18 / 118
第一章
13、散策
しおりを挟む
スカルディアはアリシアの望み通り庭園に案内した。そこは花より低い木がきれいに並んでおり、中央に噴水がある。この庭園近くには執務棟があるため休憩時の憩いの場だ。
今はほとんどの者が執務中のため庭師がいるくらいだ。
「ここが庭園だ。特に見るようなものはない」
「そうですか?とてもきれいに剪定されていますよ?」
「そうか」
アリシアは庭師に向かって手を振った。気づいた庭師たちは驚きながらも微笑んで手を振り返してくれた。
アリシアが近づき、話しかけると庭師は丁寧に答えた。スカルディアはアリシアの護衛として周りを気にしていたが城外でもないのであまり危険な感じは見当たらなかった。
今度はスカルディアの腕をつかんでアリシアは噴水の場所まで行った。手をひかれたスカルディアは一瞬反応が出来ずに前につまずくように進んだ。
噴水場まで来るとアリシアは噴水の中に手を入れた。これにはスカルディアだけではなく、一緒についていたリンも驚いていたがリリアだけが苦笑していた。
「リ、リリア。いいのですか?!」
「危険がなければいいです。アリシア様は本当に様々なものに触れて知りたいそうなので」
「……いいのかよ」
「いいのです」
リリアは噴水の水で戯れるアリシアを見て微笑んでいた。アリシアも服が濡れないようにと危なくないように気をつけながら水の中に手を入れてみたり、すくってみたりをしている。
「スカル様、水がとても冷たいです」
「この時期は朝方良く冷える。噴水の水も冷え切っているんだ。分かったら早く手を拭け」
「はい」
アリシアはスカルディアに言われるままに噴水の中から手を出した。リリアがすぐに布を開いてその手を綺麗に拭いた。
「ありがとう、リリア」
「いいえ、アリシア様。楽しかったですか?」
「はい!」
アリシアとリリアのやり取りを見てスカルディアは不思議だった。
本来噴水に手を入れるなど子供以外はしないがアリシアは好奇心のまま手を入れていた。
リリアにとってそれは予測のできる行為であり、止めることなくさせていた。それこそ子供が様々なことを見て、聞いて、触れて学ぶように。好きなようにさせている。
そのことがスカルディアやリンには不思議だった。
次はアリシアの希望で城の中を見て回る事になった。
スカルディアを呼びに来た鍛錬場と仕事の邪魔になるため執務棟は外しての城内を見て回った。
他国の王族や貴族などを呼んでのパーティーを行う大広間や誰にでも解放されたドラグーン大国一番の図書室、雨の日でも草花を楽しめるサンルームなどを見て回った。
サンルームに飾られている花々は薬になるものも多くある。
スカルディアは答えられる範囲でアリシアの質問に答えていた。だがそれは本当に些細なことであり、スカルディアはこのようなことを聞いてどうしたいのかわからなかった。
「……こんなものが知りたいのか?」
「いろいろです。いろいろ知りたいのです……私の国とは違うようですので」
スカルディアはアリシアの声が寂しそうに聞こえた。
「……帰りたいか?」
「いいえ!そんなことはありません!絶対に!!」
「あ、ああ」
「帰るなんて……絶対に嫌…あんな暮らしはもう」
スカルディアはアリシアの剣幕に驚いた。どこかふわふわして無邪気なアリシアがあのように大きな声を出して否定するとは思わなかった。
スカルディアにとってはまだ来たばかりで郷里の思いがあっても仕方ないと思い尋ねただけだ。だからそんな反応が返ってくるとは思わなかった。
それ以上に今の状態がスカルディアには不思議だ。大声を出したアリシアをリリアが慰めるようにその背を撫ぜているのだ。その表情も心配そうなもので、アリシア自身も小さく何かを呟いている。スカルディアやリンには聞こえない声量であった。
「だ、大丈夫か?」
「すみません、スカルディア様。落ち着くまで少々時間がかかりますゆえ」
