異世界の聖杯を拾ったら後輩系彼女ができた件

三色ライト

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21話 温かい夕飯

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「手を合わせてください」

「はい、合わせました」

「いただきます」
「いただきます」

 メゾングレイル201号室に帰ってきた俺たちは、すぐに夕食を迎えた。理由は単純、お互いの腹の虫が鳴ったからだ。

 リディアが買ってきてくれた夜ご飯は、おにぎり専門店の鮭おにぎりと、手羽先専門店の特製手羽先だった。

 渡した2000円をきっちりと使われたし、その結果がおにぎりとは。労働後に食べるものとしては少しガッツが足りない気がする。

 とはいえリディアの選んだものにケチはつけたくない。ちょっとうーんとは思いつつも、それを口や態度には出さなかった。

「俺おにぎり専門店は初めてだな」

「たくさんの人が並んでいましたよ。だから間違いないって思いました」

「意外とミーハー気質なんだな」

「し、失礼な彼氏ですね!」

 かぶりついたおにぎりは、確かにコンビニのおにぎりとは格が違った。

 ふわふわの鮭、パリパリの海苔、さっぱりとした米。レベルが高い。なるほど流行るわけだと実感した。

 俺がおにぎりに感動している中、リディアは「ところで」と切り出した。

「正輝さんのリュックサック、あんなに膨れていましたっけ」

「えっ、いや気のせいだろ」

「……怪しいですね。そもそも本当にアニメショップに行っていたのですか?」

「行っていたよ。何を疑っているんだ」

 リディアは明らかに疑いの目を俺に向けていた。その上、頬を少し赤く染めている。

「も、もしかしていかがわしいものを買ったんじゃないでしょうね」

「そんなわけあるか。普通にグッズだよ」

「アダルトグッズ!?」

「どこで仕入れたそんな知識!」

「ラノベです」

「教育に悪かったか」

 アダルトグッズが出てくるライトノベルなど買っていただろうか。

 たぶん買っていたのだろうが、そこまで覚えてはいない。逆にそこが印象に残っているリディアは、なかなかのむっつりすけべだということが証明された。

「……なんですかその顔は」

「いやなんでも」

 そんなことを本人に告げるのは酷だろう。絶対に顔を隠す。その上何かしらの攻撃が俺に来る。賭けてもいい。

 おにぎりと手羽先を平らげて、俺たちの腹は満たされた。

 まさか夕食がおにぎりになるとは思わなかった。ただリディアに任せていなかったら専門店のおにぎりなどこれからの人生で食べることはなかっただろうから、人生経験的にそこは感謝だ。

「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」

 相変わらず小学校の給食スタイルだ。だが、リディアにはすっごく似合っている。

 皿を洗っていたらリディアにシャツをつままれた。何か言いにくいけど言いたいことがある時だな。もう理解してきたぞ。

「なんだ、どうかしたか?」

「いえ。このお礼を改めてしたくて」

「あー、ハーバリウムの」

 リディアは燦然と輝く黄色のハーバリウムを抱えていた。

「リディアの稼いだお金だ。お礼なんていらないぞ」

「いいえ。正輝さんのおかげで植物を少し克服できた気がします。だって私の嫌いな植物は、ボトルに詰められていますから」

 そう言って、リディアは悪戯っ子のように笑った。

 そんなリディアを見ていたら、自然と笑みが溢れた。

「いい顔するようになったじゃん」

「……それって、私の顔に不満があったということですか?」

「断じてそんなことはない。リディアの顔は出会った瞬間から大好き」

「む、あ、ちょ……もう!」

 リディアはおにぎり専門店の半透明パックで顔を隠した。なかなかレアな隠れ方だ。

 3分後、再び顔を見せてくれたリディアは凛々しい顔をしていた。何か一つの覚悟を決めたような、そんな顔を。

「正輝さん、お願いがあります」

「ん、どうした?」

「明日もその、お仕事させてくださいませんか?」

 リディアのお願いに、俺は舌を巻いた。

 彼女の瞳はまっすぐ俺に向けられている。冗談でも、衝動的な発言でもないようだ。

「リディアの願いなら叶えてやりたいけど、決定権は俺にはない。でも菜々緒先輩伝いに店長に相談してみるよ」

「ありがとうございます!」

 リディアは礼儀正しく頭を下げた。

 俺はスマホで菜々緒先輩に電話をかける。先輩ももうとっくに退勤しているはずだ。

『しもしも?』

「何歳でしたっけ」

『21』

「うーん」

 相変わらずツッコミどころが多い人だ。いつものように皮肉入りツッコミを送りたいが、今日は俺がお願いする立場なのでやめておく。

「菜々緒先輩、店長っていま近くにいますか?」

『いないよー。たぶん飲みに行ってる』

「そ、そうですか。参ったな」

『アタシでいいなら聞くけど?』

「あー、リディアが明日も和泉屋書店で働きたいらしくて」

『いいじゃんオッケー。じゃあ明日ねー』

「ちょっと待って話が早すぎる」

 即断即決。結構なことだが、いくら店長の娘とはいえバイトの菜々緒先輩がやっていいわけがない。

 電話を切ろうとした菜々緒先輩に食らいつき、なんとか通話を継続できた。

『なんだよー、少年の願い通りじゃんかよー』

「それはそうなんですけど、そう簡単に判断していいものなんですか?」

 電話口に、ふっふっふっと不穏な笑い声が聞こえてきた。

『アタシを誰だと思っている?』

「クレイジーでやばい昭和のおっさんが転生した先輩」

『電話切るぞー?』

「すんませんでした」

 つい本音が。

『あのねぇ、今日リディアちゃんが働いた時点で明日も働く想定くらいしているっての』

「えっ、なんでですか」

『……少年は女心が分かっていないねぇ』

 何が? とは聞けなかった。たぶん、もっと罵倒されるからだ。

「本当に明日も働いていいんですか?」

『いいよいいよ。揃って来なさい』

「ありがとうございます、失礼します」

 許可、降りちゃった。

 まさかOKが貰えるとは思ってもいなかったので、どこかふわふわとした気分だ。

「正輝さん、ひょっとして」

「あぁ、明日も働いていいってさ」

「本当ですか! えへへ……」

 リディアは小動物のように笑った。

 ……女心ね。俺はそういうのを汲み取るのは苦手だと思うから、直球で聞いてみるか。

「なんで明日も働きたいんだ?」

「うえっ!? そ、それは秘密です」

「えー」

 じゃあお手上げだ。女心は汲み取れないし、答えも得られない。詰みというやつだ。

 何度もリディアに意図を尋ねたが、結局答えは返ってこなかった。
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