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「この世界の人間はバカなのか?」
フィオニスが顕現して、初めて発した言葉がこれだ。目の前で繰り広げられる惨状に、フィオニスは思わず頭を抱えたくなった。
「”だから言っただろう? この世界の人間は腐敗しているって。“」
幼神、改め魔神アマルティアの声が、フィオニスの頭の中に響く。フィオニスの近くに浮遊する小型の球体。これはカメラとなっていて、神々はこのカメラを通してフィオニスと外界を見守っているそうだ。
「だからってこれはどうなんだ、女神よ?」
球体にそう呼びかけて、フィオニスは下方を睥睨する。
そこにはニタニタといやらしい笑みを浮かべながら平伏する村人。そしてその隣には生贄と思しき少年。その少年の手の甲には、創造神クレアシオンの紋章が浮かんでいる。どう見ても勇者だ。
「まったく、どこの世界に勇者を魔王に捧げる馬鹿がいるというんだ?」
「“ここに、としか言いようがないねぇ。”」
魔神の声色からも呆れが見て取れる。
すると動かないフィオニスに業を煮やした村人が声をあげる。
「魔王様!! こちらの勇者を生贄として捧げます!! ですのでどうか!! どうかこの村を是非ともご贔屓に!!」
ご贔屓ってなんだ、とフィオニスは思う。
「贔屓に、とは?」
一応、フィオニスは問う。
「言葉のままの意味でございます、魔王様。魔王様はこれから世界征服をなさるのでしょう? ならば、そのお零れに預かりたく‥」
フィオニスは思わず、球体へ視線を流した。球体も、心なしかやれやれといった雰囲気だ。
フィオニスはゆっくりと息を吐き出す。
「勇者1匹ごときで何故私が貴様らを贔屓にせねばならん?」
フィオニスが言う。
「はい?」
村長は笑顔のまま聞き返す。
「私が出来るのは、せいぜいこの村を目零しするくらいだと言っているんだ愚か者め。」
フィオニスは思わず顔を顰めた。
だが、脅すように低めた声色も、村人には効果がないようだ。
「何をおっしゃっているのかよく‥?」
そう笑顔で問い返す村人だが、その目は笑っていない。
「1度見逃してやる程度だと言っているんだ。そんな事も分からんのか。」
フィオニスがそう言うと、村人の態度が豹変する。
「ちっ‥。何が魔王だ、使えねぇな。なら取引はなしだ。さっさと失せな。」
そう言って村人は勇者の頭を引っ掴んで下がろうとする。他の者も追従しようとする所をみると、これが村の総意らしい。
「”どうやら舐められているようだね。“」
魔神の声が響く。
その瞬間、フィオニスの背中が総毛立った。何処か楽しげな声色のはずなのに、底知れぬ恐怖を感じる。
本能に働きかけるかのごとき、恐怖。
あぁ、世界を壊すのは彼女なのだろう。
「”では、衣弦くん。チュートリアルだ。“」
「な、に‥」
その瞬間、村人の首が飛んだ。
全てがスローモーションのように流れていく。さっきまで喚いていた男の首が、放物線を描いて飛んでいく。
(‥は?)
フィオニスのその言葉は、口から出ることはなかった。
どさりと重い音を立てて首が落ちる。フィオニスはその様子を眺めながら、血ってあんな風に吹き出るんだ、と何処か他人事のように考えていた。
「‥!!?」
村人達が目を見張る。
同じく呆然としているはずのフィオニスだが、その口元には怪しげな笑みを浮かべている。
「「”まだ自分たちの立場が分かっていないようだな?“」」
そう言ってフィオニスが軽く腕をふれば、すぐ近くにいた別の男の体が吹き飛んだ。
「ひ、ひぃいぃぃぃ!!!」
村人達が悲鳴を上げながら散り散りに逃げていく。
「「”自分たちが優位だと思い込む劣等種が。“」」
フィオニスの口が勝手に言葉を紡ぐ。
(なるほど‥。チュートリアル、か‥。)
魔神の仕業だと気付くには、数刻もかからなかった。
フィオニスの意志とは裏腹に、その爪が牙が、人々の命を狩っていく。内心青ざめる心とは裏腹に、その口角は楽しげに引き上がり、その瞳は狂喜に輝く。
なるほど、魔王とはこういう事を言うのか。
諦めと絶望がフィオニスの心を染めあげようとしたその時、瞳の端に小さな白金が過ぎる。
(待て、女神!! 勇者は殺すな!!)
フィオニスは心の中で咄嗟に叫んだ。
「“‥‥いいよぉ?”」
1度キョトンとした顔に、ニヤリと怪しげな笑みを広げながら魔神が言う。
その瞬間、ビタリとフィオニスの体が止まった。その血に濡れた鋭い爪が、勇者に届くその寸前で。
「‥‥‥」
あたりは静寂で包まれていた。
生きているものは、フィオニスと勇者以外にない。
だがその勇者も、暗くにごった瞳でフィオニスを見つめているだけだった。
フィオニスが顕現して、初めて発した言葉がこれだ。目の前で繰り広げられる惨状に、フィオニスは思わず頭を抱えたくなった。
「”だから言っただろう? この世界の人間は腐敗しているって。“」
幼神、改め魔神アマルティアの声が、フィオニスの頭の中に響く。フィオニスの近くに浮遊する小型の球体。これはカメラとなっていて、神々はこのカメラを通してフィオニスと外界を見守っているそうだ。
「だからってこれはどうなんだ、女神よ?」
球体にそう呼びかけて、フィオニスは下方を睥睨する。
そこにはニタニタといやらしい笑みを浮かべながら平伏する村人。そしてその隣には生贄と思しき少年。その少年の手の甲には、創造神クレアシオンの紋章が浮かんでいる。どう見ても勇者だ。
「まったく、どこの世界に勇者を魔王に捧げる馬鹿がいるというんだ?」
「“ここに、としか言いようがないねぇ。”」
魔神の声色からも呆れが見て取れる。
すると動かないフィオニスに業を煮やした村人が声をあげる。
「魔王様!! こちらの勇者を生贄として捧げます!! ですのでどうか!! どうかこの村を是非ともご贔屓に!!」
ご贔屓ってなんだ、とフィオニスは思う。
「贔屓に、とは?」
一応、フィオニスは問う。
「言葉のままの意味でございます、魔王様。魔王様はこれから世界征服をなさるのでしょう? ならば、そのお零れに預かりたく‥」
フィオニスは思わず、球体へ視線を流した。球体も、心なしかやれやれといった雰囲気だ。
フィオニスはゆっくりと息を吐き出す。
「勇者1匹ごときで何故私が貴様らを贔屓にせねばならん?」
フィオニスが言う。
「はい?」
村長は笑顔のまま聞き返す。
「私が出来るのは、せいぜいこの村を目零しするくらいだと言っているんだ愚か者め。」
フィオニスは思わず顔を顰めた。
だが、脅すように低めた声色も、村人には効果がないようだ。
「何をおっしゃっているのかよく‥?」
そう笑顔で問い返す村人だが、その目は笑っていない。
「1度見逃してやる程度だと言っているんだ。そんな事も分からんのか。」
フィオニスがそう言うと、村人の態度が豹変する。
「ちっ‥。何が魔王だ、使えねぇな。なら取引はなしだ。さっさと失せな。」
そう言って村人は勇者の頭を引っ掴んで下がろうとする。他の者も追従しようとする所をみると、これが村の総意らしい。
「”どうやら舐められているようだね。“」
魔神の声が響く。
その瞬間、フィオニスの背中が総毛立った。何処か楽しげな声色のはずなのに、底知れぬ恐怖を感じる。
本能に働きかけるかのごとき、恐怖。
あぁ、世界を壊すのは彼女なのだろう。
「”では、衣弦くん。チュートリアルだ。“」
「な、に‥」
その瞬間、村人の首が飛んだ。
全てがスローモーションのように流れていく。さっきまで喚いていた男の首が、放物線を描いて飛んでいく。
(‥は?)
フィオニスのその言葉は、口から出ることはなかった。
どさりと重い音を立てて首が落ちる。フィオニスはその様子を眺めながら、血ってあんな風に吹き出るんだ、と何処か他人事のように考えていた。
「‥!!?」
村人達が目を見張る。
同じく呆然としているはずのフィオニスだが、その口元には怪しげな笑みを浮かべている。
「「”まだ自分たちの立場が分かっていないようだな?“」」
そう言ってフィオニスが軽く腕をふれば、すぐ近くにいた別の男の体が吹き飛んだ。
「ひ、ひぃいぃぃぃ!!!」
村人達が悲鳴を上げながら散り散りに逃げていく。
「「”自分たちが優位だと思い込む劣等種が。“」」
フィオニスの口が勝手に言葉を紡ぐ。
(なるほど‥。チュートリアル、か‥。)
魔神の仕業だと気付くには、数刻もかからなかった。
フィオニスの意志とは裏腹に、その爪が牙が、人々の命を狩っていく。内心青ざめる心とは裏腹に、その口角は楽しげに引き上がり、その瞳は狂喜に輝く。
なるほど、魔王とはこういう事を言うのか。
諦めと絶望がフィオニスの心を染めあげようとしたその時、瞳の端に小さな白金が過ぎる。
(待て、女神!! 勇者は殺すな!!)
フィオニスは心の中で咄嗟に叫んだ。
「“‥‥いいよぉ?”」
1度キョトンとした顔に、ニヤリと怪しげな笑みを広げながら魔神が言う。
その瞬間、ビタリとフィオニスの体が止まった。その血に濡れた鋭い爪が、勇者に届くその寸前で。
「‥‥‥」
あたりは静寂で包まれていた。
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