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第一章
41、披露宴前の嵐⑥
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アリシアはだいぶ落ち着き、ルドワードの胸に顔を埋めながら言った。
「お帰り下さい、私はあなたたちを許しなどできませんので」
「アリシア」
「もう、私の前に現れないでください。私は誰も憎みたくないんです……平和に暮らしたいだけなんです、人として」
アリシアの言葉は全員に刺さった。
リンたちも人として生きていなかった、生きれなかった。だがそれは第三者によっての行為でアリシアにすでに救われた。
そんなアリシア自身が身内、しかも父親によって同じような目に合っているなど考えれもしない。
アリシアは彼らを許せない、許すことはできない。それでもその許せない気持ちや憎む心に蓋をし、前に進もうとしている。忘れることもできない過去や仕打ちに耐えて、新しい人生を踏み出そうとしているのだ。
誰にそんなことができるだろうか、この場にいる面々はアリシアのその強さを理解した。
「ミナ、彼女を解放してください」
「アリシア様?!」
「私はもう関わりたくないのです。このことは不問にして二度と私の前に現れないでください」
「アリシア嬢が望むのなら俺はそれでいいが」
シリウスは戸惑いつつ、ルドワードとスカルディアを見た。
この先、アリシアと共に人生を歩むのはこの二人だ、自分より彼らの意見の方が重要である。
ルドワードもスカルディアもシリウスの考えを理解し、頷いた。
「俺もシアがそう望むのなら……だが、我が国に足を踏み入れることは許さないぞ」
「ああ、お前たち三名の入国は今後一切認められることはない」
「……はい」
ミナはアリシアやルドワードたちの判断を聞き、ラティアの拘束を解いた。
それを見届けたシリウスが国王としてルークに命令した。
「ルーク、三名をウィザルド領に転送しろ」
「了解しました。座標ウィザルド領内領主館……転送」
ルークは三人に向かって魔方陣を向けた。この転送は指定した場所に相手を送り届けるものだ。術者が一度でも向かい、場所を把握している場合に仕える。
ルークも何度かウィザルド領に視察に向かっているので転送可能だった。
三人の姿が完全に消えるのを見届けてシリウスはため息をついた。
「行ったか。ルド、アリシア嬢にかけられた術を解く」
「ああ」
「それではアリシア嬢良いですか?」
「お願いします」
シリウスはまたフォレンドたちが来ないようにアリシアにかけられた魔法を解くことにした。
それを理解したルドワードはアリシアを優しくベッドに寝かせ、数歩離れた。
アリシアもベッドにうつ伏せの体勢へ変えた。ルークが近づき、確認され、アリシアは了承した。
ルークは服の上から手をかざし、魔力を込めた。
「隠蔽確認、探索印確認……魔法解除」
「これで今後あの者たちが容易にアリシア嬢の前に現れることはないでしょう。国内に三名の入国禁止令を発令していればほぼ確実に表れないでしょう」
「ありがとうございます」
アリシアは仰向けに体勢を変え、疲れたような顔をしている。
ルドワードはそれに気づき、優しくその頭を撫ぜながら休むように促した。
「シア、疲れただろう。披露宴までまだ時間があるゆっくり寝るといい」
「ルド様、傍にいてください」
「しかし」
アリシアは離れていこうとするルドワードの裾を掴んで引きとめた。さっきの今で心細く、怖いのだ。
本来この披露宴までの時間は新郎・新婦共に別々の場所で休むようになっている、ルドワードはそれを気にしたがシリウスに肩を叩かれ、言われた。
「いてやれ、さっきの今だ。心が落ち着かないんだろう」
「俺もジャックスやアルと一緒に扉の前で待機している。だからいてやれよ、兄貴」
「私共も侍女部屋に控えていますので」
「俺たちは姉さんと一緒にいるよ、竜王様が一緒なら大丈夫だろうし」
「そうですね。私たちも用意された部屋で待っていますので」
「ああ、分かった」
全員に促されてルドワードは苦笑しながら留まることにした。
それを確認した面々はそれぞれの場所に向かい始めた。
アリシアがゆっくりと休めるように。
「では、アリシア嬢。ゆっくりお休みなさい」
「はい、ありがとうございます」
全員が扉の外に出るとルドワードは布団の上にいたアリシアを布団の中に入れた。
ルドワード自身も一緒に布団の中に入り、その背中を優しく撫ぜた。
「シア」
「ルド様…ルド様~」
「もう大丈夫だ。俺がそばにいるから、ゆっくり眠れ」
「はい」
「……眠ったか。思った以上にシアの心の闇は深いなぁ……だが、もうそれもおしまいだ。ここからだ、ここから幸せになろう、アリシア」
ルドワードにしがみつきながらアリシアは眠りについた。
このほんの一時だけでアリシアはとても疲れている、顔に疲労感が出ているのだ。
それもそうだろう、向き合いたくもなく、忘れたい過去と向き合ったのだ。
それでもこれでやっとアリシアが抱えていたものはなくなった。ユーザリア国内でのことはシリウスやルークが解決させることだ。
アリシアは本当にここで何も憂いなく幸せになれるのだ。
