この世界と引き換えに愛を乞う

seto

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その日、乳母が来る事はなかった。
流石にやり過ぎたと思ったのだろうか?
服を脱いで傷の確認をすると、肩から背中にかけて赤黒く変色してしまっていた。しかしこの程度の傷なら、薬がなくても良くなっていくだろう。

カロクは服を直すと、ため息と共にベッドの上へ転がった。体の割に小さな服は、袖も裾も足りておらず、手足がむき出しになってしまっている。
この服も、洗ってもらったのはいつだったか。


日もすっかり落ち、いつものようにカロクの元に光が集う。この光が、魔族の幼体だとわかってもカロクは邪険にする気が起きなかった。辛い時、いつもそばにいてくれた。ローレンスとは別の意味で、とても大切な存在となっていた。

「そうだ。せっかくだし、名前をあげよう。」

カロクはふと思い立って、そう口にする。
その言葉に、光の塊である彼らは不思議そうにゆっくりと自身の体を瞬かせた。

カロクは前世の記憶を頼りに、魔族へと名前を与えた。
赤い光は『蘇芳すおう』。
青い光は『露草つゆくさ』。
緑の光は『白緑びゃくろく』。
紫の光は『竜胆りんどう』。
黄色の光は『黄金こがね』。
黒い光は『黒鳶くろとび』。
白い光は『月白げっぱく』。
全て、色の和名だ。

魔族達は名付けると、嬉しそうに瞬いた。
こんな事ならもう少し早くに名前をつければ良かったと、カロクは思った。

その時、コツコツと扉がノックされた。
ローレンスだ。
カロクはぴょん、とベッドから飛び降り、パタパタと扉へ駆け寄った。背伸びをして扉を開けば、穏やかな笑みを称えたローレンスの姿があった。

「こんばんは、カロク様。」
「じぃ‥‥!!」

カロクが飛びつくと、ローレンスはしっかりとその体を抱きとめてくれた。
初老にさしかかろうと言うのに、その体にはしっかりと筋肉がついており、カロクが飛びついた程度ではビクともしない。それどころか、ヒョイと抱き上げられそのままベッドへと運ばれてしまった。

「お変わりありませんか?」

ローレンスの心地のいい低音に、カロクはこくりと頷づく。

「それはようございました。」

そう言ってベッドの上へおろされ、頭を撫でられた。カロクはたまらなく嬉しくなって、ニッコリと無邪気な笑みを浮かべた。

実はカロクは少しだけ心配していたのだ。
前世を取り戻した事で、自分が自分ではなくなってしまったのではないかと。
だがローレンスに会って確信する。
カロクはカロクだ。
今の不幸な自分を否定したい気持ちはあるけれど、全くの別人になったという感覚はない。むしろ前世を思い出した事で、今までの妙な違和感が解消された。
カロクは前世を含めて、今のカロクがあるようだった。
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