「あ、ああ。それはいいが何かあったのか?」
「こればかりは私どもではお答えできません。アリシア様自身からお話になるのをお待ちください」
「……何かわけありのようだな」
「申し訳ありません」
「分かった。これ以上は聞かない」
スカルディアはアリシアの状態から今は聞かないことにした。自分が聞くより兄であるルドワードが聞いた方がいいと思ったからだ。
しばらくしてアリシアは落ち着きを取り戻し、スカルディアに謝った。
「申し訳ありません」
「いい。触れてはいけない部分なんだろ」
「今はまだ」
「……俺ではどうにもできなくても兄貴なら何とかしてくれるだろう。夫になるんだし、あまり隠し事はして欲しくない」
「はい」
「兄貴は心が広いし、優しいから大丈夫だ。何があっても受け止めてくれるはずだ……俺が無茶やった時でも結局許してくれたし」
「ありがとうございます、スカル様」
アリシアはスカルディアに感謝した。それはスカルディアなりに励まし、支えようとしてくれた結果であることが分かったからだ。
そしてスカルディアとルドワードの絆の強さを知ったようにアリシアは思った。
アリシアはできるだけ早めにルドワードにすべてを話そうと思った。スカルディアが背中を押してくれたのだからそれに答えたいと思った。すでに一度ルドワードには支えられている。
「早めに話をしてみます」
「ああ……それでこの後どうするんだ?もうすぐ昼だぞ」
「ルド様……と一緒に食べたいですね」
「行ってみるか?兄貴の執務室」
「っ!はい!」
アリシアはスカルディアの提案でルドワードの執務室に向かうことになった。
ルドワードに会えると思ったアリシアの笑顔に微笑ましく思いながらもさっきのアリシアの状態が気になって仕方ないスカルディアだった。
(兄貴なら何とかできるだろう、夫婦になるんだし)
スカルディアはアリシアにせかされるままにルドワードの執務室に案内した。
この時二人のことを見ている人影があったことにスカルディアは気づかなかった。
今はほとんどの者が執務中のため庭師がいるくらいだ。
「ここが庭園だ。特に見るようなものはない」
「そうですか?とてもきれいに剪定されていますよ?」
「そうか」
アリシアは庭師に向かって手を振った。気づいた庭師たちは驚きながらも微笑んで手を振り返してくれた。
アリシアが近づき、話しかけると庭師は丁寧に答えた。スカルディアはアリシアの護衛として周りを気にしていたが城外でもないのであまり危険な感じは見当たらなかった。
今度はスカルディアの腕をつかんでアリシアは噴水の場所まで行った。手をひかれたスカルディアは一瞬反応が出来ずに前につまずくように進んだ。
噴水場まで来るとアリシアは噴水の中に手を入れた。これにはスカルディアだけではなく、一緒についていたリンも驚いていたがリリアだけが苦笑していた。
「リ、リリア。いいのですか?!」
「危険がなければいいです。アリシア様は本当に様々なものに触れて知りたいそうなので」
「……いいのかよ」
「いいのです」
リリアは噴水の水で戯れるアリシアを見て微笑んでいた。アリシアも服が濡れないようにと危なくないように気をつけながら水の中に手を入れてみたり、すくってみたりをしている。
「スカル様、水がとても冷たいです」
「この時期は朝方良く冷える。噴水の水も冷え切っているんだ。分かったら早く手を拭け」
「はい」
アリシアはスカルディアに言われるままに噴水の中から手を出した。リリアがすぐに布を開いてその手を綺麗に拭いた。
「ありがとう、リリア」
「いいえ、アリシア様。楽しかったですか?」
「はい!」
アリシアとリリアのやり取りを見てスカルディアは不思議だった。
本来噴水に手を入れるなど子供以外はしないがアリシアは好奇心のまま手を入れていた。
リリアにとってそれは予測のできる行為であり、止めることなくさせていた。それこそ子供が様々なことを見て、聞いて、触れて学ぶように。好きなようにさせている。