ルドワードは眠っているアリシアに対して幸せにしていくことを誓い、その額に軽くキスをして目を閉じた。
「お帰り下さい、私はあなたたちを許しなどできませんので」
「アリシア」
「もう、私の前に現れないでください。私は誰も憎みたくないんです……平和に暮らしたいだけなんです、人として」
アリシアの言葉は全員に刺さった。
リンたちも人として生きていなかった、生きれなかった。だがそれは第三者によっての行為でアリシアにすでに救われた。
そんなアリシア自身が身内、しかも父親によって同じような目に合っているなど考えれもしない。
アリシアは彼らを許せない、許すことはできない。それでもその許せない気持ちや憎む心に蓋をし、前に進もうとしている。忘れることもできない過去や仕打ちに耐えて、新しい人生を踏み出そうとしているのだ。
誰にそんなことができるだろうか、この場にいる面々はアリシアのその強さを理解した。
「ミナ、彼女を解放してください」
「アリシア様?!」
「私はもう関わりたくないのです。このことは不問にして二度と私の前に現れないでください」
「アリシア嬢が望むのなら俺はそれでいいが」
シリウスは戸惑いつつ、ルドワードとスカルディアを見た。
この先、アリシアと共に人生を歩むのはこの二人だ、自分より彼らの意見の方が重要である。
ルドワードもスカルディアもシリウスの考えを理解し、頷いた。
「俺もシアがそう望むのなら……だが、我が国に足を踏み入れることは許さないぞ」
「ああ、お前たち三名の入国は今後一切認められることはない」
「……はい」
ミナはアリシアやルドワードたちの判断を聞き、ラティアの拘束を解いた。
それを見届けたシリウスが国王としてルークに命令した。
「ルーク、三名をウィザルド領に転送しろ」
「了解しました。座標ウィザルド領内領主館……転送」
ルークは三人に向かって魔方陣を向けた。この転送は指定した場所に相手を送り届けるものだ。術者が一度でも向かい、場所を把握している場合に仕える。
ルークも何度かウィザルド領に視察に向かっているので転送可能だった。
三人の姿が完全に消えるのを見届けてシリウスはため息をついた。
「行ったか。ルド、アリシア嬢にかけられた術を解く」
「ああ」
「それではアリシア嬢良いですか?」
「お願いします」
シリウスはまたフォレンドたちが来ないようにアリシアにかけられた魔法を解くことにした。
それを理解したルドワードはアリシアを優しくベッドに寝かせ、数歩離れた。
アリシアもベッドにうつ伏せの体勢へ変えた。ルークが近づき、確認され、アリシアは了承した。
ルークは服の上から手をかざし、魔力を込めた。
「隠蔽確認、探索印確認……魔法解除」
「これで今後あの者たちが容易にアリシア嬢の前に現れることはないでしょう。国内に三名の入国禁止令を発令していればほぼ確実に表れないでしょう」
「ありがとうございます」
アリシアは仰向けに体勢を変え、疲れたような顔をしている。
ルドワードはそれに気づき、優しくその頭を撫ぜながら休むように促した。
「シア、疲れただろう。披露宴までまだ時間があるゆっくり寝るといい」
「ルド様、傍にいてください」
「しかし」
アリシアは離れていこうとするルドワードの裾を掴んで引きとめた。さっきの今で心細く、怖いのだ。
本来この披露宴までの時間は新郎・新婦共に別々の場所で休むようになっている、ルドワードはそれを気にしたがシリウスに肩を叩かれ、言われた。
「いてやれ、さっきの今だ。心が落ち着かないんだろう」
「俺もジャックスやアルと一緒に扉の前で待機している。だからいてやれよ、兄貴」
「私共も侍女部屋に控えていますので」
「俺たちは姉さんと一緒にいるよ、竜王様が一緒なら大丈夫だろうし」
「そうですね。私たちも用意された部屋で待っていますので」
「ああ、分かった」
全員に促されてルドワードは苦笑しながら留まることにした。
それを確認した面々はそれぞれの場所に向かい始めた。
アリシアがゆっくりと休めるように。
「では、アリシア嬢。ゆっくりお休みなさい」
「はい、ありがとうございます」
全員が扉の外に出るとルドワードは布団の上にいたアリシアを布団の中に入れた。
ルドワード自身も一緒に布団の中に入り、その背中を優しく撫ぜた。
「シア」
「ルド様…ルド様~」
「もう大丈夫だ。俺がそばにいるから、ゆっくり眠れ」
「はい」
「……眠ったか。思った以上にシアの心の闇は深いなぁ……だが、もうそれもおしまいだ。ここからだ、ここから幸せになろう、アリシア」
ルドワードにしがみつきながらアリシアは眠りについた。
このほんの一時だけでアリシアはとても疲れている、顔に疲労感が出ているのだ。
それもそうだろう、向き合いたくもなく、忘れたい過去と向き合ったのだ。
それでもこれでやっとアリシアが抱えていたものはなくなった。ユーザリア国内でのことはシリウスやルークが解決させることだ。
アリシアは本当にここで何も憂いなく幸せになれるのだ。
ルドワードは眠っているアリシアに対して幸せにしていくことを誓い、その額に軽くキスをして目を閉じた。
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