私が世界を壊す前に

seto

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フィオニスはまず、エルフ達を家族単位で分けた。
家族ごとに整列するよう伝えると、エルフ達は困惑しながらもその言葉に従った。最初に名乗り出た男は、どうやらこの集団のまとめ役を担っているようだ。男の指示に従って、エルフ達が動く。
「これで全部か。」
「は、はい‥。」
男が力なく答える。何をさせられるのかと、怯えているようだ。フィオニスはそんなエルフ達を無視して、崖下の森へ手を翳す。
「10‥はいるか。だが、そうだな‥。少し多めに見繕うか。」
そういうとフィオニスの指先から青紫の光がはじけ、魔法陣が広がった。城を建てた時よりも広い範囲で魔法陣を展開する。
エルフ達はその様子を息を飲んで見守っている。
「わぁ‥」
誰ともなく言葉が漏れた。
赤煉瓦の石畳。立ち並ぶ家々は、テラコッタの屋根に防火性に優れた漆喰の壁。所々に木々を残し、自然と調和させた美しい西洋の街並みを創造した。その分多く魔力を消費したが、美しい城に見合った城下町を再現することに成功した。
すると、待ちきれないといった様子で魔神が言う。
『“中を弄っても?”』
「あぁ、好きにしてくれ。」
そう返すと、魔神はうきうきした様子で町へと降りて行った。
「さて。」
フィオニスはエルフ達へ向きなおる。
エルフ達は恐怖も忘れて呆然としていたが、フィオニスに声をかけられるとその佇まいを直した。
「お前たちにはここで働いてもらう。その代わり、家も食事も与えてやろう。」
エルフ達はぽかんとしたまま、フィオニスの言葉を聞いている。だが、非現実すぎて受け入れられていないようだ。
だが、フィオニスは気にせず続ける。
「家は、そうだな‥。お前、名は?」
「ぁ、私、ですか‥?」
「ほかに誰がいる。」
まとめ役の男は、その顔に困惑を張り付けている。
「私は、オーレリアンと申します。」
「ではオーレリアン。お前が振り分けろ。」
「は‥?」
オーレリアンは年のわりに穢れが少ない、この世界では珍しい魂だ。エルフのことは彼に任せておけば問題ないだろう。
「食事はしばらくは援助してやる。だが、そのうち自給自足出来るように。食事が行き届くようになったら、税として余った分を納めよ。」
いいな?と念を押すと、呆けていたエルフ達の間に動揺が走る。するとオーレリアンがおずおずと口を開く。
「あ、あの‥っ」
「なんだ?」
「我々は貴方様の所有物になったのですよね?」
「そうだな。」
「これでは待遇が良すぎます。まるで我々に、ここの住人になれと言っているようなもので―‥」
「そうだと言っている。」
そう言ってフィオニスがクッと口角を上げた。
話はそれだけか、と問えば、オーレリアンの瞳があり得ないほど見開かれた。
「‥っ!!」
その言葉をようやく飲みこんだオーレリアンが、ザっと平伏した。それに合わせて、他のエルフ達も同じように頭を下げる。中には泣いている者もいるようだ。
「ぁ、ありがとうございます‥!! ありがとうございます‥!!」
「そういうのは実際暮らしてみてから言うんだな。思った以上に、苦行やもしれんぞ。」
そう言ってフィオニスは踵を返した。
「ニコラス。」
「はっ、ここに。」
「まずは彼らに農業を教えろ。」
「承知いたしました。」
ニコラスは早速エルフ達の元へと向かおうと踵を返した。
「待て。」
「はい。」
「何もないとは思うが、ジークフリートかディルムッドを連れて行くといい。」
「かしこまりました。ご配慮いただき、感謝いたします。」
フィオニスが背後に控える二人の騎士へ視線を流せば、ジークフリートが頷きニコラスの背後へと回る。
「‥すまないな、こんなことまで頼んで。」
フィオニスが言う。ニコラスはその言葉に目を見開いた。
元々は勇者シリウスの教師役として召喚されたニコラスだ。そのため、フィオニスはそれ以上の仕事を押し付けてしまっていることに気付き、憂いていた。
だが、ニコラスはふわりと柔らかな笑みを浮かべる。
「いいえ、フィオニス様。」
ニコラスはゆるく首を振ってから、穏やかな眼差しでフィオニスを見つめる。
「こんな私を頼って下さり、恐悦至極。ため込んだこの知識が役に立つというのならば、これ以上の誉れはありません。」
「‥ありがとう。」
そう言ってフィオニスは眦を緩めて笑った。
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