自己評価底辺令嬢は侯爵に愛されている

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　グリファス家は少々複雑な家庭環境にある。
　元々、グリファス家の血を受けているのはシンシアとその実兄のエドワルドで3人目になる次女ミーナはその血を受けていない。だが、連れ子というわけではない。
　それもそのはずで、シンシアとエドワルドの母親がグリファス家の血を受けているだ。元々体の弱かったシンシアたちの母親サラティナは床に伏せることが多い。その為父親がシンシアのためと称して連れてきたのが継母になるエリアーデだ。
　エリアーデはもともと父親であるワルディスの愛人だ。それを隠すためであり、一緒に暮らすために連れてきたのだ。
　こうは言ってるがサラティナは存命している。ただ、領地の方に籠っているだけである。王都の方で暮らすには体が芳しくないからだ。
　なので、本来エリアーデには何の権利もないのだが、ワルディスが擁護しているのでかなり大きな顔をしている。
　もちろん、古くから使えてくれている者たちはこれをよく思っていないし、言うことも最低限しか聞かないがこの者たちはサラティナの方に行かされており、現在の王都での屋敷にはほとんどいないのだ。王都での屋敷にいる使用人たちは新しくこちらで雇っている者が多いのでエリアーデを女当主だと認識している。
　そして、エリアーデは自分の子供であるミーナが可愛く、シンシアには冷たい。
　ワルディスもシンシアではなく、ミーナを可愛がっている。
　この事からシンシアはまともな待遇ではないことが分かる。本来の当主の娘であるのに。使用人たちもワルディスやエリアーデの命令で最低限のことしかしないのだ。
　シンシアにとって唯一の救いは実兄のエドワルドとの仲は良好であることだ。いや、シンシアの状況を知っている分エドワルドはシンシアに過保護だし、実父やエリアーデにミーナを許せない。
　エドワルドは王都にいるが王宮勤めの騎士であるため寄宿舎で過ごすことになっている。そのためあまりシンシアのもとにいてやれなく悔しい思いもしている。
　そんなことからシンシアは自分に自信が持てないし、自分は底辺以下の存在だと思っている。
　なら、実母であるサラティナのもとに帰ればいいと思うがそれも禁止され、王都の屋敷から出さしてもらえないのだ。シンシアを領地に帰さないのはシンシアに対しての現状を隠すためであり、シンシアに自信を付けさせないためだ。

　＊＊＊

　長くなったがそんな家庭環境であるグリファス家に届いた手紙。それは婚約の申し込みであり、その前に一度会いたいという内容の手紙だった。
　それもこの国四大侯爵家に合っても随一と言われるギルディール家しかも若くして当主になった現当主アルフォンスの相手としてだ。
　しかし、それがミーナに届いたものならこの三人もここまで荒れなかっただろう。
　そう、アルフォンスの相手として白羽の矢が立ったのは長女であるシンシアだったのだ。
　シンシアはこんな家庭環境なので夜会やお茶会にもほとんど出席していない。
　シンシアが出席を許されるのは基本的に強制出席の時やエドワルドが出席する時の同伴としてなので誰かと知り合うことはほとんどないし、シンシアはドレスも装飾品もほとんど持っていない。自分を磨くことも許されていないのでほとんど手付かずのままで人目を引くようなこともない。
　いや、継母や実父がそうさせないようにしてきたのだ。

「どこで知り合ったというの！」
「分からん。だが、あんなのを見初めるとは変わった性癖でもあるんじゃないか?それならミーナを出すのはかわいそうだ」
「そうね。そうだったら可愛いミーナを出すわけにもいかないわ」
「でも、お父様、お母様。それを差し引いても侯爵夫人なんて魅力的だわ」

　ミーナが言うこともそうなのだ。伯爵家から侯爵家に嫁入りなどほとんどできないのだ。
　そういう意味ではこれは千載一遇のチャンスでもある。
　実際、アルフォンスには変な噂はない。むしろ、仕事まじめで結婚など全く考えてないような感じだ。高位侯爵家の現当主であるので周りの方が跡継ぎという意味で心配しているぐらいだ。
　そう、後継ぎさえできれば後は公爵夫人として楽しく過ごせるとミーナやエリアーデは考えている。
　ワルディスも侯爵家と縁続きなるのはいいことだとも考えている。

「うむ。とりあえず、向こうが会いたいというのなら会わすしかないだろう。上位相手に断れないしな」
「そうね」
「その時にミーナ、お前も会えばいい。そうすれば可愛いお前の方を選ぶかもしれん」
「そうね。きっかけ作りとすればいいのよ。あんな子があなたより優遇されるなんてないわ」
「もちろんよ。お母様、お父様」

　こうして、シンシアのあずかり知らないところでアルフォンスとの縁談前の顔合わせが決まった。