竜王の花嫁

桜月雪兎

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第一章

13、散策

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 スカルディアはアリシアの望み通り庭園に案内した。そこは花より低い木がきれいに並んでおり、中央に噴水がある。この庭園近くには執務棟があるため休憩時の憩いの場だ。
 今はほとんどの者が執務中のため庭師がいるくらいだ。
「ここが庭園だ。特に見るようなものはない」
「そうですか?とてもきれいに剪定されていますよ?」
「そうか」
 アリシアは庭師に向かって手を振った。気づいた庭師たちは驚きながらも微笑んで手を振り返してくれた。
 アリシアが近づき、話しかけると庭師は丁寧に答えた。スカルディアはアリシアの護衛として周りを気にしていたが城外でもないのであまり危険な感じは見当たらなかった。
 今度はスカルディアの腕をつかんでアリシアは噴水の場所まで行った。手をひかれたスカルディアは一瞬反応が出来ずに前につまずくように進んだ。
 噴水場まで来るとアリシアは噴水の中に手を入れた。これにはスカルディアだけではなく、一緒についていたリンも驚いていたがリリアだけが苦笑していた。
「リ、リリア。いいのですか?!」
「危険がなければいいです。アリシア様は本当に様々なものに触れて知りたいそうなので」
「……いいのかよ」
「いいのです」
 リリアは噴水の水で戯れるアリシアを見て微笑んでいた。アリシアも服が濡れないようにと危なくないように気をつけながら水の中に手を入れてみたり、すくってみたりをしている。
「スカル様、水がとても冷たいです」
「この時期は朝方良く冷える。噴水の水も冷え切っているんだ。分かったら早く手を拭け」
「はい」
 アリシアはスカルディアに言われるままに噴水の中から手を出した。リリアがすぐに布を開いてその手を綺麗に拭いた。
「ありがとう、リリア」
「いいえ、アリシア様。楽しかったですか?」
「はい!」
 アリシアとリリアのやり取りを見てスカルディアは不思議だった。
 本来噴水に手を入れるなど子供以外はしないがアリシアは好奇心のまま手を入れていた。
リリアにとってそれは予測のできる行為であり、止めることなくさせていた。それこそ子供が様々なことを見て、聞いて、触れて学ぶように。好きなようにさせている。
 そのことがスカルディアやリンには不思議だった。
 次はアリシアの希望で城の中を見て回る事になった。
 スカルディアを呼びに来た鍛錬場と仕事の邪魔になるため執務棟は外しての城内を見て回った。
 他国の王族や貴族などを呼んでのパーティーを行う大広間や誰にでも解放されたドラグーン大国一番の図書室、雨の日でも草花を楽しめるサンルームなどを見て回った。
 サンルームに飾られている花々は薬になるものも多くある。 
 スカルディアは答えられる範囲でアリシアの質問に答えていた。だがそれは本当に些細なことであり、スカルディアはこのようなことを聞いてどうしたいのかわからなかった。
「……こんなものが知りたいのか?」
「いろいろです。いろいろ知りたいのです……私の国とは違うようですので」
 スカルディアはアリシアの声が寂しそうに聞こえた。
「……帰りたいか?」
「いいえ!そんなことはありません!絶対に!!」
「あ、ああ」
「帰るなんて……絶対に嫌…あんな暮らしはもう」
 スカルディアはアリシアの剣幕に驚いた。どこかふわふわして無邪気なアリシアがあのように大きな声を出して否定するとは思わなかった。
 スカルディアにとってはまだ来たばかりで郷里の思いがあっても仕方ないと思い尋ねただけだ。だからそんな反応が返ってくるとは思わなかった。
 それ以上に今の状態がスカルディアには不思議だ。大声を出したアリシアをリリアが慰めるようにその背を撫ぜているのだ。その表情も心配そうなもので、アリシア自身も小さく何かを呟いている。スカルディアやリンには聞こえない声量であった。
「だ、大丈夫か?」
「すみません、スカルディア様。落ち着くまで少々時間がかかりますゆえ」
「あ、ああ。それはいいが何かあったのか?」
「こればかりはわたくしどもではお答えできません。アリシア様自身からお話になるのをお待ちください」
「……何かわけありのようだな」
「申し訳ありません」
「分かった。これ以上は聞かない」
 スカルディアはアリシアの状態から今は聞かないことにした。自分が聞くより兄であるルドワードが聞いた方がいいと思ったからだ。
 しばらくしてアリシアは落ち着きを取り戻し、スカルディアに謝った。
「申し訳ありません」
「いい。触れてはいけない部分なんだろ」
「今はまだ」
「……俺ではどうにもできなくても兄貴なら何とかしてくれるだろう。夫になるんだし、あまり隠し事はして欲しくない」
「はい」
「兄貴は心が広いし、優しいから大丈夫だ。何があっても受け止めてくれるはずだ……俺が無茶やった時でも結局許してくれたし」
「ありがとうございます、スカル様」
 アリシアはスカルディアに感謝した。それはスカルディアなりに励まし、支えようとしてくれた結果であることが分かったからだ。
 そしてスカルディアとルドワードの絆の強さを知ったようにアリシアは思った。
 アリシアはできるだけ早めにルドワードにすべてを話そうと思った。スカルディアが背中を押してくれたのだからそれに答えたいと思った。すでに一度ルドワードには支えられている。
「早めに話をしてみます」
「ああ……それでこの後どうするんだ?もうすぐ昼だぞ」
「ルド様……と一緒に食べたいですね」
「行ってみるか?兄貴の執務室」
「っ!はい!」
 アリシアはスカルディアの提案でルドワードの執務室に向かうことになった。
 ルドワードに会えると思ったアリシアの笑顔に微笑ましく思いながらもさっきのアリシアの状態が気になって仕方ないスカルディアだった。
(兄貴なら何とかできるだろう、夫婦になるんだし)
 スカルディアはアリシアにせかされるままにルドワードの執務室に案内した。
 この時二人のことを見ている人影があったことにスカルディアは気づかなかった。
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