この世界と引き換えに愛を乞う

seto

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それからしばらくして、カロクはローレンスから魔法学の教師が変更となる事を聞いた。
何故突然、とは思ったものの、心当たりはある。サイラスだ。恐らくサイラスが進言をしてくれたのだろう。カロクはじわりと心が暖かくなった。それがたとえ、カロクを魔王としない為だとしても。
その話を聞いた時、ホッとした表情が出てしまったのだろう。ローレンスからは、気づけなくて申し訳ないと謝られてしまった。

とはいえ直ぐに後任が見つかる訳ではないので、もう暫くはキースが担当する事になるとローレンスは言った。ただし授業中には双子の侍従が警戒にあたってくれると言う。よろしくね、と言うと、2人は力強く頷いてくれた。

それからキースの身体的接触はグッと減った。ローレンスからお咎めもあったのだろう。いくら教師と生徒の間柄とはいえ、カロクはこれでも侯爵家の息子。そしてキースは男爵家の出だ。いくら幼いとはいえ、まだ爵位のないキースとカロクでは身分が違うのだ。キースが男爵家を継いでいれば、話は違ったであろうが。

一方でサイラスの訪れも少なくなった。
何やら隣国がきな臭い動きをしているらしい。カロクの父であるオーヴァンも、頻繁に家を空けるようになった。いまだに顔を会わせたことはないが、侯爵家の紋の入った馬車が頻繁に出入りしているのをカロクは知っていた。
もちろん近くに来れば、顔を出してはくれる。だがお茶をしている時間などないようで、一言二言交わす程度だ。それでもカロクは、サイラスの訪いを心待ちにしていた。


そしてついに、カロクは8歳の誕生日を迎える。
ローレンスと双子の侍従。それにローレンスからその話を聞いた上の兄、シリルがささやかながら誕生日パーティーを開いてくれたのだ。

「おめでとう、カロク。」

そう言ってシリルがその眦を細めて笑う。
その言葉に、カロクの目頭がジワリと熱くなった。

「ありがとう、ございます‥っ」

今まで誕生日など祝ってもらったことのなかったカロクは、その言葉だけで泣きそうになってしまった。そんなカロクにシリルは困ったように笑いながら、その頭を撫でてくれた。

「さぁ、これを。気に入るといいんだが。」

そう言ってシリルが小さな箱を渡してくれる。
おずおずとその箱を開くと、中にはカロクの瞳と同じ瑠璃色の石がはめ込まれたブローチが入っていた。

「わぁ‥!」

その美しさに、カロクはその目を輝かせる。
瑠璃色の石と、小ぶりのダイヤモンドがシルバーのチェーンで繋がれている。華美な装飾ではないものの、大人になってもつけられるよう洗練されたデザインとなっている。

「魔法石で作られたブローチだ。守護の魔法がかけられている。」
「ありがとうございます‥!!」

そう言ってパッとカロクは笑った。
その笑顔に、シリルも自然と笑みがこぼれる。カロクは表情が多い方ではない。最近はシリルにも様々な表情を見せてくれるようになったが、それでもここまでの笑顔は貴重だ。

「喜んでもらえたようでよかった。」
「はい‥っ!」

カロクはそういうとブローチをローレンスに着けてもらう。

「どうですか?」
「あぁ、よく似合っている。」

カロクは嬉しそうにそのブローチを撫でた。

「カロク様。こちらは私から。そしてこちらの青い箱は、レンとリンからです。」

そう言ってローレンスから2つの箱を渡される。赤い箱と、青い箱。カロクは一つずつ開封する。赤い箱には、ガラスのペンが。青い箱には、皮のベルトが付いた不思議な形のナイフが入っていた。

「‥これは?」

そういってカロクはナイフと持ち上げる。

「こちらはプッシュナイフと呼ばれるものです。太ももや二の腕に取り付ける事が出来ます。」

その言葉に、シリルが苦笑した。

「いざとなればこれで応戦しろと?」

シリルが言う。

「我々も身を挺してでもカロク様を守る所存ではございますが、万が一の時のために備えておいてもよろしいかと。」

レンが淡々と言う。
双子なりにカロクのことを考えてくれたのだろう。ふわりと笑みを向けると、2人の瞳が微かに開かれた。

「ありがとう、レン。リン。」

そしてカロクはローレンスへと向き直る。

「ローレンスも。大切にするね。」

そう言って箱に戻したプレゼントをぎゅっと抱きしめる。
そんなカロクに、ローレンスはその双眸を緩めて笑った。
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