そのことがスカルディアやリンには不思議だった。
次はアリシアの希望で城の中を見て回る事になった。
スカルディアを呼びに来た鍛錬場と仕事の邪魔になるため執務棟は外しての城内を見て回った。
他国の王族や貴族などを呼んでのパーティーを行う大広間や誰にでも解放されたドラグーン大国一番の図書室、雨の日でも草花を楽しめるサンルームなどを見て回った。
サンルームに飾られている花々は薬になるものも多くある。
スカルディアは答えられる範囲でアリシアの質問に答えていた。だがそれは本当に些細なことであり、スカルディアはこのようなことを聞いてどうしたいのかわからなかった。
「……こんなものが知りたいのか?」
「いろいろです。いろいろ知りたいのです……私の国とは違うようですので」
スカルディアはアリシアの声が寂しそうに聞こえた。
「……帰りたいか?」
「いいえ!そんなことはありません!絶対に!!」
「あ、ああ」
「帰るなんて……絶対に嫌…あんな暮らしはもう」
スカルディアはアリシアの剣幕に驚いた。どこかふわふわして無邪気なアリシアがあのように大きな声を出して否定するとは思わなかった。
スカルディアにとってはまだ来たばかりで郷里の思いがあっても仕方ないと思い尋ねただけだ。だからそんな反応が返ってくるとは思わなかった。
それ以上に今の状態がスカルディアには不思議だ。大声を出したアリシアをリリアが慰めるようにその背を撫ぜているのだ。その表情も心配そうなもので、アリシア自身も小さく何かを呟いている。スカルディアやリンには聞こえない声量であった。
「だ、大丈夫か?」
「すみません、スカルディア様。落ち着くまで少々時間がかかりますゆえ」
「あ、ああ。それはいいが何かあったのか?」
「こればかりは私どもではお答えできません。アリシア様自身からお話になるのをお待ちください」
「……何かわけありのようだな」
「申し訳ありません」
「分かった。これ以上は聞かない」
スカルディアはアリシアの状態から今は聞かないことにした。自分が聞くより兄であるルドワードが聞いた方がいいと思ったからだ。
しばらくしてアリシアは落ち着きを取り戻し、スカルディアに謝った。
「申し訳ありません」
「いい。触れてはいけない部分なんだろ」
「今はまだ」
「……俺ではどうにもできなくても兄貴なら何とかしてくれるだろう。夫になるんだし、あまり隠し事はして欲しくない」
「はい」
「兄貴は心が広いし、優しいから大丈夫だ。何があっても受け止めてくれるはずだ……俺が無茶やった時でも結局許してくれたし」
「ありがとうございます、スカル様」
アリシアはスカルディアに感謝した。それはスカルディアなりに励まし、支えようとしてくれた結果であることが分かったからだ。
そしてスカルディアとルドワードの絆の強さを知ったようにアリシアは思った。
アリシアはできるだけ早めにルドワードにすべてを話そうと思った。スカルディアが背中を押してくれたのだからそれに答えたいと思った。すでに一度ルドワードには支えられている。
「早めに話をしてみます」
「ああ……それでこの後どうするんだ?もうすぐ昼だぞ」
「ルド様……と一緒に食べたいですね」
「行ってみるか?兄貴の執務室」
「っ!はい!」
アリシアはスカルディアの提案でルドワードの執務室に向かうことになった。
ルドワードに会えると思ったアリシアの笑顔に微笑ましく思いながらもさっきのアリシアの状態が気になって仕方ないスカルディアだった。
(兄貴なら何とかできるだろう、夫婦になるんだし)
スカルディアはアリシアにせかされるままにルドワードの執務室に案内した。
この時二人のことを見ている人影があったことにスカルディアは気づかなかった。
13
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる