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第一章
26、裁判前
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朝食が終わるころにルドワードはアリシアに声をかけた。
「シア」
「はい、なんでしょうか?ルド様」
「今日の午後に誘拐事件の者たちの処遇を決める裁判をする」
「今日の午後ですか」
「ああ、結婚式も控えている。早急の対処が必要になる」
ルドワードは厳しい顔をした。それは竜王としての顔だ。スカルディアも難しい顔をしていた。それもそうだろう。相手は二人のおじだったのだ。仲が良くなかったとしても心境は複雑だ。
シリウスもルークも三人を見ていた。仲が良くても他国の問題に入り込めないからだ。
スカルディアはさっきのアリシアの話を思い出して尋ねた。
「シア姉、どうする?」
「シアを傷つけたヤツとまた会うことになる。だが、リンたちのこともある」
「リンたちを守るために参加させていただきたいと思います」
「シア」
「シア姉」
「アリシア嬢」
「アリシア嬢、無理はしない方がいい」
アリシアの言葉にルドワードたちは心配した。昨日の今だ、対峙するのは辛いのではないかというのが全員の考えだ。アリシアはその考えがわかり、気を使われることに少し嬉しく思ったがこれはアリシアにとって譲れないものだ。だからこそ考えは変わらなかった。
「ご心配していただきありがとうございます。ですが私はあの人たちにあっても辛くはありません。ルド様たちがいらっしゃるので」
「シア」
「リンたちはユーザリアの魔術で従っていただけです。彼女たちを解放してあげなくては」
「アリシア嬢、それは禁術とした隷属魔術のことでしょうか?」
「はい、リンたち姉弟にはその刻印がありました。彼女たちを解放してあげないといけません」
「そのために出席すると」
「はい」
全員がアリシアの意思の強さを理解した。そしてマリアをはじめとした侍女たちは嬉しそうにしていた。全員の反応を見てルドワードは苦笑しながらも了承した。
「分かった。シアは俺のそばにいるように、術式をする際は護衛にスカルとアルシードをつけよう」
「シア姉、今度はしっかりと守る」
「アリシア様。リン、たちの事お願いします」
「分かりました、よろしくお願いします」
そう話をして裁判の時間まで全員が思い思いに過ごした。
そんな中アリシアはアルシードを伴ってリンたち三姉弟が入れられている牢獄に赴いた。
「アリシア様、よろしいのですか?」
「何がですか?」
「あと数時間で裁判です。その前に投獄者に会うのは」
「裁判前に会いたいのは私だけではないはずですけど?」
「……何のことでしょう?」
「まあ、いいですけど」
アリシアはアルシードを見たがアルシードは顔をそむけてとぼけた。そう、アリシアの言うようにリンたち、というよりリンのことを気にしているのはアリシアやマリアたちだけではない。自分の護衛という大義名分がなければ会えない人物がここにいる。アリシアは苦笑してそれ以上聞かなかった。
「……心配ですから」
「……そうですね」
二人はリンのことが心配だった。リンは優しく義務感が強い子だ。仕方ない状況あったとしても今回のことを悔やんで自分を責めているのではないかという思いが全員にあったし、それによって早まった行動をとらないか心配だった。
二人がそんな心配をしながら投獄所まで向かった。投獄所には今回の一件に関わった者すべてがいた。
アリシアは凛とした姿でその前を通っている。それを見ている投獄者たちは忌々しそうに見ていた。あからさまに嫌味を言う者もいたがアリシアはそんな者を歯牙にもかけないように凛としてまっすぐ視線を向けることもなく堂々と歩いている。
アルシードは感心していた。普段の天真爛漫で無邪気な姿も昨晩ルドワードの胸元で泣いていた少女の姿もなかった。そこには王侯貴族として王の妃になる者としての隙を見せない姿があった。
リンたちは最奥に投獄されていた。他の投獄者が貴族であるためいらないことを言われないようにするために場所を別にしていた。それにリンたちが術で操られていたという仕方ない状況であったこともあり、リンの今までの働きやルイの捜索時の援助などの恩情も働き、三人が一緒に入っていた。
檻につくと見えたのは三人ともがその瞳を腫らしながら極刑を覚悟している姿だった。
アルシードはそんな三人を見て眉をひそめた。
三人ともが自分の意思でしたことではない。ましてやリンはアリシアにしっかりと仕えていた実績もあり、ルイはアリシアを助ける手助けをした。カイも強制されただけだ。それらを考慮してもかなりの恩情が働くはずなのに三人ともが自身を強く責めている。
アルシードはアリシアを見た。その瞳は慈愛に満ちており、優しさにあふれている。それはさっきの凛とした姿ではなかった。むしろ普段たまに見せるアリシアの素顔の一つだ。
アルシードはそんなアリシアに安心して、リンの方を見た。普段の凛としつつも穏やかな姿はなかった。どんな罰でも受け入れるが弟たちを守ろうという覚悟を宿した姿はアルシードの心を打った。
アリシアがリンたちの柵の前に来るとリンたちは驚きつつも傍に来た。
「ア、アリシア様!?アルシード様!」
「リン」
「なぜこのような場所に」
「あなたたちが心配で」
その言葉に三人ともが涙を瞳にためた。
「花嫁様」
「お久しぶりです。あなたがルド様たちを連れてきてくださったのですね、助かりました」
「いや、俺は…花嫁様に嫌な思いして欲しくなかったし…姉ちゃんたちもこれ以上嫌な思いして欲しくなかっただけで」
「その心が大事なのですよ」
アリシアに褒められたのが嬉しかったのかルイは泣き笑いをしていた。
ルイは見た目以上に無邪気な感じがある。それは世間を知らず、姉弟に守られてきたからかもしれない。それでもルイ自身姉弟たちに守られてきたこと自体は理解している。そして自分を守ることが姉弟の支えになっていたことも理解している。
だからこそ姉弟たちをあの状況から救えたのは嬉しかったのだろう。この先のことはもうルイはルドワードに望みを言っている。自分たちの国の王を信じるだけだ。
そんなルイを微笑ましそうに見ていたカイだが申し訳なさそうにアリシアに声をかけた。
「花嫁さん、すみませんでした」
「あれは仕方なかったのです。あなたが気に病む必要はありません」
「それでも」
「優しいのですね、でも私はこの通り何事もありませんでしたので、気にしないで」
アリシアの優しさに触れてルイはためていた涙を一つ流しながら微笑んだ。
カイはどんな状況でも許されないことをしたと思っていた。自分はそれだけのことをしたのだと理解している。それでも自分を許してくれるアリシアに感謝した。
そんな主と弟たちを見て微笑んでいたリンだが覚悟を決めてアリシアに声をかけた。
「アリシア様」
「リン、目が腫れていますね」
「どうか、どうか弟たちは見逃してください。全ては私一人で…」
「リン」
「アリシア様」
アリシアは懇願するリンの頭を柵越しに撫ぜた。たった半日ほどでしかないのに数日も触れてなかったような錯覚をアリシアはした。
そんな思いを振り切るように頭を振ってアリシアは優しく、しかしはっきりと自分の思いをリンに伝えた。
「私はあなたたち三人を責める気はありませんよ。あなたたちは仕方なかったのです、私はあなたたちを助けたいだけです」
「ですが」
「それに早くリンの入れてくれたお茶が飲みたいです」
「アリシア様」
「ね、早く出てきてもう一度私にお茶を入れてください。そして今度こそお勧めの場所に連れて行ってくださいね」
アリシアが茶目っ気にそんなことを言うとは思っていなかったリンは一瞬きょとんとしたがその思いを理解して涙を流した。
また傍にいていいとアリシアは言っているのだ。あんな目にあわせたのにまた一緒に出掛けようと言ってくれているのだ。
リンが初めて心から仕えたいと思った相手が自分の愚行を、傍にいること、もう一度仕えることを、一緒に出掛けることを許してくれているのだ。嬉しくないはずかない。
リンは泣き笑いながら何度もうなづいた。
「は、はい。はい、もちろんです。アリシア様、とっておきの場所があるんです」
「楽しみです」
そんなリンのつきものが落ちたような姿を見てアルシードは安心した。真面目なリンはこのことで自らの命を絶つのではないかとひそかに心配していたのだ。
妹のことが心配で同僚であるリンにそれとなく聞いているうちに、接しているうちにアルシードはひそかに思うようになっていた。その相手を失わずに済むのだ、嬉しくないはずがない。
アリシアは助けると言ったのだ、だからアルシードもその言葉を信じた。ルドワードがアリシアに甘いからではない。アリシアが守ると言った。それは全てからリンたち三姉弟を守るつもりなのだ。アリシアのその覚悟も見れたからアルシードは信じたのだ。
リンが落ち着いたのを見てアリシアはアルシードの方を見た。
アルシードは苦笑した。来るまでの会話からも何となく察していたがこの主は何も言わず、気付かれていないはずのアルシードの思いに気付いていた。
かなわないと思いながらアルシードはリンに近づき、声をかけた。それと引き換えにアリシアはその場所を譲った。
「リン」
「アルシード様」
「早く出てこいよ……マリアが待っている」
「はい、アルシード様」
声をかけながらも最後は恥ずかしくて誤魔化したアルシードだがリンはその優しさを理解した。そして二人は嬉しそうに見つめあっていた。
それを端によけたアリシアのそばにカイとルイが来て小声で話しかけた。
「もしかして姉さん」
「もしかして、もしかする?」
「ふふ、だと思いますよ」
「あ~、でも、そっか」
「うん」
「ふふ、早く出てきてほしいです。リンには幸せになってほしいです」
「俺もです」
「俺も姉ちゃんには幸せになってほしい」
「ですね」
三人に微笑ましく見られていることに気付き、リンとアルシードは恥ずかしそうにそっぽ向いた。それでも頬を染めながらも二人は嬉しそうに時折視線を交し合っている。
しばらくそうしていたがそろそろ戻らないといけない時間になってきたのでアリシアは声をかけた。
「それでは、そろそろ戻ります」
「はい」
「午後から裁判がありますが必ず私があなたたち三人を助けますからね」
アリシアは再度自分の意思を三人に伝えた。三人は来た時とは違い、しっかりと前を見てうなずいた。
「はい、アリシア様」
「ありがとうございます、花嫁さん」
「花嫁様、信じている」
「はい」
「リン、待っている」
「はい、アルシード様」
五人はあいさつを交わして別れた。今度は生きる思いをもって。
一緒に前を進む意志を持て。
「シア」
「はい、なんでしょうか?ルド様」
「今日の午後に誘拐事件の者たちの処遇を決める裁判をする」
「今日の午後ですか」
「ああ、結婚式も控えている。早急の対処が必要になる」
ルドワードは厳しい顔をした。それは竜王としての顔だ。スカルディアも難しい顔をしていた。それもそうだろう。相手は二人のおじだったのだ。仲が良くなかったとしても心境は複雑だ。
シリウスもルークも三人を見ていた。仲が良くても他国の問題に入り込めないからだ。
スカルディアはさっきのアリシアの話を思い出して尋ねた。
「シア姉、どうする?」
「シアを傷つけたヤツとまた会うことになる。だが、リンたちのこともある」
「リンたちを守るために参加させていただきたいと思います」
「シア」
「シア姉」
「アリシア嬢」
「アリシア嬢、無理はしない方がいい」
アリシアの言葉にルドワードたちは心配した。昨日の今だ、対峙するのは辛いのではないかというのが全員の考えだ。アリシアはその考えがわかり、気を使われることに少し嬉しく思ったがこれはアリシアにとって譲れないものだ。だからこそ考えは変わらなかった。
「ご心配していただきありがとうございます。ですが私はあの人たちにあっても辛くはありません。ルド様たちがいらっしゃるので」
「シア」
「リンたちはユーザリアの魔術で従っていただけです。彼女たちを解放してあげなくては」
「アリシア嬢、それは禁術とした隷属魔術のことでしょうか?」
「はい、リンたち姉弟にはその刻印がありました。彼女たちを解放してあげないといけません」
「そのために出席すると」
「はい」
全員がアリシアの意思の強さを理解した。そしてマリアをはじめとした侍女たちは嬉しそうにしていた。全員の反応を見てルドワードは苦笑しながらも了承した。
「分かった。シアは俺のそばにいるように、術式をする際は護衛にスカルとアルシードをつけよう」
「シア姉、今度はしっかりと守る」
「アリシア様。リン、たちの事お願いします」
「分かりました、よろしくお願いします」
そう話をして裁判の時間まで全員が思い思いに過ごした。
そんな中アリシアはアルシードを伴ってリンたち三姉弟が入れられている牢獄に赴いた。
「アリシア様、よろしいのですか?」
「何がですか?」
「あと数時間で裁判です。その前に投獄者に会うのは」
「裁判前に会いたいのは私だけではないはずですけど?」
「……何のことでしょう?」
「まあ、いいですけど」
アリシアはアルシードを見たがアルシードは顔をそむけてとぼけた。そう、アリシアの言うようにリンたち、というよりリンのことを気にしているのはアリシアやマリアたちだけではない。自分の護衛という大義名分がなければ会えない人物がここにいる。アリシアは苦笑してそれ以上聞かなかった。
「……心配ですから」
「……そうですね」
二人はリンのことが心配だった。リンは優しく義務感が強い子だ。仕方ない状況あったとしても今回のことを悔やんで自分を責めているのではないかという思いが全員にあったし、それによって早まった行動をとらないか心配だった。
二人がそんな心配をしながら投獄所まで向かった。投獄所には今回の一件に関わった者すべてがいた。
アリシアは凛とした姿でその前を通っている。それを見ている投獄者たちは忌々しそうに見ていた。あからさまに嫌味を言う者もいたがアリシアはそんな者を歯牙にもかけないように凛としてまっすぐ視線を向けることもなく堂々と歩いている。
アルシードは感心していた。普段の天真爛漫で無邪気な姿も昨晩ルドワードの胸元で泣いていた少女の姿もなかった。そこには王侯貴族として王の妃になる者としての隙を見せない姿があった。
リンたちは最奥に投獄されていた。他の投獄者が貴族であるためいらないことを言われないようにするために場所を別にしていた。それにリンたちが術で操られていたという仕方ない状況であったこともあり、リンの今までの働きやルイの捜索時の援助などの恩情も働き、三人が一緒に入っていた。
檻につくと見えたのは三人ともがその瞳を腫らしながら極刑を覚悟している姿だった。
アルシードはそんな三人を見て眉をひそめた。
三人ともが自分の意思でしたことではない。ましてやリンはアリシアにしっかりと仕えていた実績もあり、ルイはアリシアを助ける手助けをした。カイも強制されただけだ。それらを考慮してもかなりの恩情が働くはずなのに三人ともが自身を強く責めている。
アルシードはアリシアを見た。その瞳は慈愛に満ちており、優しさにあふれている。それはさっきの凛とした姿ではなかった。むしろ普段たまに見せるアリシアの素顔の一つだ。
アルシードはそんなアリシアに安心して、リンの方を見た。普段の凛としつつも穏やかな姿はなかった。どんな罰でも受け入れるが弟たちを守ろうという覚悟を宿した姿はアルシードの心を打った。
アリシアがリンたちの柵の前に来るとリンたちは驚きつつも傍に来た。
「ア、アリシア様!?アルシード様!」
「リン」
「なぜこのような場所に」
「あなたたちが心配で」
その言葉に三人ともが涙を瞳にためた。
「花嫁様」
「お久しぶりです。あなたがルド様たちを連れてきてくださったのですね、助かりました」
「いや、俺は…花嫁様に嫌な思いして欲しくなかったし…姉ちゃんたちもこれ以上嫌な思いして欲しくなかっただけで」
「その心が大事なのですよ」
アリシアに褒められたのが嬉しかったのかルイは泣き笑いをしていた。
ルイは見た目以上に無邪気な感じがある。それは世間を知らず、姉弟に守られてきたからかもしれない。それでもルイ自身姉弟たちに守られてきたこと自体は理解している。そして自分を守ることが姉弟の支えになっていたことも理解している。
だからこそ姉弟たちをあの状況から救えたのは嬉しかったのだろう。この先のことはもうルイはルドワードに望みを言っている。自分たちの国の王を信じるだけだ。
そんなルイを微笑ましそうに見ていたカイだが申し訳なさそうにアリシアに声をかけた。
「花嫁さん、すみませんでした」
「あれは仕方なかったのです。あなたが気に病む必要はありません」
「それでも」
「優しいのですね、でも私はこの通り何事もありませんでしたので、気にしないで」
アリシアの優しさに触れてルイはためていた涙を一つ流しながら微笑んだ。
カイはどんな状況でも許されないことをしたと思っていた。自分はそれだけのことをしたのだと理解している。それでも自分を許してくれるアリシアに感謝した。
そんな主と弟たちを見て微笑んでいたリンだが覚悟を決めてアリシアに声をかけた。
「アリシア様」
「リン、目が腫れていますね」
「どうか、どうか弟たちは見逃してください。全ては私一人で…」
「リン」
「アリシア様」
アリシアは懇願するリンの頭を柵越しに撫ぜた。たった半日ほどでしかないのに数日も触れてなかったような錯覚をアリシアはした。
そんな思いを振り切るように頭を振ってアリシアは優しく、しかしはっきりと自分の思いをリンに伝えた。
「私はあなたたち三人を責める気はありませんよ。あなたたちは仕方なかったのです、私はあなたたちを助けたいだけです」
「ですが」
「それに早くリンの入れてくれたお茶が飲みたいです」
「アリシア様」
「ね、早く出てきてもう一度私にお茶を入れてください。そして今度こそお勧めの場所に連れて行ってくださいね」
アリシアが茶目っ気にそんなことを言うとは思っていなかったリンは一瞬きょとんとしたがその思いを理解して涙を流した。
また傍にいていいとアリシアは言っているのだ。あんな目にあわせたのにまた一緒に出掛けようと言ってくれているのだ。
リンが初めて心から仕えたいと思った相手が自分の愚行を、傍にいること、もう一度仕えることを、一緒に出掛けることを許してくれているのだ。嬉しくないはずかない。
リンは泣き笑いながら何度もうなづいた。
「は、はい。はい、もちろんです。アリシア様、とっておきの場所があるんです」
「楽しみです」
そんなリンのつきものが落ちたような姿を見てアルシードは安心した。真面目なリンはこのことで自らの命を絶つのではないかとひそかに心配していたのだ。
妹のことが心配で同僚であるリンにそれとなく聞いているうちに、接しているうちにアルシードはひそかに思うようになっていた。その相手を失わずに済むのだ、嬉しくないはずがない。
アリシアは助けると言ったのだ、だからアルシードもその言葉を信じた。ルドワードがアリシアに甘いからではない。アリシアが守ると言った。それは全てからリンたち三姉弟を守るつもりなのだ。アリシアのその覚悟も見れたからアルシードは信じたのだ。
リンが落ち着いたのを見てアリシアはアルシードの方を見た。
アルシードは苦笑した。来るまでの会話からも何となく察していたがこの主は何も言わず、気付かれていないはずのアルシードの思いに気付いていた。
かなわないと思いながらアルシードはリンに近づき、声をかけた。それと引き換えにアリシアはその場所を譲った。
「リン」
「アルシード様」
「早く出てこいよ……マリアが待っている」
「はい、アルシード様」
声をかけながらも最後は恥ずかしくて誤魔化したアルシードだがリンはその優しさを理解した。そして二人は嬉しそうに見つめあっていた。
それを端によけたアリシアのそばにカイとルイが来て小声で話しかけた。
「もしかして姉さん」
「もしかして、もしかする?」
「ふふ、だと思いますよ」
「あ~、でも、そっか」
「うん」
「ふふ、早く出てきてほしいです。リンには幸せになってほしいです」
「俺もです」
「俺も姉ちゃんには幸せになってほしい」
「ですね」
三人に微笑ましく見られていることに気付き、リンとアルシードは恥ずかしそうにそっぽ向いた。それでも頬を染めながらも二人は嬉しそうに時折視線を交し合っている。
しばらくそうしていたがそろそろ戻らないといけない時間になってきたのでアリシアは声をかけた。
「それでは、そろそろ戻ります」
「はい」
「午後から裁判がありますが必ず私があなたたち三人を助けますからね」
アリシアは再度自分の意思を三人に伝えた。三人は来た時とは違い、しっかりと前を見てうなずいた。
「はい、アリシア様」
「ありがとうございます、花嫁さん」
「花嫁様、信じている」
「はい」
「リン、待っている」
「はい、アルシード様」
五人はあいさつを交わして別れた。今度は生きる思いをもって。
一緒に前を進む意志を持て。
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