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父と兄
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「よし!覚悟はできたわ!」
べチッと気合いを入れるように自分の頬を叩く。家に帰ってお父様とお兄様に、婚約破棄のことを告げるのが嫌でウジウジしていたが、目の前にはお父様がいる書斎の扉。木製の重厚な扉は、今日ばかりは地獄の門のように見える。
「出来損ないの娘でごめんなさい…」
誰にも聞こえないように小さな声で謝ってから扉をコンコンと叩いた。しばらくすると「誰だ?」と仕事モードの父の低い声が返ってくる。「ビビアンでございます。」と返すと「入りなさい」と先程より柔らかい声が聞こえてきた。
扉を開くと中には書類に向き合う父と、父の姿から仕事を習う兄。
「どうしたんだ?ビビ」
優しい笑顔をこちらに向ける父に目頭が熱くなる。
「お仕事中に申し訳ありません。先程殿下に会いに行って参りました。そこで…」
そこから先の言葉がうまく出てこない。「婚約破棄を申し込まれました。」とたったそれだけの言葉なのに。先程覚悟を決めた筈なのに。
「どうしたビビ?まさか殿下に何かされたのか?兄に言ってみろ。」
父に似た、ペリドットの瞳を私に向け心配そうな表情をしている兄からは、何やら黒いオーラを感じる気がする。兄はだいぶ過保護なので、私に害をなすものをすぐに排除したがる。そこには、身分なんてものは関係ないのだろう。2週目3週目の人生で、兄が殿下を亡き者にすると城に向かった時は全力で引き留めた。
「…私、先程殿下に婚約破棄を申し込まれました。」
目の前の2人が同じ色の瞳を見開く。
「…申し訳ござ」
「あのクソガキ許さん。」
私の謝罪は、いつも丁寧な言葉遣いである兄らしくない乱暴な言葉にかき消される。
その後も何やら怖い顔でブツブツと呟く兄に私は苦笑いを溢すしかなくなる。
「理由はなんだ?」
手に顎を置いて眉間にしわを寄せる父親はこれまで見た事がないくらいに静かに怒っているのが分かる。
「…私の隣は…息が詰まる…と」
バキャッと不穏な音を立てた父の万年筆は見なかった事にしよう。兄の顔は連続殺人鬼のような凶悪な表情になっており、いつもの麗人のような儚い美青年の姿はどこにもなかった。
「…はぁ…ビビ辛かっただろう。おいで」
そう言って両腕を大きく開く父に、枯れたはずの涙が薄く瞳に膜を張るのを感じる。目の前がぼやけ「…うぅ~…」と情けない犬のような声を溢した私に兄が駆け寄り、見た目よりも逞しい腕に抱かれる。父もこちらに歩み寄り、私の頭を優しくポンポンと撫でてくれる。
その後も、どこにそんな涙が残っていたんだと驚く位、私は泣いた。泣き止んだ時には、ガルフ同様兄のシャツはビチョビチョになっていた。
少し落ち着いてから「今日はゆっくり休みなさい。」と父に言われ、書斎を後にした。
べチッと気合いを入れるように自分の頬を叩く。家に帰ってお父様とお兄様に、婚約破棄のことを告げるのが嫌でウジウジしていたが、目の前にはお父様がいる書斎の扉。木製の重厚な扉は、今日ばかりは地獄の門のように見える。
「出来損ないの娘でごめんなさい…」
誰にも聞こえないように小さな声で謝ってから扉をコンコンと叩いた。しばらくすると「誰だ?」と仕事モードの父の低い声が返ってくる。「ビビアンでございます。」と返すと「入りなさい」と先程より柔らかい声が聞こえてきた。
扉を開くと中には書類に向き合う父と、父の姿から仕事を習う兄。
「どうしたんだ?ビビ」
優しい笑顔をこちらに向ける父に目頭が熱くなる。
「お仕事中に申し訳ありません。先程殿下に会いに行って参りました。そこで…」
そこから先の言葉がうまく出てこない。「婚約破棄を申し込まれました。」とたったそれだけの言葉なのに。先程覚悟を決めた筈なのに。
「どうしたビビ?まさか殿下に何かされたのか?兄に言ってみろ。」
父に似た、ペリドットの瞳を私に向け心配そうな表情をしている兄からは、何やら黒いオーラを感じる気がする。兄はだいぶ過保護なので、私に害をなすものをすぐに排除したがる。そこには、身分なんてものは関係ないのだろう。2週目3週目の人生で、兄が殿下を亡き者にすると城に向かった時は全力で引き留めた。
「…私、先程殿下に婚約破棄を申し込まれました。」
目の前の2人が同じ色の瞳を見開く。
「…申し訳ござ」
「あのクソガキ許さん。」
私の謝罪は、いつも丁寧な言葉遣いである兄らしくない乱暴な言葉にかき消される。
その後も何やら怖い顔でブツブツと呟く兄に私は苦笑いを溢すしかなくなる。
「理由はなんだ?」
手に顎を置いて眉間にしわを寄せる父親はこれまで見た事がないくらいに静かに怒っているのが分かる。
「…私の隣は…息が詰まる…と」
バキャッと不穏な音を立てた父の万年筆は見なかった事にしよう。兄の顔は連続殺人鬼のような凶悪な表情になっており、いつもの麗人のような儚い美青年の姿はどこにもなかった。
「…はぁ…ビビ辛かっただろう。おいで」
そう言って両腕を大きく開く父に、枯れたはずの涙が薄く瞳に膜を張るのを感じる。目の前がぼやけ「…うぅ~…」と情けない犬のような声を溢した私に兄が駆け寄り、見た目よりも逞しい腕に抱かれる。父もこちらに歩み寄り、私の頭を優しくポンポンと撫でてくれる。
その後も、どこにそんな涙が残っていたんだと驚く位、私は泣いた。泣き止んだ時には、ガルフ同様兄のシャツはビチョビチョになっていた。
少し落ち着いてから「今日はゆっくり休みなさい。」と父に言われ、書斎を後にした。
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