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17話 手を繋いで
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大須商店街。
ここはこの辺りでもっとも買い物に適している商店街だ。
カードショップにゲームセンター、アニメショップ、服屋にお土産屋、果てはブラジル料理店まである。つまり、なんでも買えるというわけだ。
アニメショップの隣が献血施設で、その隣が服屋という並びがカオスなこの街に、俺とリディアはやって来た。リディアへのプレゼントを買うために。
リディアはやっとその可愛いお顔を見せてくれた。最近把握したが、リディアは顔を隠してから元に戻るまで約3分だ。たぶん、隠しているのが気まずくなって出てくるのだと思う。可愛い。
「リディアは何か欲しいものあるか?」
「欲しいものですか?」
考えたこともないという表情だ。
待てども待てどもリディアの口から欲しいものは出てこなかった。時折天を仰いで考えている仕草は萌えだ。
そういえば、聖杯に何を願うと質問した時もこんな感じだったな。
「まぁぶらぶら歩きながら考えてくれ」
「は、はい」
リディアは細い返事で首を縦に振った。
土曜夕方の大須商店街は多くの人で賑わっている。お祭りみたいな音は常時するし、寺もあるから仏教的な音も聞こえる。本当に、カオスな場所だ。
人混みに慣れていないのだろう、リディアは物音のする方へ気を取られ、首をぶんぶんと振っていた。
「悪い、居心地悪かったか?」
「い、いえ。これくらい平気です」
「でもここまだメインストリートじゃないからなぁ」
「えっ」
「ここを曲がればメインストリートだぞ」
ぞろぞろと、たくさんの人たちが入り乱れている。
リディアは意気消沈したように、口を半開きにしていた。
「こ、こんなに人が多いところ初めてです」
「異世界って人少ないのか?」
「広い土地に人口60万人くらいですから、ここまで集まることありませんよ」
「それじゃあ驚くのも無理ないか。だってこの都市だけで人口230万人くらいいるからな」
「ひえっ……」
リディアはまた意気消沈した。
しかし人混みに負けたくないようで、リディアは強い瞳を見せた。
「い、行きましょう」
「行けるか? なら……」
「で、でも待ってください!」
リディアは大声で俺を呼び止めた。振り返ると、リディアはなぜかすでに顔を隠していた。
「え、何に恥ずかしがっているの?」
「うるさいですよノンデリカシー彼氏さん」
「なんか罵倒された」
理不尽だ。
心の中で嘆く俺に、リディアは手を差し伸べた。
片方の手は、まだ顔を隠したままだ。
「手を、繋いでもらってもいいですか? はぐれたくないので」
「えっ」
あまりに意外なお願いに面食らって、素っ頓狂な声を出してしまった。
「い、嫌ですよね。ごめんなさい変なことを言って」
「いやいやいや、全然嫌じゃないむしろウェルカムなんだけど、逆にいいのか?」
「わ、私からお願いしているじゃないですか!」
リディアは恥ずかしさで死にそうだと訴えてきた。
ここは、俺が男気を見せる時だ。
俺はリディアの手を握った。しかしもちろん女の子と手など握ったことのない俺は、なぜか向かい合わせで手を握ってしまう。
なんともシュールな画だし、これでは歩けない。
「……ごめん、間違えた」
「ぷっ、あはははは」
リディアは顔を隠さずに大笑いした。
「笑うなよ恥ずかしい」
「いいえ、なんか安心しました」
「まぁそれなら良かったけど」
今においてはリディアが安心することが最優先だ。たとえ俺が滑稽な真似をして笑われたとしても、報われたと前向きに思うべきだろう。
「じゃあ改めて、お願いします」
「お、おう」
もう一度差し出された手を握る。今度は一緒に歩けるように、お互い正面を向いて手を繋いだ。
リディアの手は小さくて、細くて、握れば壊れてしまうのではないかと思うほど繊細だった。植物園でも同じ感想を抱いたが、今日もそれは変わらない。
「な、なんだか照れますね」
「はは、いつも照れているじゃないか」
「意地悪な彼氏は嫌いです」
「ごめんって」
俺はいま、自分を守るために軽口を言った。
そうじゃないと、この恥ずかしさに押しつぶされそうだから。リディアと繋がる手に伝わる彼女の体温が、妙に俺の心をくすぐるから。
「さ、歩くか」
「はい」
俺たちはようやく一歩を踏み出した。
ここはこの辺りでもっとも買い物に適している商店街だ。
カードショップにゲームセンター、アニメショップ、服屋にお土産屋、果てはブラジル料理店まである。つまり、なんでも買えるというわけだ。
アニメショップの隣が献血施設で、その隣が服屋という並びがカオスなこの街に、俺とリディアはやって来た。リディアへのプレゼントを買うために。
リディアはやっとその可愛いお顔を見せてくれた。最近把握したが、リディアは顔を隠してから元に戻るまで約3分だ。たぶん、隠しているのが気まずくなって出てくるのだと思う。可愛い。
「リディアは何か欲しいものあるか?」
「欲しいものですか?」
考えたこともないという表情だ。
待てども待てどもリディアの口から欲しいものは出てこなかった。時折天を仰いで考えている仕草は萌えだ。
そういえば、聖杯に何を願うと質問した時もこんな感じだったな。
「まぁぶらぶら歩きながら考えてくれ」
「は、はい」
リディアは細い返事で首を縦に振った。
土曜夕方の大須商店街は多くの人で賑わっている。お祭りみたいな音は常時するし、寺もあるから仏教的な音も聞こえる。本当に、カオスな場所だ。
人混みに慣れていないのだろう、リディアは物音のする方へ気を取られ、首をぶんぶんと振っていた。
「悪い、居心地悪かったか?」
「い、いえ。これくらい平気です」
「でもここまだメインストリートじゃないからなぁ」
「えっ」
「ここを曲がればメインストリートだぞ」
ぞろぞろと、たくさんの人たちが入り乱れている。
リディアは意気消沈したように、口を半開きにしていた。
「こ、こんなに人が多いところ初めてです」
「異世界って人少ないのか?」
「広い土地に人口60万人くらいですから、ここまで集まることありませんよ」
「それじゃあ驚くのも無理ないか。だってこの都市だけで人口230万人くらいいるからな」
「ひえっ……」
リディアはまた意気消沈した。
しかし人混みに負けたくないようで、リディアは強い瞳を見せた。
「い、行きましょう」
「行けるか? なら……」
「で、でも待ってください!」
リディアは大声で俺を呼び止めた。振り返ると、リディアはなぜかすでに顔を隠していた。
「え、何に恥ずかしがっているの?」
「うるさいですよノンデリカシー彼氏さん」
「なんか罵倒された」
理不尽だ。
心の中で嘆く俺に、リディアは手を差し伸べた。
片方の手は、まだ顔を隠したままだ。
「手を、繋いでもらってもいいですか? はぐれたくないので」
「えっ」
あまりに意外なお願いに面食らって、素っ頓狂な声を出してしまった。
「い、嫌ですよね。ごめんなさい変なことを言って」
「いやいやいや、全然嫌じゃないむしろウェルカムなんだけど、逆にいいのか?」
「わ、私からお願いしているじゃないですか!」
リディアは恥ずかしさで死にそうだと訴えてきた。
ここは、俺が男気を見せる時だ。
俺はリディアの手を握った。しかしもちろん女の子と手など握ったことのない俺は、なぜか向かい合わせで手を握ってしまう。
なんともシュールな画だし、これでは歩けない。
「……ごめん、間違えた」
「ぷっ、あはははは」
リディアは顔を隠さずに大笑いした。
「笑うなよ恥ずかしい」
「いいえ、なんか安心しました」
「まぁそれなら良かったけど」
今においてはリディアが安心することが最優先だ。たとえ俺が滑稽な真似をして笑われたとしても、報われたと前向きに思うべきだろう。
「じゃあ改めて、お願いします」
「お、おう」
もう一度差し出された手を握る。今度は一緒に歩けるように、お互い正面を向いて手を繋いだ。
リディアの手は小さくて、細くて、握れば壊れてしまうのではないかと思うほど繊細だった。植物園でも同じ感想を抱いたが、今日もそれは変わらない。
「な、なんだか照れますね」
「はは、いつも照れているじゃないか」
「意地悪な彼氏は嫌いです」
「ごめんって」
俺はいま、自分を守るために軽口を言った。
そうじゃないと、この恥ずかしさに押しつぶされそうだから。リディアと繋がる手に伝わる彼女の体温が、妙に俺の心をくすぐるから。
「さ、歩くか」
「はい」
俺たちはようやく一歩を踏み出した。
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