悪役令嬢はもう疲れた

てる

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疑問

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あっという間に家を出る日になった。
この2日間、とても大変だった。2人にバレないように市場に出て必要なものを買い、それをすぐに持って出られるように庭の隅の草木の中に隠す。脱出手段も何度もシュミレーションした。

「今晩決行!夜の森は危ないけど多分大丈夫!」

「なーにが多分大丈夫だ。1人で行かせるわけないだろ馬鹿。」

「うわっ!!…びっくりした…。」

流石、天才魔導師。ガルフはいつも神出鬼没だ。王宮内でも公爵家の敷地内でも、急に現れて急に消える。ガルフは私にいい加減慣れろと言うが、それは無茶な話である。

「俺もついてく。夜の森をお前1人で歩くのは危険だ。」

「…ありがとう。」

できれば1人で逃亡計画を遂行したかったのだが、魔獣が活発化する上に迷いやすくなる夜の森は、経験値が少ない私には確かに危険だろう。私は逃げてしまいたいだけで、死にたいわけではない。それに、ガルフには暮らす場所も教える約束だったし、私よりも格段に強いので頼るなら彼以外にいなかった。

「全く…お前は全部1人でやろうとする。少しは人を頼れよな。」

「珍しく優しいね。変なガルフ。」

いつもは悪態ばかりついてくるガルフの優しさにむず痒くなる。「馬鹿。俺はいつも優しいだろ。」と言って私にデコピンをくらわしてくるガルフに「そうだっけ?」と笑う。

口ではこんな風に言っているが、彼が人一倍優しいのは私が誰よりも知っている。事実、馬車で話をしただけの私の我儘に、こうして付き合ってくれている。それだけでなく、話していくうちに、彼の不器用な優しさには何度も助けられてきた。

「じゃあ…今晩12時頃に私の家の門の前で待ち合わせでいい?」

「分かった。」

そう言って何を考えているか分からないガルフの横顔をジッと見つめる。馬車で初めて会った女に、どうしてここまでしてくれるのか。ずっと気になっていた質問を聞くなら今だろうかと思いシーンとした空間で口を開く。

「ガルフはさ…どうして私にここまでしてくれるの。私が過去に戻る度、ガルフも巻き込まれて過去に戻ってるでしょ?」

そうだ。ガルフは私と同じ状況。記憶を持ちながら私と共に人生を何周もしているのだ。いくら私に同情心が芽生えたからと言って、ここまでする理由にはならない。私がガルフなら精々1周付き合って終わりだ。こんなに何回も何回も、他人のいざこざに巻き込まれるなんてごめんだ。

「………別にただの暇つぶし。」

少しの沈黙の後にガルフはボソッと呟くように言う。何回も何回も時間を遡る事がただの暇つぶしなんて天才魔導師の考えている事はやはり分からない。私の人生を暇つぶしの材料にするなと少しは思ったものの、ここまで助けてもらっている私がガルフにそんな事を言う資格はない。

「ふーん…じゃあ、ガルフが暇で助かった!じゃないと私、家族と縁を切られて国外追放!今よりもっと最悪な人生を送るとこだったわ!」

わざと少し明るめに言うと、ガルフはまたフッと微笑んで「ばーか」と言った。

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