさい気にすることはない」
「わ、わかりました!」
ようやくリディアは自分の欲しいものと向き合い始めた。
店の前にワゴンがあり、セールになった服がいくつも放り込まれていた。といっても秋口に半袖が売られているので、おそらく売れなかった夏服を処分するためのコーナーなのだろう。
それでも、リディアは興味ありげに覗いていた。
「見てください正輝さん」
「ん、どした?」
ワゴンから気に入った服を取り出したらしいリディアは、子どものように目を輝かせていた。
「この花柄のシャツ、可愛くないですか?」
「おー、可愛いとは思うけど」
「けど、なんですか?」
その先を言うのは憚られた。ただリディアの方は聞くまで逃しませんよという態度だったので、恐る恐る口を開く。
「植物、苦手なんじゃないの?」
「私が苦手なのは本物の植物だけです。これは所詮刺繍ですから」
「な、なるほど」
「本物の植物が怖いのは変わらないですからね、もし植物で悪戯なんかしたら本当に嫌いになりますからね!」
「そんなことしないよ。俺をなんだと思っているんだ」
「本当は、克服したいんですけどね」
リディアは俯いた。
幼い頃のトラウマはそう簡単に払拭できるものではないだろう。俺だって、子どもの頃に食べたピーマンが苦すぎて今も嫌いだ。
俺の例えはあまりにスケールが小さいが、ともかくトラウマは克服したいけど難しいのだ。
「まぁ無理するな。誰だって苦手はある」
「そう、ですかね」
「苦手なところを補うのが人間の美しさだと思う。俺とリディアはラブラブカップルだから、補っていこうぜ」
「前半は同意ですが、後半に関しては議論の余地があります」
ちぇ、いい話の流れに流されて同意を得ようとしたのに。
そんなことをしても意味がないのはわかっている。しっかりとリディアの口から、本心で俺のことを好きと告げてもらわねばならないのだ。
服屋を出て、さらに人混みがすごい大通りに出る。ここは人気なお店が立ち並んでおり、土日になれば人で溢れかえる道だった。
「す、すごい人です。押されるようで……」
「リディア、俺に寄れ」
「えっ?」
「リディアが他の人に触れるのはその、やきもち妬いちゃうから」
「……嫉妬深い男性は嫌われますよ」
「リディアに嫌われなければそれでいいさ」
「も、もう。バカですね」
そう言いつつも、リディアは俺に寄ってきた。
ふにゅ。
肘に、何か柔らかいものが当たっている。
リディアは俺の腕に彼女の腕を絡ませた。必然的に密着状態になる。だから当たったのか。
「……心音が大きいです。どうかしましたか?」
「天国だ」
「そ、それは良かったです」
肘の感触も天国だし、リディアの頭が顔の近くにあるので、彼女の匂いが強く鼻をつついた。
バニラのような香りだ。心優しいリディアにぴったりだと思う。
「なにかいかがわしいことを考えてはいませんか?」
「いえまったく」
「本当ですか?」
「本当だ」
「なぜ目を逸らすのですか!」
やはり俺も考えが顔に出やすいらしい。リディアの目が見られなくて、覗き込まれたら視線を泳がせてしまった。
なんとかこの場は誤魔化して先に進んだ。
途中、通行人と肩がぶつかってリディアとの密着が強まった。肘に伝わる柔らかいものを、より強く押してしまう。
「んっ」
「えっ?」
「な、なんでもありません!」
こればっかりはマジで追及しない方がいいやつだ。俺の第六感がそう告げている。
数分歩いて、ようやく目的の店に到着した。
その店は瀟洒な外観を誇るインテリア・雑貨ショップだ。ここに店を構えていたのは知っていたが、実際に入ったことはない。
だがこの店ならリディアへのプレゼントが見つかる。根拠はないが、そんな気がするのだ。
「さぁこの店だ」
「あ、はい」
店に入るので、この密着状態ともしばしのお別れだ。寂しい。もっとくっついていたい。
ふと、腕を気にした様子でさすっていたリディアが目についた。
「リディア、どうかしたか?」
「えっ!? な、なんでもないです」
「そ、そうか。それならいいんだけど」
俺の力が強すぎて痛めたとかだったら嫌だからな。リディアは腕も繊細で、すぐ折れてしまいそうなほどに細かったから心配だ。
俺たちは少しぎこちない距離でインテリア・雑貨ショップに入店した。初めて入る店に、俺も少し緊張気味だ。
まず、店内の匂いに驚かされた。
木材の匂いだろうか。どことなく上品な甘い匂いが鼻をつつく。もうこれだけでいい店だと理解できた。
何気なく置かれている雑貨も、どこか芸術性を感じるものだった。そういうものに無頓着かつ疎い俺でも良さが理解できるのだから、レベルが高いのだろう。
「リディア、欲しいものがあったら言ってくれよ」
「は、はい。でもお金は……」
「そもそもが今日のリディアの給料だ。いっさい気にすることはない」
「わ、わかりました!」
ようやくリディアは自分の欲しいものと向き合い始めた。
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