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 ギルディール家からの手紙が届いた数日後、会う日取りが正式に決まった。
 会うのはグリファス家でとなった。
 ワルディスたちの思惑からずれたのはその日は寄宿舎で暮らしているエドワルドが帰っている時だったことだ。
 ワルディスは実の息子ながらこのエドワルドを苦手としている。
 それもそのはずでワルディスには代理としての権限しかないのだ。それもサラティナからのではなく、エドワルドの代理としてだ。
 当主継承はサラティナの実子エドワルドとシンシアにしかない。それはサラティナが王家や行政にそういう風に要請しているからだ。
 サラティナとワルディスは恋愛でもはなく、政略でもない。この二人はワルディスがサラティナを身籠らしたことによる既成事実での結婚となった。そのためサラティナとサラティナの両親はワルディスを受け入れてないし、そんな相手に家の実権を渡すつもりはない。
 エドワルドはその時に出来た子だ。それでもサラティナは生まれてきたエドワルドには罪はないと大事に愛した。それはサラティナの両親もそうだ。
 エドワルドは当初訳も分からずワルディスを嫌悪していた。そして、考える力が付いた時初めて教えられた。自分の出生の秘密を。
 その時からワルディスを憎むようになっていた。
 自分はワルディスのようにはならないと心に固く誓ったのだ。
 なら、シンシアはどうなのかというとその時もワルディスをサラティナは受け入れたわけではない。ワルディスが襲ったのだ。これによりエドワルドはワルディスを殺したい衝動にかられたがサラティアの説得によりそうはならなかった。
 そして、シンシアが産まれた。産まれたシンシアを見てエドワルドは愛情を感じた。自分と同じで生まれたシンシアに罪はないのだと愛情を持って接してきた。
 だからこそ、シンシアやサラティナを傷つけるワルディスをエドワルドは許さない。
 シンシアの今後を憂いていたエドワルドにとってこの話は邪魔されたくないのだ。 
 なので、エドワルドは無理をしてでも泊りがけで帰ることにした。
 なぜ、エドワルドがこの縁談のことを知っているのかというとこの発案者がエドワルドだからだ。まぁ、それはのちに語ることとしてワルディスは自分で交渉しているつもりでエドワルドの策にはまったようなものだ。

 そして、縁談前日エドワルドは王都の屋敷に帰宅した。
「「「「お帰りなさいませ」」」」
「ああ、シンシアはどこにいる」
「お部屋にございます」
「そうか」
 エドワルドは執事からシンシアの居場所を聞くとそのまま向かった。
 執事と数人の侍女はそれについて行った。
 扉の前に立ちノックをするとその扉はすぐに開いた。開けたのはシンシア自身だ。それもそのはずでシンシアには専任の侍女がいないのですべて自分でする必要があるのだ。
 その現状を見て眉を上げたエドワルドだったがシンシアの驚いた声を聞いてすぐに微笑んだ。
「エドお兄様!?いつお戻りに?」
「つい今しがただよ。俺の可愛いシア」
「まぁ、お迎えできずすみません」
「かまわないよ、驚かせたくてね。時間を言わずに帰ってきたから」
「そうなんですね。本当に驚きましたわ」
「ふふ、そうかい?」
 エドワルドが本当に驚かせたかったのはこの家に仕える面子であり、憎むべきワルディスたちだ。
 でも、こう驚きながらも喜んでくれるシンシアを見れた嬉しい気持ちもあった。
「今、大丈夫かい?」
「はい、どうぞ」
「俺とシンシアにお茶とお茶菓子を」
「はい」
「え?でも」
「どうかしたのかい?シア」
「え?え?…いえ、なんでもありません」
「そうか。なら、中で話をしよう」
「はい!」
 シンシアはエドワルドの後ろにいる使用人たちの顔を見て何も言わなかった。
 シンシアはお茶やお茶菓子を欲してもそれは与えられないのだ。ワルディスたちが決めており、使用人たちも徹底していたのだ。
 だから、シンシアは自分で水を取りに行くしか飲むものは許されなかった。
 シンシアが普通の対応されるのはエドワルドがいる時だけなのだ。

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