竜王の花嫁

桜月雪兎

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第一章

44、披露宴パーティー③

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 みんなが注目している中、アリシアは無邪気な笑顔でスカルディアを呼んでいる。
「スカル様、早く行きましょう」
「シア姉、そんなに急がなくても食事は逃げない」
「ふふ、ですが美味しそうです」
「調理長が腕によりをかけていますし」
「アリシア様、何がいいですか?」
「そうですね、アレがいいです」
「マテルの酢漬けですね」
 アリシアは周りの食事を見ながら「マテルの酢漬け」を選んだ。「マテル」とは臭みの少ないサーモンのような魚でその酢漬けはいわゆる「カルパッチョ」のようなものだ。
 付け合わせの野菜と一緒にアリシアは口に入れた。
 それは絶妙な味わいだった。
 アリシアはそれだけで顔がほころんでいる。それは周りで見ていたものが微笑ましく思ってしまうほどに。
「おいしいです!」
「それはようございます」
「まだ、いろんなのがある」
「はい!」
 アリシアは興味の惹かれるままにいろんな食事を食べた。
 両国の貴族はそれを微笑ましそうに見ている。年の近い者は話をしてみたいと思いながら遠巻きに見ている。
 遠巻きで見ているのは傍にいるスカルディアが隙もなくけん制しているからだ。
 まぁ、そんなこと食事に夢中になっているアリシアは気付いていない。
 アリシアがいい感じにおなかが膨れるとルドワードがジャックスを伴て傍に寄ってきた。
「おいしかったか、シア」
「はい、ルド様」
「それはよかった。そろそろ玉座に戻ろう」
「はい」
 ルドワードは自分の方にはある程度のものを持ってきてもらい、シリウスたちとアリシアの行動を見ながら食べていた。
 その姿は微笑ましかったのだがスカルディアがけん制しながらも近づこうとしている面々が見て取れた。それがアリシア同様の女性であれば良かったのだが、相手は年若い男どもだ。ルドワードは面白くなくてアリシアを迎えに行ったのだ。
 アリシアは気付いていなかったようだ、ルドワードが迎えに来たことで動けなくなった面々がいたことに。
 ルドワードは勝ち誇ったような顔をしていた。
「おいおい、何もそんな顔しなくても」
「男の嫉妬は醜いですね」
「まぁ、分かるがな。アリシア嬢、可愛いし」
「おや?手放すのは惜しかったですか?」
「まさか!ルドを信頼しているから託したんだ、この選択に後悔はない」
「そうですね」
 シリウスとルークはルドワードや負けた面々を見て呆れていた。
 そうしているとアリシアが戻ってきた。
「シリウス陛下?どうかされたのですか?」
「いや、面白いものが見えただけだよ」
「え?私も見たかったです」
「アリシア嬢は知らなくていいですよ、男の嫉妬だなんて」
「男の嫉妬、ですか?」
「はい」
「ふふ、嫉妬もしてもらえるほど大切にされている方がいるんですね」
「……そうですね、すぐそばにいますよ」
「そうなんですか?」
「はい」
 ルークはアリシアの微笑みながらの言葉に苦笑した。
 男の嫉妬を駆り立てている当事者ではあるのだが本人が気付いていないことをとやかく言う必要はない。むしろ、嫉妬している面々に注意する必要があるだけだ。
 そんな気持ちをルドワードに視線で訴えかけた。ルドワードも理解しているので何も言わず、ルークから視線をずらした。それを見たスカルディアは呆れ、シリウスはまた楽しそうに笑っている。
 仲間はずれなアリシアは首を傾げている。
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