悪役令嬢はもう疲れた

てる

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気になるーガルフsideー

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そこから王宮で彼女を見かける事が増えた。(実際は、彼女が王宮に訪れる頻度が高くなったのではなく、ガルフが無意識に彼女を目で追うようになっていただけなのだが)
彼女はラスカリア公爵の娘のようだが、公爵令嬢あるまじき行動の数々は俺を退屈させなかった。

ある時は巣から落ちた小鳥を助ける為にドレスのままで木に登り降りられなくなって泣いていたり。またある時は、庭園でお茶会をしている夫人達の目を盗み、お茶菓子などをつまみ食いしていた。

王宮嫌いだったガルフは、これまで嫌々師匠の仕事についてきていたが、あの一件以来、彼女を見る事を楽しみに王宮に来ていた。






そんなある日のことだった。ガルフはいつも明るい彼女の様子がおかしい事に気がついた。いつもキラキラした笑顔の彼女は見る影もなかった。虚な目をした彼女はどこか危うい雰囲気を纏っている。
楽しそうに庭園を走り回っていた姿はなくなり、とぼとぼと王宮内を歩く姿を多く見る様になった。風の噂ではこの国の王子との婚約が決まったらしい。それと同時期にガルフの師匠が隣国に出向く事が決まり、ガルフは婚約という言葉に胸をざわつかせながら師匠と共に隣国へと渡った。










ビビアンと王子が婚約破棄を発表したのは、ガルフがこの国に帰って来るよりほんの少し前の事だった。戻ってきた瞬間にそれを知ったガルフはすごく驚いたが、ガルフはこのニュースと同じくらいビビに対する人々の評判に驚いた。

「あの方が王妃にならなくて本当に良かった。私、以前のお茶会でご令嬢を突き飛ばしたビビアン様を見ましたわ。」

「態度のわりにはお勉強はあまりできないのよねぇ。威張ってるだけで王妃が務まるとでも思ってたのかしら。」

「気に入らない事があればすぐに癇癪を起こして、彼女のお家の人も困ってただとか。」

「殿下も婚約破棄をして正解でしたわね。」

過去の彼女では考えられない噂の数々が、ご令嬢達の扇で隠した口から語られる。

「決め手は階段事件でしょう?他所のご令嬢を階段から突き飛ばしたんですって。」

「怖いわ…罪人じゃない…国外追放も納得ね…」

「そうね!今日が国外追放の日じゃなかったかしら?これで安心よねぇ!」

「ねー」と言う彼女達の姿を見て、ガルフは拳を握りしめた。そんなことをあの彼女がするわけがない。彼女をよく知らない口で勝手な事を言うな。

あの柔らかく微笑む彼女が。
初めて自分に光をくれた彼女が。
痛いくらい真っ直ぐな瞳の彼女が。

「国外追放だと…?嘘だ…。」

ガルフは国外追放と言う言葉を自分の中で何度も反芻する。あり得ない。きっと誰かにはめられたに違いない。そう思い、急いで彼女の国外追放中の馬車を特定しテレポートした。馬車の中では正気のない彼女が自分の罰をただただ静かに待っていた。気配を感じたのか下を見ていた彼女の視線が徐々に上げられていく。

「…っ誰ですの…?」

俺を視界に捉えると、先ほどまで無表情だった顔は少し歪められる。

「…ただの魔導師だ。お前はビビアン・ラスカリアだな…。」

「……いいえ、今はただのビビアンですわ。」

僅かに寂しそうな顔をすると、また力のない顔で俺を見る。

「私の純潔を奪いにでも来たんですの?好き者ですわね私なんて何の価値もない…抱く価値もな」

「うるさいっ!!!…それ以上言ったら怒るぞ…。」

(頼む、そんな事を言わないでくれ…お前からそんな言葉聞きたくない…こんなになるまで何があったんだよ…。)

「っ…じゃあ、何のためにここに来たのですか…」

小さく震えるビビのその質問にガルフは答える事なく、ただ馬車の外の景色を眺めた。

(こういうのって…どう切り出すのが正解なんだ…?)

ガルフの心情を分かるわけもないビビは、ガルフの態度に困惑しながらも、それ以上何も言わず、ガルフのように窓の外を眺めることにした。


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